選挙研究におけるパラダイムの転換は,科学におけるパラダイムの転換ほど根本的な宇宙観の転換ではないが,トーマス•クーンが指摘しているような特徴が,選挙研究におけるパラダイム転換にも当てはまるのではないか。選挙研究では伝統的な政治学から行動科学主義へ,そして合理的選択論へとパラダイムは変遷しているが,このようなパラダイムの転換が必ずしも選挙研究が真理へ向かって進歩しているとは限らないのではないだろうか。真理というものが,異なるパラダイムからは異なった形に見えるならば,パラダイムの転換は視点の転換であり,そのような異なった視点やパラダイム間における相互作用が,互いに補完して我々を新たな方向へと導くのであろう。特に,経験的な帰納法による行動科学的アプローチと演繹的な合理的選択論のアプローチとは,相互に排除するものではなく,相互に補完的なはずである。