日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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原著
当科で経験した骨型原発性副甲状腺機能亢進症の臨床的検討
大場 崇旦小山 洋前野 一真望月 靖弘伊藤 研一天野 純
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2012 年 29 巻 3 号 p. 234-237

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抄録

原発性副甲状腺機能亢進症は発見契機により生化学型,腎結石型,骨型に分類され,骨型は8%程度と最も少ない。1996年4月から2011年6月までに当科で経験した骨型原発性副甲状腺機能亢進症7例の臨床的特徴を検討した。7例中3例が骨折を契機に,4例が骨痛を契機に診断された。術前に頸部超音波および99mTc-MIBIシンチグラフィが全例で施行され,7例中3例で頸部CT,4例でMRIが追加され,腫大副甲状腺を局在診断しえた。なお,腫大副甲状腺は全例1腺のみであった。一側検索手術が5例,一腺摘除術が2例に施行され,全例で術後の血清Ca値,i-PTH値が基準値内に低下し治療効果が得られ,骨痛を契機に診断された4例では症状の改善を認めた。骨痛を有する骨型副甲状腺機能亢進症では外科的治療により骨症状の改善が期待でき,日常診療で遭遇しやすい高齢者の骨症状に対しては,頻度は低いものの本疾患の可能性があることを知っておく必要であると考えられる。

はじめに

原発性副甲状腺機能亢進症(Primary hyperparathyroidism:以下PHPT)は発見の契機により,生化学型,腎結石型,骨型に分類される。近年,血清Ca高値や骨塩定量の低値を契機に診断される生化学型が増えている[]。一方,骨型は8%程度とされ[],3型のうち最も少ない。本稿では,当科における骨型PHPTに対する臨床的特徴について検討した。

症例と方法

1996年4月から2011年6月までに当科でPHPTの診断で一腺摘除術(Minimally invasive parathyroidectomy:以下MIP)もしくは一側検索手術を施行した症例116例のうち,骨型PHPT7例を対象とした。各症例につき,患者背景,診断時所見,術式,術後経過について検討した。

結 果

1. 患者背景(表1

全例女性で,平均年齢(以下,±標準偏差)は68.0±12.6歳(44~83歳)であった。各症例で特記すべき家族歴,既往歴は認められなかった。

表1.

患者背景および診断時所見

2. 診断時所見(表1

1)診断の契機

7例のうち3例が骨折を,4例が骨痛を契機に診断された。骨痛により発見された4例は全例下肢痛であった。

2)術前血清Ca値およびiーPTH値

術前血清Ca値の平均は12.5±1.8mg/dl(10.8~15.6),術前i-PTH値の平均は444.7±415.0pg/ml(134.3~1,410)であった。骨折を契機に発見された症例では術前Ca値の平均は14.5±0.98mg/dl(13.2~15.6)であり,骨痛症例では11.0±0.21mg/dl(10.8~11.3)であった。i-PTH値は骨折症例では平均739.1±490.6pg/ml(250.4~1,410),骨痛症例では平均223.8±84.3pg/ml(134.3~361.3)であった。ともに骨痛症例のほうが低い傾向にあった。

3)術前血清ALP値および骨密度

術前血清ALP値の平均は825±792IU/l(204~2,553)であった。骨折症例では平均1,490±826IU/l(537~2,553),骨痛症例では平均327±75IU/l(204~394)であり,骨痛症例のほうが低い傾向にあった。術前骨密度(第2-第4腰椎における若年成人平均値YAM:Young adult mean)は5例で測定され,平均56.2±14.6%(38~74)であった。

4)画像検査による腫大副甲状腺の術前局在診断

7例全例に頸部超音波検査および99mTc-MIBIシンチグラフィを施行し,腫大副甲状腺を確認しえた。7例いずれも腫大副甲状腺は1腺のみであった。また,腫大副甲状腺の局在確認のために7例中3例に頸部造影CT検査が,4例に頸部MRI検査(造影3例,非造影1例)が追加され,いずれの画像所見においても腫大副甲状腺の局在が一致することを確認しえた。

3. 手術所見および病理組織学的所見(表2)
表2.

手術および病理組織学的結果

7例中5例に一側検索手術が,2例にMIPが施行されていた。一側検索手術を施行した5例全例で,術前診断通りの局在に1腺腫大の副甲状腺が認められ,他1腺の腫大は認められなかった。病理組織学的所見では全例腺腫であった。摘出標本重量の平均は3,673±5,001mg(920~15,730)であった。骨折症例では平均6,763±6,437mg(920~15,730),骨痛症例では平均1,355±399mg(1,060~2,040)であり,骨痛症例のほうが軽い傾向にあった。

4. 術後経過(表3
表3.

