日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
PHPTの手術術式をどのように選択するか?
佐藤 伸也山下 弘幸
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2012 年 29 巻 3 号 p. 183-188

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抄録

原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)の術式選択を考えるために,当院で手術を施行した原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)症例197例について検討した。197例の手術成功率は98%で,術前に単腺病変と診断し副甲状腺手術のみを施行した145例では,136例(93.8%)がfocused approachで手術を完遂できていた。遺残腫大腺が手術不成功の主な原因と考えられたが,橋本病や異所性甲状腺も画像診断や手術を困難にする要因となっていた。正確な術前画像診断に基づくfocused approachがPHPT手術の第一選択であると考えるが,多腺病変の可能性がある場合や併存疾患のため局在診断が困難な場合は両側検索を考慮すべきである。

はじめに

原発性副甲状腺機能亢進症(以下PHPT)の治療の基本は手術であるが,その術式は近年の超音波検査(US)やCTの精度向上,および99mTc-MIBIシンチグラフィ(MIBI)の導入により大きく変化した。欧米では1990年代に副甲状腺ホルモン(PTH)の術中迅速測定[]およびUSとMIBIによる正確な術前画像診断を利用したfocused approach(1腺検索1腺摘出)が始まり,現在ではかつての両側検索手術にとって代わっている。本邦においても両側検索から片側検索(2腺検索),さらにfocused approachへと手術術式は移行してきている[]。PHPTの多腺腫大例の頻度は海外と較べて本邦ではやや低いようであるが,多腺腫大例にも対応すべくPTHの術中迅速測定をルーチンに利用してfocused approachを施行している施設もある[]。そのような状況を鑑みると,本邦でのPHPTの術式は術前に単腺病変と診断していればfocused approach,多腺病変の可能性が示唆される症例では両側検索もしくはそれに移行できるアプローチ法で手術に臨む内分泌外科医が多いと推察される。ただ実際のPHPT症例には腫大腺の位置や大きさ,局在診断の確信度や甲状腺の併存病変の存在(橋本病や甲状腺腫瘍)などによりさまざまなバリエーションがあることや,術中補助手段(術中迅速PTH測定や迅速病理診断)の有無によってもアプローチや手術内容は異なってくる。本特集では2006年から2011年までにわれわれが施行したPHPT手術症例における術前診断や手術術式および手術成績を検討し,手術方法の妥当性や問題点について述べる。

当院での手術症例の検討

① 対象

2006年4月から2011年12月までに当院でPHPTに対して手術を施行した症例は197例であった(表1)。術前の画像で単腺病変と診断して手術を施行した症例は191例(術前に局在診断がついていない症例は単腺病変とした),多腺病変と診断して手術を施行した症例は6例であった。これら197例では術中にPTHの迅速測定は行っておらず,また術中迅速病理診断もほとんど行っていなかった。手術成功の術中判断は主に術者が摘出標本を視認して行っていた。

表 1 .

術前の画像診断と病理

② 手術成績

手術の成功率を術後のCaの正常化あるいは低下で判断すると,術前に単腺病変と診断した191例中187例が正常化し,多腺病変では6例中6例で正常化(低下を含む)していたので,手術成功率は98.0%であった。

単腺病変の病理診断は腺腫が189例(ただし3例はCaが正常化せず),癌が2例であった。多腺病変では2例が重複腺腫,4例が過形成(MEN1(疑い例含む)が3例)であった(表1)。

