日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
「特集2.甲状腺癌内用療法の現状と将来に向けて」によせて
伊藤 公一絹谷 清剛
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2013 年 30 巻 2 号 p. 114

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抄録

甲状腺分化癌の多くは手術による単独治療で対処しえ,その後の予後は良好である。しかしながら,なかには疾患が見つかった時点で,遠隔移転を有する症例や局所浸潤の強い症例が存在し,それらの予後は不良である。

そのような重症例をmanagementする上で,放射性ヨウ素(Ⅰ-131)を用いたⅠ-131内用療法は必要不可欠な診療手段である。その内用療法は,実に70年以上の歴史を持ち,長い経過をたどる甲状腺分化癌の再発病変・遠隔転移病巣に対し,あるいは再発予防において有用性が高く評価されている。

ところが,この優れた術後療法を実施したくても,患者数に対しての実施可能施設が足りずに,思うように行えないのが,我が国の現状である。

理由は,放射性医薬品を使用するための施設基準が厳格であり,高額な設備費用を要するにもかかわらず診療報酬が十分に補填されず,結果,なかなか専用病床を新設できない,さらには専門医療スタッフが不足しているなどで,問題点は山積している。

一方,甲状腺腫瘍診療ガイドラインでは,乳頭癌ハイリスク症例や広汎浸潤型ないし低分化成分を多く含む濾胞癌症例に対して甲状腺全摘を勧めることが明示されている。そして全摘症例が増加すれば,当然,内用療法の適応患者が増加してくるはずだ。

このようにクリアすべき問題が多く存在するものの,追い風も吹いている。本邦でも1998年に放射性ヨウ素治療の退出基準が制定され,2010年には甲状腺分化癌全摘後のアブレーションを目的とした30mCi(1.1GBq)の外来投与が可能となった。リコンビナントTSHの保険収載も含めて,内用療法に対する環境整備は緩徐ながらも進行している。

いずれにしても甲状腺癌患者の治療の一助として放射性ヨウ素内用療法の意義が極めて大きいことは明らかである。そこで未来に向けての前向きな企画を立ててみた。

内容は充実している。進行性甲状腺癌の治療の総括を筒井先生に示して頂いた。そして渋谷先生には外科医として,野口先生には放射線治療医として,それぞれの診療現場での実際を記して頂いた。その上で,日本核医学会・放射性ヨード内用療法委員会(現甲状腺RI治療委員会)の設立メンバーである東先生と,絹谷先生に診療環境整備について,現状から将来展望までをまとめて頂いた。

本特集を通じて,学会員にアブレーションを含めた放射性ヨウ素内用療法の現状,問題点を,ますますご理解頂き,行政に必要な医療資源の拡充を呼びかけるようになれば,企画者として望外の喜びである。

 

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