Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Surgical treatment of thyroid tumor
Akihiro MiyaAkira Miyauchi
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2012 Volume 29 Issue 1 Pages 8-12

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抄録

本邦では2010年に甲状腺腫瘍診療ガイドラインが出版されたのでそれを参考に甲状腺腫瘍の外科治療の解説を行った。甲状腺腫瘍は組織型によって治療法が異なるので,手術前に組織型診断まで的確に鑑別診断を行い治療することが重要である。鑑別診断には超音波検査,細胞診は非常に有用である。乳頭癌はTNM分類に応じてリスクを評価し甲状腺の切除範囲,リンパ節郭清の範囲を決める。濾胞癌の術前診断は困難である。遠隔転移が判明している場合は最初から全摘術を行うが,ほとんど場合は濾胞癌を疑う臨床所見があるために片葉切除を行い,病理組織検査の結果に応じて追加治療を検討する。髄様癌は術前にRET遺伝子の検査が必要で,遺伝性の有無に応じて甲状腺の切除範囲を決める。少なくとも気管周囲のリンパ節郭清は必須である。甲状腺腫瘍は組織型によって治療が異なることを理解したうえで外科治療の適応を考える必要がある。

はじめに

最近様々な画像診断が進歩し検診で甲状腺結節を発見される機会が増えている。それに伴いこれらの結節を適切に診断し外科的治療の適応を判断することが求められている。甲状腺腫瘍は組織型によって治療法が異なるので,組織型診断まで的確に鑑別を行い治療することが重要である。甲状腺癌の特徴としてほとんどの腫瘍では生命予後が良好なため長期間の経過観察が必要である。一方,未分化癌のように予後が非常に悪い腫瘍もある。また,放射性ヨード内用療法など甲状腺癌に特異的な治療がある。したがってこれらのことを理解したうえで治療方針を決め,その中で外科治療の役割を考える必要がある。本邦では2010年に甲状腺腫瘍診療ガイドラインが出版されたのでそれを参考に解説し,当院のデータも紹介する。

Ⅰ. 甲状腺結節の診断

甲状腺腫瘍診療ガイドライン[1]の甲状腺腫瘍の診断と管理のアルゴリズムを図1に示す。補足としては,嗄声を認めた場合は声帯麻痺の有無を調べ,甲状腺中毒症があれば放射性ヨードでシンチグラフィや摂取率を調べる。細胞診はその手技の簡便性と感度・特異度の高さから強く推奨されており(ガイドラインCQ8推奨グレードA),良性・悪性の鑑別だけではなく,組織型の診断まで可能であり重要な意義がある。適切な細胞を採取するためには超音波下に腫瘍のどの部分が適切かを確認し穿刺することが重要である。アルゴリズムにより結節を良性,要鑑別,悪性の3つのグループに分ける。

図1 .

甲状腺腫瘍の診断と管理

1 . 良性と診断された結節

腺腫様結節,腺腫様甲状腺腫,濾胞腺腫などが含まれる。その多くは経過観察となるが,大きい腫瘤の場合,増大傾向がある場合,圧迫症状がある場合,整容性に問題がある場合,縦隔内へ進展する場合は手術の適応になる(コラム5)。長期間大きさが変化しない場合が多いが,4〜22%は50%以上増大するとの報告がある(CQ10 推奨グレードB)。頻度は低いが将来悪性と判明する腫瘍が含まれていることを認識しておく必要がある。ヨード過剰地域である本邦では腫瘍縮小に対してTSH抑制療法の有効性は少ないので積極的には推奨できないとされた(CQ11 推奨グレードC2)。

2 . 要鑑別と診断された結節

濾胞性腫瘍の場合と他の悪性腫瘍を疑うが悪性と診断できない場合がある。濾胞性腫瘍には濾胞腺腫,濾胞癌あるいは細胞成分が多い腺腫様結節との鑑別が困難なものが含まれる。

濾胞癌の術前診断は困難で腫瘍細胞の被膜浸潤,脈管侵襲,転移形成のいずれかを伴うことで濾胞癌と診断される。超音波検査,細胞診,肉眼所見などでは良性結節との鑑別は困難で組織学的確定診断が必要である。したがって当院では表1のような濾胞癌を疑う臨床所見がある場合に手術を勧めている。また血流が豊富で貫入する太い腫瘍血管がみられる場合,エラストグラフィで硬く表示される場合,充実性腫瘍で経過観察中に増大する場合,血中サイログロブリン値が継続的に上昇する場合なども手術を勧める[2]

表1. 濾胞癌を疑う臨床所見

髄様癌を疑うが細胞診で鑑別診断が困難な時は穿刺物中のカルシトニンを測定し補助診断に使用する[3]