③ 手術術式とその状況

術前に多腺病変と診断して手術を施行した6例はすべて両側検索手術を行っていた。単腺病変として手術を行った191例の中で甲状腺内の癌や結節に対しての手術を併施した症例を除外すると,副甲状腺手術単独施行例は154例であった。この中で当初から甲状腺切除(甲状腺内埋没症例)や胸腔鏡下手術(肺動脈大動脈靭帯近傍に腫大腺が存在)を予定していた6例を除いた148例の副甲状腺手術単独施行例の手術術式をまとめたのが表2および図1である。われわれは術前に単腺病変と診断した症例に対しては3㎝ほどの小切開で行うfocused approachを第一選択としている。術中に腫大腺が確認できない場合や摘出腺が病的腺であるという確信を持てなければ検索範囲を2腺,4腺と拡げて検索し,疑わしい副甲状腺を摘出している。また術前の画像診断で腫大腺が判然としないものに対しては最初から両側検索可能な切開で手術を行っている。148例の中で手術成功例が145例,不成功例が3例であった。成功例145 例の中でfocused approach にて手術を完遂できた症例は136例(93.8%)であり,腫大腺が判然とせず2腺検索もしくは両側検索などに移行した症例(手術前から病変に確信を持てず,両側検索のつもりで手術に臨んでいた症例も含む)は8例,MEN1の可能性があったため両側検索をした症例が1例であった。2腺検索および両側検索を施行した主な理由としては,術前画像診断でリンパ節腫大を疑ったが腫大副甲状腺を否定できなかったために術中に確認しにいった症例が4例,腫大副甲状腺が小さいために術前診断で誤同定した,もしくは術中確信が得られず検索範囲を拡げた症例が3例であった。手術不成功例3例のうち摘出組織が副甲状腺腫であったものが2例あり(2例ともfocused approach),他の1例は術前に局在診断がついておらず,両側検索を行ったが病的腫大腺を同定できなかった症例であった。

表 2 

 

図 1 .

副甲状腺手術単独施行例148例の内訳

症例提示

以下に両側検索例と手術に難渋した症例を提示する。

症例1

患 者:71歳,女性。

現病歴:尿路結石の精査でPHPTの診断,手術施行。

I-PTH 164 pg/ml,Ca 10.6mg/dl,Pi 2.2mg /dl,Alb 4.5g/dl,甲状腺機能正常,抗Tg抗体陽性。

US(図2a),CT(図2b),MIBI(図2c)。摘出重量242mg,手術時間30分。

図 2

a:(US)術前に左下腫大副甲状腺の可能性を考えたリンパ節。

b:(CT)術前に左下腫大副甲状腺の可能性を考えたリンパ節。

c:(MIBI delay像)原因となった右下腫大副甲状腺。

MIBIで右下腫大副甲状腺が疑われていたが,US やCTで左下に腫大副甲状腺様の腫瘤がありそちらも検索した(両側下腺を検索)。術中に右下は腫大副甲状腺,左下は腫大リンパ節と判断したので,他腺は検索しなかった(永久病理で確認)。

症例2

患 者:37歳,男性。

現病歴:尿路結石の精査でPHPTの診断,手術施行。

I-PTH 134.6 pg/ml,Ca 10.9mg/dl,Pi 3.1mg/dl,Alb 4.7g/dl,甲状腺機能正常。

CT(図3a),CT(図3b),MIBI(図3c)。摘出重量325mg,手術時間51分。

図 3

a:(CT)術前に右下腫大副甲状腺を疑った異所性甲状腺。

b:(CT)左下腫大副甲状腺。

c:(MIBI delay像)左下腫大副甲状腺に淡く集積。

術前の画像診断で,USおよびCTでは右下と左下の2腺腫大の可能性を考えていた。MIBIでは左下にのみ淡い集積を認めた。2腺検索の予定で手術施行し,右下は異所性甲状腺,左下は副甲状腺腫であった(永久病理で確認)。

症例3

患 者:70歳,女性。

既往歴:腎結石,骨粗鬆症。

現病歴:橋本病の経過観察中に高Ca血症判明し,PHPTの診断,手術施行。レボチロキシンNa(L-T4)50μg内服中。

I-PTH 229pg/ml,Ca 11.6mg/dl,Pi 2.3mg/dl,Alb 3.8g/dl,甲状腺機能はL-T4の内服で正常範囲,抗Tg抗体および抗TPO抗体はいずれも強陽性。

US(図4a),CT(図4b),MIBI(図4c)。摘出重量570mg,手術時間118分。

図 4

a:(US)左下腫大副甲状腺を疑ったリンパ節。

b:(CT)実際に腫大腺があったと思われる部位には疑わしい病変を認めない。

c:(MIBI earlyとdelay像)背景甲状腺への集積が強くかつwash outされないために腫大腺を認識できない。

術前のUSでは左下副甲状腺の腫大を想定していたが,CTおよびMIBIでは同定不能であった。両側検索を前提に手術を開始したが,両側検索を行っても腫大副甲状腺を同定できなかった。腫大腺の甲状腺内埋没を考慮して甲状腺摘出を行っている途中で,右ベリー靭帯と甲状腺峡部の間で甲状腺と気管の間に挟まれる形で存在する腫大副甲状腺を確認,摘出した。甲状腺は最終的に亜全摘となった。

