日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
副甲状腺の画像診断の進歩MIBI シンチグラフィ,CTを中心に
中駄 邦博高田 尚幸高橋 弘昌
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2012 年 29 巻 3 号 p. 176-182

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抄録

本稿では核医学検査とCTを中心に,副甲状腺機能亢進症の画像診断の最近の動向について述べる。MIBI SPECTとCTの融合画像は各々のmodalityの限界を相補って,腫大副甲状腺の局在を正確に示すことができるので,手術成績の向上に貢献することが期待される。

1. 画像診断に求められるもの

副甲状腺機亢進症における画像診断の役割は腫大した副甲状腺の数と局在に関する正確な情報を外科医に提供することである[]。

また,研修中の医師にとってのイメージトレーニングや解剖,手技を身に付けるガイドとなり,熟達した医師にとってはminimally invasive surgeryにおける手術時間の短縮や合併症の低下に寄与することが期待される。最近の画像診断,特に機器やワークステーションの進歩は,ある程度これらの需要に答えられるようになりつつある。

2. 腫大副甲状腺の超音波所見

腫大した副甲状腺は,超音波では甲状腺背側のlow echo の腫瘤 として認められ,甲状腺との間に明るい境界エコーがみられる。Doppler modeでは腫大した腺内部に血流信号が観察される[](図1)。超音波の最大の利点は簡便さと優れた空間分解能で,MIBIシンチグラフィで診断能低下の原因となる多腺病変(multiglandar disease:MGD)や甲状腺結節や瀰漫性甲状腺腫の合併例(図2)でも容易に腫大副甲状腺を同定できる。また,術前の穿刺については議論があるが,画像診断で確診がつかないときに fine needle aspirationを行ってaspiratesのPTH濃度を測定することができる[]。超音波の弱点は死角が存在することで,気管や食道の周囲・背側,あるいは縦隔内に存在する場合はCTやシンチグラフィで容易に同定できる病変が観察困難なことがある。超音波とMIBIシンチグラフィの併用は腫大副甲状腺の検出成績を向上させる[,]。

図 1 .

20歳代,女性。左上副甲状腺腺腫による原発性副甲状腺機能亢進症, 典型的な超音波,Power DopplerおよびMIBIシンチグラフィ所見がみられる。

図 2 .

50歳代,女性。橋本病と右上副甲状腺の腺腫の合併例。甲状腺左葉は切除後。MIBIシンチでは甲状腺右葉への強い集積のため,背面に存在する腫大した右上副甲状腺への集積(1,040 mgの腺腫)への集積はPlanar像,SPECTのいずれでも指摘できないが,超音波(右葉長軸)では甲状腺との間に境界エコーを有する低エコーの腫瘤として認められる。

3. MIBI シンチグラフィによる腫大副甲状腺の局在診断

Tc-99m MIBI(methoxyisobutylisonitrile:sestamibi) は,1990年代後半より腫大副甲状腺の局在診断における世界的な標準検査法として位置づけられてきたが,日本でも2010年に保険適応となった。

3ー1 撮影方法,集積機序,生理的集積,画像の解釈

通常,double-phase scintigraphyが施行される[,]。10~20mCi(370~740MBq)のMIBIを静脈注射し(このときに苦味を感ずることがある),10~20分後(early image)と 120~180分後(delayed image)の2回,頸部および胸部の正面像と断層像(SPECT)を撮影する。二次性副甲状腺機能亢進症の術後で自家移植している場合は移植部も撮像する。

MIBI の副甲状腺への集積性は主細胞よりもミトコンドリアの豊富な好酸性細胞の含有量に影響され,好酸性細胞の多い腺腫に多く取り込まれる[11]。また,P-glycoprotein(pGR)の含有量も影響し,pGR含有量の少ない腺腫で集積が高くなる[1213]。

MIBI の生理的集積は甲状腺(静注後2時間後には消失する)・唾液腺・鼻粘膜・口腔・心筋・肝臓・消化管(胆汁中に排泄される)に認められる。重量が30~40mgの正常副甲状腺は描出されない。腫大した副甲状腺はearly imageで局所的な集積亢進部として示され delayed image では甲状腺の集積は消失するのに対して腫大した副甲状腺ではdelayed imageでも集積が残存する(図1)。

MIBIシンチグラフィの検出感度に影響する因子として,前述の生化学的特徴の他,副甲状腺の重量(500~600mg以上で陽性になり易い),過形成(oxyphic cellが少ない),患者の体格(BMI),薬物(calcium channel blocker),MIBI の標識率などがあげられている[1115]。甲状腺結節の合併例や多腺病変(multiglandar disease:MGD)は単腺病変(single glandar disease:SGD)に比べて診断成績が低下する傾向にある[1618]。また,外科医と放射線科医の間で画像の解釈に差がみられ,外科医の読影で感度が上昇する,という,放射線科医にとってあまり愉快でない報告もある[19]。超音波でも同様のことが指摘されているが[2021],腫大副甲状腺の同定においては“必ずみえるはずだ” という,先入観のようなものを持って検査,あるいは読影に臨む姿勢が大切なのかもしれない。MIBIシンチグラフィの検出率を向上させるための工夫として,ピンホールコリメーターの使用[2223],Tc-99m あるいはI-123とsubtraction[2425],SPECTの追加[2528],などが検討されてきた。しかし,これらのいずれの方法を用いても解剖学的情報の欠如,という共通の限界があった。近年はSPECT/CT fusion image による診断が試みられているが,SPECT/CT専用装置の場合,CTの性能が副甲状腺の診断には必ずしも十分とはいえなかった。

