甲状腺癌はその解剖学的位置関係より,癌の進展に伴い様々な隣接臓器に浸潤しうる。甲状腺癌は外科治療が主体であり,その取り扱いには解剖学,組織学,分子生物学的な考えが重要となる。解剖学的な観点では理学所見,画像所見が重要である。これら所見に基づき腫瘍の存在部位,進展様式をより正確に予測することが可能となる。また甲状腺癌には組織型に基づく悪性度の違いが存在する。組織型に基づく臓器浸潤の程度を把握することも重要である。さらに近年,癌関連遺伝子と甲状腺癌の悪性度,浸潤度の関連が報告されている。今後分子生物学的指標に基づく甲状腺癌の隣接臓器浸潤に対する取り扱いも重要となるであろう。甲状腺癌の隣接臓器浸潤に対する取り扱いでは解剖学,組織学,分子生物学的な考えを総合的に判断することで,術前に最善の術式を十分考慮し,さらに術中に最善かつ最適な外科治療を判断,提供するのが我々甲状腺外科医の使命である。