考 察

当院の手術例でもわかるようにPHPT症例のほとんどが単腺病変であった。手術成功率は海外[]および本邦[,]の他の報告とほぼ同等で,術前に単腺病変と診断した症例に対しfocused approachを行うことは妥当と考えられる。しかしながら,今回検討した症例の中に,手術不成功例や検索に難渋する症例が少ないながらあったことも確かである。4例の不成功例のうち,3例では摘出組織が副甲状腺腫と判断されたことから,この3例では遺残腫大腺の存在が疑われる(多腺病変の可能性)。他の1例では両側検索にもかかわらず腫大腺を確認できなかった。今回のわれわれの症例でも過去の報告と同様[]に多腺病変の存在と原因腫大腺を同定できなかったことが手術不成功の原因であった。次にfocused approachから2腺もしくは両側検索にコンバートした理由を検討してみると,もっとも多かった理由は術前の画像で腫大副甲状腺が否定できない腫大リンパ節を認めていたことであり,リンパ節腫脹の原因のほとんどは橋本病によるものであった。USで腫大副甲状腺と腫大リンパ節との鑑別はほぼ可能であるが,CTで腫大副甲状腺の可能性を指摘されたリンパ節については確認の目的でそれを検索せざるをえなかった。

PHPTに腺腫様結節や橋本病,甲状腺癌などの甲状腺疾患を合併する頻度は高いといわれ[10],われわれが経験した症例でも40.9%に何らかの甲状腺疾患を合併し,18.8%(37例)に甲状腺手術を併施していた。PHPTの術前における甲状腺内の結節病変の評価についてはいくつかの報告があるが[10],それらはいずれも甲状腺手術の併施の適否の評価に主眼が置かれ,PHPTそのものの局在診断の感度などについての言及はない。われわれは甲状腺病変,特に橋本病がPHPTに合併すると術前の局在診断率が低下すると考えているが,橋本病の合併とPHPTの局在診断について取りあげた報告は見あたらない。当院での経験を述べると,橋本病を合併して甲状腺が腫大しリンパ球浸潤が著明な症例のUSでは,甲状腺腫大と内部エコーの低下のために,その背側に存在する腫大腺(特に上腺)を確認するのは非常に困難となる。また甲状腺周囲のリンパ節腫脹も顕著となるために,症例提示で示したように下腺腫大とリンパ節腫脹との鑑別も難しいことがある。USでの形状やドップラー血流が鑑別の参考にはなるが,腫大副甲状腺と類似したリンパ節も時に認める。MIBIは症例提示で示したように(症例1,2)局在診断に有用であることも多いが,症例3(橋本病を併存)のように背景甲状腺に強く集積してかつdelayにおいてもwash outされにくいことが多いので,甲状腺近傍に腫大腺が存在する場合では局在診断が困難と考えている。最近,PHPTの診断に4D-CTが有用との報告があり[1112],当院でも多用しているが,橋本病で腫大リンパ節が多数あると腫大副甲状腺とリンパ節の鑑別が難しい。腫大副甲状腺とリンパ節では造影剤の取り込みパターンが異なるため,CT値を経時的に比較すると鑑別に有用との報告があるが[13],今回のシリーズではそこまでの画像診断はなされておらず,鑑別に苦慮する症例があった。CTなどで腫大副甲状腺の可能性を否定できないリンパ節を認めると,それを術中に検索せざるをえないことも課題かと考える。以上の理由から,橋本病を合併したPHPT症例はfocused approachには適さないと考えている。

まとめ

当院でのfocused approachを中心とした手術成功率は98%と良好であり,術前に単腺病変と診断していた症例の93.8%でfocused approachを完遂できていた。現在の画像診断能力を考慮すれば,術前に単腺病変と診断した症例にfocused approachを施行することは充分妥当と考えられる。その一方で,橋本病によるリンパ節腫脹や異所性甲状腺などが術前局在診断を困難にし,術中検索の範囲を拡げなければならない原因のひとつとなっていることもわかった。遺残腫大腺の問題だけではなく,このような症例に対してどのように対応していくかもPHPTの外科治療の課題のひとつと思われる。

【文 献】
 

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