術後経過

1)術後の血清Ca値およびi-PTH値の推移

7例全例で術後に血清Ca値が測定され,7例中6例で術翌日血清Ca値の基準値内への低下が認められた。また,i-PTHは7例中5例で術翌日に測定され,5例中4例で基準値内に低下していた。術翌日に血清Ca値低下を確認しえなかった1例は,血清i-PTH値も基準値内に低下していなかったが,術後1カ月でともに基準値内に低下した。術翌日にi-PTH値を測定していなかった2例も後1カ月でともに基準値内に低下した。以上のごとく,7例全例で手術による治療効果を確認しえた。

2)術後の血清ALP値および骨密度の推移

7例全例で術翌日に血清ALP値が測定され,平均817±727IU/l(191~2,045)であり,術前とほぼ同等であったが,術後3カ月に測定されていた症例4,5,7のうち,術翌日に高値であった症例4,5では,術後3カ月にはいずれも基準値内に低下していた。術後骨密度は症例7でのみ測定され,術後6カ月でYAM78%と著明な改善傾向を認めた。

3)合併症

症例1で術後2日目に血清Ca値が8.2mg/dlと低下し,手の痺れを伴うテタニー症状が出現した。乳酸Ca3g/day,1αOHビタミンD3製剤1μg/dayで内服を開始し,術後3日目には血清Ca値9.2mg/mlと上昇した。以後,内服を漸減していったが,血清Ca値は基準値内で推移した。症例7では術後4日目に足関節偽痛風を認めたが,症状は速やかに改善した。

4)骨症状改善までの期間

骨痛を契機に発見された4例中2例で,術後4日および術後1週で骨痛の速やかな改善が得られた。他の2例も術後2カ月および術後5カ月で骨症状が改善した。

考 察

PHPTは発見の契機によって,生化学型,腎結石型,骨型に分類されるが,頻度は生化学型が52%と最も多く,近年,健診での血清Ca値測定や,骨塩定量測定の普及により,生化学型の割合が増加傾向にある[]。一方,腎結石型は40%で,骨型は最も少ない8%とされている[]。本検討で対象とした骨型PHPTの7例は,上記期間に当科で外科的切除を施行した全PHPT症例116例の6%に相当し,骨型の頻度は他の報告と同等であった。また,外科的治療が施行されたPHPTの80歳以上は1.0%との報告があり[],高齢者のPHPT手術例は比較的稀である。本検討では7例中3例は78歳以上で,この3例のうち1例は80歳以上の症例であり,生化学型および腎結石型の手術症例も含めて,80歳以上の治療例は116例中この1例(0.9%)のみで,他の報告と同等であった。

PHPTに対する外科治療は1925年にMandleにより行われたものが最初の手術とされ,4腺全てが検索され,腫大した1腺が切除されたものであった[]。1982年にTibblinら[]が報告した1側検索手術の手術成功率は98.5%とされ[],以後広く行われるようになっていたが,近年,超音波検査,MRI検査,CT検査,99mTc-MIBIシンチグラフィを組み合わせることで,腫大した副甲状腺のより正確な局在診断が可能であり,腫大した副甲状腺のみを摘出するMIPも行われるようになってきている。各種画像検査の正診率は超音波検査が86.0%,MRI検査が64.3%,CT検査が56.1%,99mTc-MIBIシンチグラフィが88.2%であり,超音波検査および99mTc-MIBIシンチグラフィの結果が一致した場合の正診率は100%であったとの報告がある[]。また,1996年にIrvinらがMIPを報告し[],2000年にはUdelsmanらが100%の成功率と報告した[]。当科では,超音波検査および99mTc-MIBIシンチグラフィによる腫大副甲状腺を同定し,CTあるいはMRIを併用してその局在診断の精度の維持に努めているが,検討した7例では超音波検査および99mTc-MIBIシンチグラフィにより正診しえていた。また7例全例で造影CT検査もしくはMRI検査が施行され,各種画像所見における腫大副甲状腺が1腺のみで,その局在部位がいずれの画像でも一致していることを確認しえた。以上より,超音波検査および99mTc-MIBIシンチグラフィでの局在所見の一致は正診率の高さを示しうると思われる。また,術前の画像検査で腫大副甲状腺の局在診断が可能であれば,MIPはより低侵襲であり,特に高齢者においては有用な術式であると考えられる。

本検討では,骨痛を契機に発見された骨型PHPT4例において,術後比較的速やかに症状の改善を認め,QOLの改善が得られた。前述のごとく骨型PHPTの頻度は低いが,今後も高い高齢者人口比率が予想されるわが国において,日常診療において高齢者の骨症状を診察する機会は増加すると思われる。また,生化学型PHPTは最も多いが,75歳以上の高齢者の健診受診率が平均で20%台と決して高くないことを考慮すると,骨痛を契機にPHPTが発見される症例は今後も散見されると考えられる。また,骨折を契機に発見された症例と比べ,骨痛を契機に発見された症例の術前血清Ca値,i-PTH値,血清ALP値,摘出標本重量は低い傾向にあった。本疾患を念頭においていれば,病的骨折に至る前に診断されうると思われ,日常診療で遭遇しやすい高齢者に対する骨痛に対し,本疾患を念頭におく必要があると考えられる。さらに,骨型PHPTに対する外科的切除は単に原疾患の治療による高Ca血症の改善のみならず,骨痛の改善も期待でき,また局在診断しえればより侵襲の少ないMIPを選択しえるため,高齢者に対しても積極的に治療を検討してよいと考えられる。

結 語

骨型PHPTに対する外科的治療は骨症状の改善を期待でき,日常診療における骨痛を有する高齢者に対し,頻度は低いものの本疾患の可能性を念頭においておく必要があると考えられる。

【文 献】
 

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