Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Mediastinal parathyroid lesion in a patient with multiple endocrine neoplasia type 1 (MEN1)
Erin NagaiHiroki TokumitsuKeiko NatoriRumi SuzukiAkiko KawamataAkiko SakamotoKiyomi HoriuchiMasatoshi IiharaTakahiro Okamoto
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2012 Volume 29 Issue 1 Pages 66-70

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抄録

多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)症例に縦隔内腫瘍を認めた場合,縦隔内副甲状腺腫やカルチノイド腫瘍などを考えるが,画像所見ではその鑑別診断は難しい。MEN1患者の縦隔内副甲状腺腫瘍を頸部操作のみで摘除できた症例を経験したので報告する。症例は68歳,男性。原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)に対し3腺摘除術(詳細不明)を施行された8年後にMEN1の診断で当院受診された。CTにて甲状腺右葉下極に接する1cm大の副甲状腺と思われる腫瘍と右上縦隔内に3cm大の腫瘤を認めた。縦隔内腫瘍は画像所見ではカルチノイド腫瘍との鑑別が困難であったため頸部操作の後に胸骨正中切開での腫瘍摘除を予定したが,頸部操作のみで両者を摘除することができた。病理組織診断はいずれも副甲状腺過形成であった。

はじめに

多発性内分泌腫瘍症1型(multiple endocrine neoplasia type1:MEN1)症例に縦隔腫瘍を認めた場合,縦隔内に発生した副甲状腺病変やカルチノイド腫瘍,胸腺腫などを考えるが,画像検査の所見から診断することは難しい。また,外科治療の際の手術アプローチも検討すべき課題となる。原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:PHPT)が術後に再発し,頸部と上縦隔の2ヵ所に腫瘍を認めるMEN1症例を経験した。前者を副甲状腺病変,後者をカルチノイド腫瘍と診断し,開縦隔の準備をして手術に臨んだ。

症例

患者:68歳,男性。

主訴:下腿浮腫。

家族歴:父:胆管癌,母:脳出血,長兄:MEN1(プロラクチン産生下垂体腺腫およびPHPT),姉:プロラクチン産生下垂体腺腫およびPHPT,次兄:脳梗塞,長女:プロラクチン産生下垂体腺腫およびPHPT,長男:非機能性下垂体腫瘍,次男:高カルシウム血症。

既往歴:20歳代から高血圧を指摘され40歳代半ばより内服開始。45歳時急性肝炎。60歳時膀胱癌TUR-BT施行。

生活歴:喫煙・飲酒 なし,アレルギー 食物・薬なし。

現病歴:40歳時に反復する胃潰瘍の精査で高カルシウム血症を指摘され,PHPTの診断となり他院にて3腺摘除術を施行された。48歳時に長兄のかかりつけであった当院内科にてMEN1(下垂体腫瘍なし,膵臓腫瘍なし,非機能性右副腎腫瘍あり,PHPT(腎結石型)あり,高ガストリン血症あり)の診断となった。この時すでにPHPTは再発していたが軽症であったため経過観察されていた。平成22年に膀胱癌の経過観察目的に施行されたCT検査で甲状腺右葉下極に接する腫瘤と,右上縦隔内で気管に接する腫瘤を認められ,MRI,FDG-PET,ホルモン検査を施行後,精査と加療を目的に当科紹介された。

入院時現症:身長158cm,体重59㎏。頸部に腫瘤を触知せず,リンパ節腫大も認めなかった。

血液検査所見:アルブミン4.0 g/dl ,ALP 422 U/l ,尿素窒素26.1 mg/dl ,クレアチニン1.62 mg/dl ,カルシウム11.6 mg/dl ,無機リン2.4 mg/dl ,intact PTH 994 pg/ml ,ガストリン8,100 pg/mlとPHPTの所見および腎機能の低下,高ガストリン血症を認めた (表1) 。Cca/ Ccr = 0.027と0.01以上であり家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症は否定的であった。

表1. 術前採血結果

造影CT検査所見:甲状腺右葉の尾側に下極に接して約1cmの,そして上縦隔で気管右背側に接して約3cmの,いずれも内部がやや不均一に造影される腫瘤を認めた (図1) 。部位と造影所見から前者は副甲状腺病変,後者は神経原生腫瘍が考えられた。

図1.

胸部CT(単純・造影)

甲状腺右葉の尾側に下極に接して約1cm大,気管右背側に接して約3cm大の腫瘤。いずれも内部がやや不均一に造影される。

胸部MRI検査所見:上縦隔の気管右背側に3.2×5.0cm大の境界明瞭な楕円形腫瘤を認めた。腫瘤内部はT1W1で尾側の低信号と頭側の中等度信号部,T2W2では高信号内にやや低信号成分の混在を認めた (図2) 。これらの所見からは神経鞘腫,気管粘膜下腫瘍が考えられた。

図2.

単純MRI

気管右背側の3.2×5.0 cm大の腫瘤。T1強調画像で低信号と中等度信号部,T2強調画像で高信号内にやや低信号成分の混在を認める。

FDG-PET検査所見:腫瘤に一致した集積は認められなかった。

甲状腺超音波検査所見:甲状腺右葉下極に11×10×9mm大の血流豊富な副甲状腺腫瘤を認め,さらに尾側に一部観察可能な血流豊富な低エコー腫瘤を認めた。

気管支鏡検査所見:気管支内腔の粘膜変化や狭窄は認めなかった。

99mTc-MIBIシンチグラフィ検査所見:両腫瘤に集積を認め,頭側の腫瘤でより強い集積を認めた (図3) 。いずれも副甲状腺病変であると考えられたが,上縦隔の腫瘤はカルチノイド腫瘍の可能性を否定できなかった。

図3.