3 . 悪性と診断された結節

乳頭癌,濾胞癌,髄様癌,低分化癌,未分化癌,悪性リンパ腫やそのほかITET/CASTLEなどのまれな悪性腫瘍が含まれるが,組織型によって治療法が異なる。今回はこのうち頻度が高い乳頭癌,濾胞癌,髄様癌を中心に解説する。1cm以下の微小乳頭癌に関しては経過観察という選択肢があり乳頭癌とは別に紹介する。

Ⅱ. 微小乳頭癌

微小癌であっても遠隔転移を伴う症例があることも事実であるが,剖検の結果を見ても比較的高頻度でラテント癌を認めることから,本当に手術が必要な症例を選び出そうという考えで隈病院では1993年から微小癌に対してリスクを評価し低リスクの場合は経過観察もひとつの方法であると提案してきた[4]。杉谷らの低危険度と高危険度に分類し報告した結果[5]も概ね我々と同じであった。これらの結果から今回のガイドラインでは術前診断(触診や・頸部超音波検査など)により明らかなリンパ節転移や遠隔転移,甲状腺外浸潤の徴候のない患者が,十分な説明と同意のもと非手術経過観察を望んだ場合,その対象となり得るとされた(推奨グレードC1)。

Ⅲ. 乳頭癌

1 )甲状腺切除範囲

欧米のガイドラインでは全摘術と放射性ヨード内用療法を組み合わせ,TSHを抑制しサイログロブリンの測定によって経過観察することが推奨されているが[6,7],日本では片葉切除術が広く行われており,医療事情から放射性ヨード内用療法をルーチンに行うことはできない。今回のガイドラインでは全摘術は残存葉再発を予防できるが(CQ17推奨グレードA),リンパ節再発と遠隔転移は減らせないため(CQ17 推奨グレードC1),ハイリスクと評価した乳頭癌に対して全摘術を推奨するとなった(CQ17 推奨グレードB)。

全摘のメリットとして,血中サイログロブリン値が再発の指標になること,放射性ヨードによるablationや再発を疑って全身シンチグラフィを行う場合,内用療法を行う場合に直ちに行える点がある。遺伝子組換え甲状腺刺激ホルモンが使用できるようになったので全摘術が増える可能性がある。最近の知見としては,宮内らは全摘後のサイログロブリンDoubling-Timeが強力な予後因子になることを報告した[8]。デメリットとして副甲状腺機能低下症や反回神経麻痺の増加があげられるが,外科医の習熟度による影響が大きいので外科医のさらなる努力が求められる。

2 )頸部リンパ節郭清

欧米では外側区域の予防的郭清は行われていない。一方,我が国では放射性ヨード治療の適応がかなり制限されているので予防的郭清がよく行われてきた。日本のガイドラインでは,気管周囲リンパ節郭清が生命予後を向上されるという明らかな根拠はないが,再手術の際には合併症の発生頻度が増すことを考慮すると,初回手術時気管周囲リンパ節郭清を行う方がよく,明らかな転移がある場合には,気管周囲のリンパ節郭清は予後を向上させるとされている(CQ18 推奨グレードB)。また,内深頸リンパ節郭清が生命予後を向上されるとの根拠は乏しいが,局所リンパ節再発のリスクを減少させ再発予後を改善するとされている(CQ19 推奨グレードB)。

予防的外側区域郭清のメリットはリンパ節再発率の低下,再手術率の低下で,デメリットは手術時間の延長,手術瘢痕の延長,手術範囲の広がりに伴った術後愁訴の増加などである。予防的郭清を行わなかった場合,再発による再手術率をどの程度許容するか,愁訴の増加をどの程度許容するかなど意見が分かれるところである。

3 )乳頭癌の治療方針

日本のガイドラインのアルゴリズムを図2に示す。ハイリスクと評価した乳頭癌に対して全摘術を推奨する(推奨グレードB)となった。どのような症例をハイリスクと評価するか議論され,5cmを超える大きな腫瘍,3cm以上のリンパ節転移,内頸静脈・頸動脈・反回神経などの主要な神経・椎前筋膜へ浸潤するリンパ節転移,累々と腫れているリンパ節転移,気管および食道粘膜面を越えるEx,遠隔転移を伴うものとされた。一方,T1(2cm以下)N0M0の明らかに低リスクと評価されるものは葉切除でよいとされた。これらのどちらにも当てはまらない症例はグレーゾーンとしてかなりの幅のある症例が残るが,T3(4cm以上),明らかなN1(N1a・N1bを問わず)には全摘術を勧めることが提案された。

図2 .

