Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Two cases of primary hyperparathyroidism caused by large parathyroid adenomas resembling thyroid tumor
Seigo TachibanaShinya SatoTadao YokoiNobuhiro NakatakeShuji FukataJunichi TajiriHiroyuki Yamashita
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2012 Volume 29 Issue 1 Pages 80-84

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抄録

甲状腺病変との鑑別を要した原発性副甲状腺機能亢進症(pHPT)の2例を呈示する。(症例1)38歳女性。乳癌検診を機に甲状腺左葉の濾胞性腫瘍と診断され,手術目的で当院受診となった。細胞診で副甲状腺由来の異型細胞が疑われ,生化学的にもpHPTの所見であった。よって甲状腺内の結節性病変を腫大腺と診断し,副甲状腺腺腫摘出術を施行した。(症例2)57歳男性。前医で高Ca血症を指摘され,生化学的にpHPTが疑われた。頸部USでは甲状腺右葉に径40mmの腫瘤性病変を認め,細胞診並びに,穿刺針の洗浄液のintact PTH(FNAB-PTH)測定を施行した。細胞診は良性で,FNAB-PTHは5,000pg/ml以上であった。甲状腺の結節性病変を腫大腺と診断し,副甲状腺腺腫摘出術を施行した。2例とも組織診断は副甲状腺腺腫であった。結節性甲状腺腫の診断時には,甲状腺病変との鑑別を要するpHPTも念頭に置き,Ca,IPを測定することが重要と考えられた。

はじめに

原発性副甲状腺機能亢進症(pHPT)は,副甲状腺の腫瘍化あるいは過形成といった病的副甲状腺からの副甲状腺ホルモン(PTH)の自律的かつ過剰な分泌により引き起こされる疾患で,骨粗鬆症,尿路結石などを来す。治療は原則として手術療法で,その適応はNIHカンファレンスのガイドラインなどで示されている[1]。手術適応と判断された場合,病的副甲状腺の局在が重要となってくるが,その局在診断が容易ではない症例もめずらしくない。病的腺の同定が困難な症例の多くは,病的腺が小さく,画像検査で同定できない例,あるいは,異所性に病的腺が存在する例である。今回,我々は,比較的大きな腫大副甲状腺にも関わらず,甲状腺結節との鑑別を要した症例を経験したので報告する。

症例1

38歳,女性。乳癌検診の際,頸部超音波検査(US)にて甲状腺腫瘍を指摘され,甲状腺専門クリニックを受診した。頸部US,穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration biopsy,以下,FNAB)にて甲状腺左葉の濾胞性腫瘍の診断にて,手術適応と判断され,当院紹介受診となった。既往歴,家族歴に特記事項なし。飲酒,喫煙なし。初診時理学所見は頸部触診上,甲状腺左葉に柔らかく可動性良好の腫瘤を触知した。その他,異常所見は認めなかった。頸部USでは甲状腺左葉に境界明瞭で内部低エコー,血流の豊富な腫瘤を認めた (図1a) 。濾胞性腫瘍に典型的な超音波所見ではなく悪性リンパ腫の鑑別が必要と考え,FNABの再検を行った。その後,血液検査で高カルシウム血症,低リン血症(Ca11.6mg/dl,IP1.7mg/dl)を認めたので,FNABを行った腫瘍は腫大副甲状腺の可能性が高いと考えた。生化学的には 表1 に示すように,pHPTに矛盾しない結果であった。甲状腺機能は 表1 に示す通り正常範囲内であり,その他,血液検査にて異常所見は認めなかった。頸部USの再検では,他に腫大副甲状腺を疑わせる病変は指摘できなかった。頸部CTでも甲状腺内に低吸収結節を指摘できるのみであった (図1b) 。再検したFNABでは,副甲状腺由来の異型腺系細胞が疑われ (図2a) ,甲状腺結節と診断されていた腫瘍が病的副甲状腺である可能性が強く疑われた。手術は,患側寄りで6cmの横切開を置き,甲状腺外側よりアプローチした。上甲状腺動静脈を処理し,腫瘍を確認した後,甲状腺と腫瘍の間を少しずつ剝離し腫瘍を摘出した。反回神経の損傷はなし。摘出重量は3,790mgであった。術後病理は副甲状腺腺腫の結果であった (図2b) 。術後のインタクトPTHは20pg/mlと有意に低下し,Ca8.7mg/dl,IP3.8mg/dlと改善を認めた。術後は,一時的にアルファカルシドール1.0μg/日,アスパラギン酸Ca600mgの補充を行ったが,漸減中止が可能であった。なお,本症例は,当院受診まで血清Caは測定されていなかった。

表1. 術前副甲状腺機能・甲状腺機能検査
図1.

【画像所見:症例1】

a: 【頸部超音波検査:症例1】甲状腺左葉に辺縁整,境界明瞭で血流に富む充実性腫瘤を認める。US上は悪性リンパ腫の鑑別も必要な所見。

b: 【頸部造影CT:症例1】甲状腺左葉内に甲状腺腫瘍が疑われる低吸収結節を認める。その他,明らかな腫大副甲状腺を疑わせる所見は認めない。

図2.

