抄録
多発性内分泌腫瘍症1型(multiple endocrine neoplasia type 1:MEN1)は常染色体優性遺伝性の腫瘍症候群であり,複数の内分泌臓器さらには非内分泌臓器に腫瘍性病変を生じる。MEN1では約60%の患者に膵神経内分泌腫瘍(膵NET)を生じる。日本人のデータでは膵NETの10%にMEN1を合併しており,膵NET患者から効率的にMEN1患者を診断することが重要である。臨床的には非遺伝性の症例と比較した時に,MEN1の膵NETは発症年齢や発生部位などに特徴を有しており,これがMEN1を診断するきっかけとなる。遺伝性疾患であるがゆえに,ひとりのMEN1患者の診断は血縁者におけるMEN1の早期発見,早期治療につながる。またMEN1と診断された患者に対しては,MEN1における膵NETの特徴を把握した検査や治療が必要となる。本稿ではMEN1における膵NETの疫学や臨床的特徴を紹介する。