4. CTによる診断

1990年中ばまでは縦隔内などの異所性副甲状腺を除けば,CTが腫大副甲状腺の局在診断に有用とはあまり考えられていなかった。しかし,最近のmulti-detector CT(MDCT)の登場と装置の急速な進歩によってCTの意義は再評価されている[2931]。16列以上のMDCTでスライス厚2~3mmのmulti-planar reconstruction(MPR)を作ると腫大副甲状腺が非常に同定し易くなる。CTによる副甲状腺の局在診断では造影剤をbolus注入してdynamic studyを行うのが望ましい。腫大副甲状腺は単純CTでは甲状腺よりも低吸収であるが,造影後の動脈相では甲状腺と同等か,むしろ強い増強効果を示し,後期相では甲状腺よりもやや低吸収になる[2930](図3)。腫大した頸部リンパ節や甲状腺の分葉,神経鞘腫などの頸部のhypervascular tumor が鑑別の対象となる。また,鎖骨からのアーチファクトはしばしば甲状腺と重なるので(図4),頭部のポジショニングには工夫が必要であるが,過度の頸部の伸展は頸随損傷のリスクがあるので注意が必要である。造影剤による腎障害の予防のため,使用にあたっては学会のガイドラインを尊守する[32]。

図 3 .

60歳代,女性。右下副甲状腺腺腫。

上段:2mmスライス厚のCT。右より造影前,動脈相,後期相。右下副甲状腺腺腫(→)は動脈相で強い増強効果を示す。

下段:前医で撮影された5mmスライス厚の単純CT。副甲状腺腫大なし,との診断であった。上段の画像を眺めた後では副甲状腺腫大を指摘できるが,この画像単独では,やはりわかりにくい。

図 4 .

60歳代,女性。右下副甲状腺腺腫。

2mmスライス厚のMPR画像。鎖骨によるアーチファクト(白い↓)が気管および甲状腺の前面にみられる。本例では幸い,アーチファクトと副甲状腺との重なりはなかった。

5. ワークステーションを用いたSPECT/CT fusion 画像の作成

専用のSPECT/CT 装置がない施設でも,ワークステーションを用いてMIBI SPECTとCTの融合画像を作成することができる[3334]。この際,CTのvolume dataから支配動脈である下甲状腺動脈と腫大副甲状腺のvolume rendering(VR)画像を作成できるので,2Dだけでなく3DのSPECT/CT fusion 画像も得られるようになった(図5,6)。3D fusion画像では,腫大した副甲状腺の解剖,血流,そして代謝を立体的に可視化できる。現在,画像の重ね合わせはマニュアルで行っているが,MIBI の顎下腺への集積が重ね合わせの指標となるので,それほど煩雑ではない。

図 5 .

左上副甲状腺腫大による原発性副甲状腺機能亢進症。MDCT/とMIBI SPECTの2D融合画像。

図 6 .

同一症例の3D MDCT/SPECT融合画像。時計回りに回転させている。左下甲状腺動脈が背側から副甲状腺腺腫に注いでいる。

MDCT/SPECT fusion 画像の作成によって甲状腺結節や瀰漫性甲状腺腫の合併例,MIBI 低集積例でも腫大副甲状腺の同定(図7,8),あるいは甲状腺腫瘍や頸部リンパ節との鑑別が以前よりも容易になった。副甲状腺へ注ぐ下甲状腺動脈の走行は多彩であり,上甲状腺動脈と下甲状腺動脈動脈の二重支配を示すものや,最下甲状腺動脈が支配動脈として同定されることもある。

図 7 .

原発性副甲状腺機能亢進症。橋本病を合併。超音波では局在不明であった。

上段:MIBI planar像とSPECT coronal像,瀰漫性甲状腺腫へのMIBI集積がみられるが,甲状腺周囲には明瞭な局所的集積を認めない。

下段:3D volume rendering像。右下副甲状腺に下甲状腺動脈が注いでいる。

図 8 .

右上副甲状腺腫様甲状腺腫による原発性副甲状腺機能亢進症。この症例では支配動脈である右下副甲状腺動脈は甲状腺右葉の前面を通って前下方より副甲状腺に流入している。

6. Positron Emission Tomography(PET)

悪性腫瘍の診断に広く利用されているF-18 fluorodeoxy glucose(FDG)PETは副甲状腺腺腫や過形成の局在診断にはあまり役立たない。腫瘍のアミノ酸代謝を反映するC-11 methionineはFDGよりも有用性が高く[3537],MIBI陰性例にもしばしば集積を示すが(図9),C-11の半減期が20分と短く,日常臨床での活用には制約がある。

図 9 .

MIBI陰性の原発性副甲状腺機能亢進症におけるメチオニンPET。

MIBIシンチでは集積はみられないが(左),メチオニンPETの冠状断像で右下頸部に集積を認める(中)。摘出された腺腫の病理所見(右)。

7. 今後の展望

SPECT/CT fusion画像の手術時間の短縮,あるいは合併症の低減といった外科治療への貢献度,二次性副甲状腺機能亢進症や多発性内分泌腫瘍症(MEN)などにおけるMGDの診断における有用性,甲状腺内副甲状腺腫の評価,cinacalcetやPEITなど非外科的治療の効果判定における意義,などが今後検討されていくことであろう。腹部の腫瘍で行われているimage based navigation-surgeryもおそらく可能と思われるが,内分泌外科医の皆様のご指導を仰ぎながら,放射線科医が鋭意工夫を続けていくことが,画像診断の更なる発展につながるであろう。

【文 献】
 

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