【病理学的検査:症例1】

a:【細胞診所見:症例1(パパニコロウ染色:400倍)】核径軽度増大,N/C比増大,核クロマチン増量をみる副甲状腺上皮細胞の腺管状,腺房状配列を認める。軽度の核重積性,一部明瞭な核小体も認められ,副甲状腺由来の異型腺系細胞が疑われる。

b:【組織所見:症例1(HE染色:40倍,400倍)】副甲状腺の全体に主細胞(一部好酸性細胞あり)の管状〜包巣状増生が見られ,豊富な血管を随伴している。被膜やatrophic rimは見られないが,病変内に脂肪細胞が見られないこと,術中所見で1腺腫大であったことなどから,総合的に副甲状腺腺腫に矛盾しない所見であった。

症例2

57歳,男性。かかりつけ医で高カルシウム血症を指摘され,前医を受診。前医受診時, 表1 のようにpHPTが疑われた。家族歴,既往歴に特記事項なし。飲酒,喫煙なし。初診時理学所見は,頸部触診上,甲状腺右葉に比較的柔らかく,可動性良好な腫瘤性病変を触知した。その他,異常は認めなかった。頸部USでは,甲状腺右葉に最大径40mmで辺縁整,境界明瞭,囊胞成分を伴う充実性腫瘤を認めた (図3a) 。同部位からのFNABを行う際,穿刺針を0.5mlの生理食塩水で洗浄,その検体のインタクトPTHも測定した(FNAB-PTH)。FNABは正常あるいは良性の結果で,FNAB-PTHは5,000pg/ml以上と著明高値を認めた。頸部USでは甲状腺内の大きな副甲状腺が疑われたが,手術前に施行した頸部CT (図3b) とTc-MIBIシンチ (図3c) の所見を総合すると甲状腺外の病変も十分考えられる所見であった。上述の腫瘤性病変を病的腺とするpHPTの診断で,手術目的にて当院紹介受診となり,副甲状腺腺腫摘出術を施行した。手術は,襟状切開でアプローチし,まず甲状腺右葉を露出し脱転した。右葉下極に緑色に囊胞変性した5cm程の腫瘍を認めた。右反回神経の腹側にあり,神経と強く癒着していた。神経を腫瘍から少しずつ剝離し,腫瘍を摘出した。摘出重量は16gであった。術後病理は副甲状腺腺腫の診断 (図4) であった。術後はインタクトPTHは6pg/mlと有意に低下し,Ca9.2mg/dl,IP2.3mg/dlと改善を認めた。また,術後はCa製剤,ビタミンD製剤は不要であった。

図3.

【画像所見:症例2】

a: 【頸部超音波検査:症例2】甲状腺右葉中下部を占める囊胞成分を伴う充実性甲状腺結節が疑われる。

b:【頸部単純CT:症例2】甲状腺外の病変も鑑別が必要な低吸収腫瘍を認める。

c:【99mTc-MIBIシンチ:症例2】甲状腺右葉の結節病変が疑われた充実部に一致する集積・集積残存を認めた。

図4.

【組織所見:症例2(HE染色:400倍)】構成細胞は主細胞が主体で,脂肪細胞の混在は見られない。分葉傾向はあるが,被膜で囲まれた結節性病変で周囲にはnormal parathyroid rimが見られる。これらの所見より副甲状腺腺腫に矛盾しない所見であった。

考察

以上,甲状腺腫瘍との鑑別を要したpHPTの2例を呈示した。症例1では当院受診までに血清Ca,IPが測定された経緯はなく,これが診断の遅れに寄与したと考えられた。尚,超音波で悪性リンパ腫の鑑別が必要と考え,血清Ca,IPの結果を待たずFNABを行ったが,非典型的な副甲状腺腫もあるので,Ca,IPの結果を確認すべきであったと反省している。しかし,今回の2症例は生化学的にpHPTが疑われたとしても,局在診断に苦慮する可能性が十分に考えられた。Liechtyらは,異所性副甲状腺の頻度は7-46%の頻度と報告している[2]。本邦からは膳所らが35.1%と報告している[3]。しかし,甲状腺内の異所性副甲状腺は稀とされており,pHPTの1.3%〜3.6%の頻度,甲状腺の結節性病変の0.4%と報告されている[48]。

最近,本邦でもTc-MIBIシンチがpHPTの診断において保険適応となったが,好酸性濾胞腺腫などミトコンドリアに富む腫瘍でも集積・集積残存を認める。よって,今回のように比較的大きな副甲状腺腺腫が甲状腺に広範囲に接すると甲状腺内の病変と鑑別が難しく,Tc-MIBIシンチの結果のみで局在を確定することは困難と考えられる。副甲状腺に対するFNABに関しては,血液検査やUS所見などと組み合わせることで良い正診率を得られるとされており[9],症例1のようにFNABが局在診断に有用な場合もある。一方でTseleni-Balafoutaらは,細胞診における甲状腺濾胞性腫瘍を初めとする甲状腺病変と副甲状腺病変の鑑別は困難であると報告している[10]。この副甲状腺病変の細胞診の正診率を高める一つの方法として,FNAB-PTHを併用することの有用性が報告されており[8,9],適宜,その適応を検討すべきである。副甲状腺腫瘍への穿刺は腫瘍の播種をきたす可能性があり禁忌とする意見もあるが,明らかな証拠となる文献を見出すことはできず,また,Yamashitaらのアンケ−ト調査では,外国で約半分,日本でも23%の施設が,症例を選択して行なっていた[11]。よって,再手術例など,病的副甲状腺の局在同定がより重要な場合は良い適応ではないかと考えている。

以上より,甲状腺腫瘍の診断の際には,血清Ca,IPの測定も行うことが重要で,pHPTが疑われる場合には,今回のような甲状腺病変との鑑別を要する副甲状腺腺腫の可能性も念頭に置き,通常の画像診断のみならず,適宜,FNAB,FNAB-PTHの適応も検討することでより正確な病的腺の局在診断が可能になると考えられた。

謝辞

今回呈示した2症例のうち,症例1は第54回日本甲状腺学会学術集会にて発表した。

【文 献】
 

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