甲状腺乳頭癌の診断と管理

グレーゾーンとされる症例に対して当院では,T2(<3cm)N0では全摘+中央領域の郭清のみで,T2が3cm以上では全摘+外側区域の郭清としている。

Ⅳ. 甲状腺濾胞性腫瘍

濾胞性腫瘍の治療方針のアルゴリズムを図3に示す。頻度は少ないが肺や骨などの遠隔転移が判明している場合は最初から全摘術を行う。ほとんど場合は表1のような濾胞癌を疑う臨床所見があるために手術(片葉切除)を行い診断される。病理組織型による分類では,広汎浸潤型は微少浸潤型に比較して予後が不良になる。特に脈管侵襲の程度が有意に予後と相関する(CQ22 推奨グレードB)。したがって病理診断された濾胞癌が広汎浸潤型であった場合や,insular componentなどの低分化成分を多く含む場合は,甲状腺補完全摘を行い,放射性ヨードを用いた遠隔転移巣の検索や放射性ヨード内用療法を行うことが勧められている。(CQ23 推奨グレードB)広汎浸潤型の場合はさらにこの後TSH抑制療法を継続することが妥当と考えられている。(CQ24 推奨グレードC1)

図3 .

甲状腺濾胞性腫瘍の診断と管理

Ⅴ. 甲状腺髄様癌

髄様癌の治療方針のアルゴリズムを図4に示す。治療方針を決定するうえで最も重要なことは,術前に遺伝性と散発性を鑑別することである。

図4 .

甲状腺髄様癌の診断と管理

遺伝性髄様癌はRET遺伝子の胚細胞性変異を伴い,常染色体優性遺伝形式をとり,多発性内分泌腺腫瘍症2A型,多発性内分泌腺腫瘍症2B型,家族性甲状腺髄様癌に分類される。家族歴や合併病変がなく臨床的に一見散発性にみえる患者の約4〜10%にもRET変異が認められる。したがってすべての髄様癌について,RET遺伝子検査を行うことが推奨される。(CQ26 推奨グレードA)両側性,多発性に髄様癌が発生するため甲状腺全摘術が必要である(CQ28 推奨グレードA)。

欧米のガイドラインでは散発性髄様癌に対しても全摘を勧めているが,当院の研究ではRET遺伝子検査で変異がなく,超音波検査で片葉の病変と診断した散発性症例では術後のカルシトニン値正常率は全摘術と同様であった。この結果から,全摘術は非全摘と比較すると再発や死亡の予後を改善するかは明らかでないとされた(CQ28推奨グレードC1)。なお,片葉切除の場合でも対側気管傍リンパ節は郭清する必要がある。

リンパ節郭清の有無や郭清範囲の違いがどのように予後に影響を与えるかは明らかでない。しかし,少なくとも気管周囲郭清は必須であり,患側あるいは両側の側頸部郭清の追加については,髄様癌の予後因子を踏まえ,個々の状況に応じて決定するとされた(CQ28推奨グレードC1)。

それでは外側区域の予防的郭清の適応をどうすればよいか。髄様癌は乳頭癌や濾胞癌と異なり放射性ヨード内用療法は効果がなく外科的切除以外に有効な治療がない。当院の研究では術前N0と診断した症例でも約20%の外側領域に転移が認められたので,我々は超音波検査で認識できる0.5cm以上の髄様癌に対しては同側の予防的郭清を行っている[9]

予後不良因子としては,高齢,男性,リンパ節転移,甲状腺被膜外進展,遠隔転移,(準)全摘に満たない手術,非根治手術が報告されている。術後カルシトニンの正常化を期待できない因子として術前基礎カルシトニン高値とリンパ節転移が指摘されている。進行・再発症例では血清カルシトニン値やCEA値のdoubling timeが予後を反映する。(CQ30推奨グレードB)

Ⅵ. 進行癌の外科治療

反回神経を切除した場合に神経を再建しても声帯の動きは改善しないが,声帯内筋の萎縮を防止し発声機能は改善を期待できる。反回神経浸潤例において神経合併切除の適応は,術前反回神経麻痺が存在する場合は甲状腺癌を完全に切除するため反回神経を合併切除し,可能な限り反回神経を修復することが推奨される。(CQ45 推奨グレードB)術前反回神経麻痺を認めない場合は,論議はあるが術後の声帯の動きを維持しQOLを低下させないため反回神経を温存することが多い。(CQ45 推奨グレードC2)

おわりに

甲状腺腫瘍は組織型によって生物学的性質,悪性度が異なるので,鑑別診断を行いそれに応じた治療法を選択する必要がある。これらの特徴をよく理解したうえで外科治療の適応を検討することが必要である。

【文 献】
 

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
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