Tc-99m MIBIシンチグラフィ

頸部と上縦隔にdelayed imageでも残存する集積を認める。

手術所見:術前診断は頭側腫瘍を副甲状腺腫瘍,尾側を副甲状腺腫瘍もしくはカルチノイド腫瘍とした。気管への浸潤も否定できなかったため,頸部切開で頭側腫瘍を摘出した後,呼吸器外科と連携し胸骨正中切開を加えて上縦隔腫瘍を摘出する手順の方針で手術に臨んだ。襟状切開で甲状腺右葉下極へ達し右気管傍を検索すると反回神経の腹側に赤色調を呈する腫大副甲状腺を認めこれを摘除した。右下腺の腫大と考えた。さらに反回神経の背側には尾側腫瘍の上縁を触れた。周囲との明らかな癒着なく用手的に術野まで押し上げることができたので,これを摘除した。肉眼所見から右上の副甲状腺腫瘍と推測した。摘出した右下副甲状腺の一部111 mg相当の組織を約1×1×1 mm大の25ピースに細切し左腕橈骨筋々膜下に自家移植した。

摘出標本肉眼所見:頭側腫瘍は径19×13×10mm,重量1.5g(うち111 mgを自家移植),尾側の腫瘍が径47×32×25mm,重量23gで一部暗赤色調で囊胞化をきたしていた (図4)

図4.

摘出標本

右)上縦隔内の腫瘍。径47×32×25mm,重量23gで一部が囊胞化していた。

左)頭側腫瘤は径19×13×10mm,重量1.5g。

病理組織学的診断:両腫瘍ともに主細胞と一部好酸性細胞の増生を認め,副甲状腺過形成と診断した。

術後経過:術中に測定した血中intact PTH値は両腫瘍摘出前が994 pg/ml,両腫瘍摘出1時間後が113 pg/ml,そして手術翌日のintact PTH値は14 pg/mlと低下した。乳酸カルシウムとビタミンD製剤の経口投与を行い術後8日目に退院とした。同内服下で術後3ヵ月目のintact PTH値は17 pg/ml,カルシウム9.0 mg/dl,無機リン 4.4 mg/dl,ALP 184 U/I と経過良好であった。

考察

一般的にMEN1に上縦隔腫瘍を合併した場合,異所性の副甲状腺腫瘍やカルチノイド腫瘍,胸腺腫との鑑別が必要である。MEN1の約10%でカルチノイド腫瘍を合併し,合併例ではリンパ節転移や遠隔転移例をきたして生命予後を規定することも多いとされている[1,2]。したがってカルチノイド腫瘍は術前に鑑別すべき疾患として最も重要であるが,カルチノイド症候群を呈することは稀である。また本例のように副甲状腺腫瘍との鑑別が問題となる場合,細胞診や組織診は腫瘍細胞を播種する懸念があり安易に施行すべきではない[1,2]。そのため両者の鑑別には画像検査の所見が重要となる。PHPTの部位診断に用いる検査としては超音波検査,CT,MRI,99mTc-MIBIシンチグラフィが挙げられる。超音波検査は簡便で施行しやすい検査であるが異所性の場合には観察・同定が困難である。一方,技術等に影響されず感度・特異度ともに高く,異所性の病変を効率的に検索できるという点で99mTc-MIBIシンチグラフィは有用な検査であると言える[4,5]。しかし鑑別診断として用いるには99mTc-MIBIシンチグラフィはカルチノイド腫瘍でも集積を認めることがあり[6,7], 表2 8,9]に示すように両者の画像での鑑別に有用な検査としてはソマトスタチン受容体シンチグラフィ(somatostatin receptor scintigraphy:SRS)があげられる。ソマトスタチン受容体にはsstr1から5のサブタイプが知られており,副甲状腺にもsstr1,3,4の発現が認められているが[10],SRSの陽性率はsstr2,5の発現量を反映していることからカルチノイド腫瘍やインスリノーマ,ガストリノーマ等の神経内分泌腫瘍の検出に優れており[1112],両者の鑑別に有用であると考えられる。ただし日本では保険適応外であるためその適応に関しては慎重に検討する必要があるだろう。

表2. 副甲状腺腫とカルチノイド腫瘍の鑑別

上縦隔内の副甲状腺腫瘍は頸部操作のみで摘出可能な場合が多く知られている[3,13]。本症例も頸部から用手的に剝離をすすめて摘除することが可能であったが,カルチノイド腫瘍であれば縦隔内での癒着や気管浸潤等で摘除が困難となることも予想されたため,術前の評価から手術内容の説明,そして術後管理まで呼吸器外科と連携して準備を進めた。予想される手術の困難さや周術期の危険に対してこうした万全の準備を整えることが安全な医療の実現につながるものと考えている。

結語

PHPT再発の診断で頸部と縦隔に腫瘍を認めるMEN1症例を経験した。MEN1随伴病変との鑑別および手術アプローチについて,若干の文献的考察を加えて報告した。

【文 献】
 

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