2013 Volume 30 Issue 4 Pages 253-255
本邦における神経内分泌腫瘍(NET)の診断,治療ならびに研究に関する情報の共有を目的としてNET Work Japanが2004年に設立され,2002年~2004年の3年間,患者の実態調査と2005年の1年間の受療患者を対象とした第1回疫学調査が行われた。それによると人口10万人あたりのP-NET有病患者数は2.23人,新規発症数は1.01人であり,いずれも欧米より多いことが明らかとなった。また遠隔転移の頻度,非機能性P-NETにおけるMEN1の合併率などが欧米と異なることも分かった。2010年には第2回疫学調査が行われ,その結果の公表が待たれる。P-NETの治療は外科的切除術が唯一の根治的治療であり,局所に留まるP-NETはすべてが切除適応である。
膵神経内分泌腫瘍(P-NET:pancreatic neuroendocrine tumor)は年々その患者数が増加している。欧米ではP-NETは膵腫瘍全体の1~2%を占め,年間有病者数は10万人あたり1人以下と報告されているが[1],本邦における疫学はこれまで十分に検討されていなかった。そのため2004年に膵・消化管NETの診断,治療ならびに研究に関する情報共有と発展を目的としたNET Work Japan(Neuroendocrine Tumor Workshop Japan)が設立された[2]。このNET Work Japanの主導により2002年~2004年に受療した膵・消化管NETに対する全国実態調査[3]が行われ,2005年には第1回全国疫学調査[4]が行われた。また2010年には第2回全国疫学調査が行われ,その結果の公表が待たれている[5]。
3年間の全国の専門施設での受療患者は514名で,機能性P-NETが49.8%,非機能性P-NETが47.7%,不明が2.5%であった(表1)。機能性P-NETの内訳はインスリノーマが31.7%と最多で,ガストリノーマ8.6%,グルカゴノーマ4.9%,ソマトスタチノーマ2.3%,VIPオーマ1.2%と続いた。これらは欧米での報告と大きな差はなかった。1型多発性内分泌腫瘍症(MEN1:multiple endocrine neoplasia type 1)の合併については,本邦ではP-NET全体の7.4%にみられ,非機能性P-NETでの合併率は5.3%であった。一方,欧米での非機能性P-NETでのMEN1の合併率は約30%と高い[6]。
本邦におけるP-NETの実態
2005年の1年間の受療患者を対象に第1回疫学調査が層化無作為抽出法を用いて行われた(表2)。P-NETの年間受療患者数は2,845人で人口10万人あたりの有病患者数は2.23人と推定された。欧米では人口10万人あたりの年間有病患者数は1.00人と報告されており,本邦では人口あたり約2倍の患者数が存在することが示唆された。また,2005年の新規発症数は人口10万人あたり1.01人で,米国における年間新規発症数0.32人の約3倍であった[1]。これらの結果は,人種の相違によるものの他に,本邦では欧米と比べて検診での腹部超音波検査が普及し,CT,MRIが容易に行える環境にあることを反映しているものと推察される。
本邦におけるP-NETの疫学(2005年)
疾患別の頻度では非機能性P-NETが47.4%,次いでインスリノーマの38.2%,ガストリノーマ7.9%,グルカゴノーマ2.6%,ソマトスタチノーマ0.7%であった。2005年の調査ではVIPオーマの報告はなかった。
b.臨床的特徴本邦における平均発症年齢は57.6歳であった(表3)。ピークは60歳代で,全体の15.8%を占めた。有症状での来院は全体の60%で,そのうち最も多かった症状は低血糖(48.5%)であった。一方,検診で偶然発見された無症状の症例も24%に上った。喫煙者は22%,飲酒者は42%であったが,いずれもP-NET発症の危険因子ではなかった。
本邦におけるP-NETの臨床的特徴
平均腫瘍径は3.0cmで,1cm以上2cm未満の腫瘍が38%で最も多く,次いで2cm以上3cm未満が15%を占めた。腫瘍の個数は平均約1.4個で,単発例が82%であった。疾患別にみると,非機能性P-NETの約70%は腫瘍径2cm以上で,インスリノーマの約70%は腫瘍径2cm未満であった。この差は症状の有無によるものと思われ,インスリノーマの多くは低血糖症状により腫瘍径の小さい段階で診断されたと考えられる。腫瘍の局在については,膵頭部38.2%,膵体部31.6%,膵尾部32.9%(多発例を含む)と有意差はなかった。遠隔転移を21%に認めたが,欧米での報告の64%と比べると低率であった[1]。非機能性P-NETの32.3%,ガストリノーマの25%に遠隔転移を認める一方,インスリノーマの遠隔転移率は5.4%と低かった。特に非機能性P-NETでは腫瘍径が2cmを超えると,有意に遠隔転移率が高くなった。外科的切除術は84%に施行され,インスリノーマの90%,非機能性P-NETの83%が切除されていたが,ガストリノーマでは67%に留まり,その悪性度ゆえに切除適応とならなかった症例が多かったものと推察される。
MEN1,von Hippel-Lindau病,von Recklinghausen病,tuberous sclerosisなどの遺伝性疾患とP-NETとの関連が報告されている。特にMEN1はP-NETの10%に合併する。疾患別にみると,ガストリノーマの27.2%にMEN1が合併し,インスリノーマでは15.1%,非機能性P-NETでは6.1%にMEN1の合併を認めた。
2010年の1年間の受療患者を対象に第2回疫学調査が行われ,現在解析中である[5]。中間解析では年間受療者数は3,528人と推定され,機能性P-NET,非機能性P-NETの頻度がそれぞれ33.2%,65.5%と,非機能性P-NETの頻度が増加している。詳細な解析結果の報告が待たれる。
P-NETの治療の原則は外科的切除術であり,唯一の根治的治療法である[7]。疾患ごとの詳細な適応については他稿に譲るが,現在では局所に留まり,MEN1を伴わないP-NETは腫瘍径によらず,すべてが切除の対象である。以前は腫瘍径1~2cm以下の非機能性P-NETは経過観察されることが多かったが,腫瘍径の増大とともに遠隔転移の頻度が増すことが明らかになっており[4],現在は診断がつき次第切除の適応となる。遠隔転移を伴う場合にも転移巣の状況やホルモンの過剰産生による症状を考慮しながら原発巣,転移巣の切除を検討する。MEN1に伴うP-NETはその特性をよく理解した上で切除方針を決定する必要がある。
P-NETの全国集計および手術のタイミングについて概説した。現在解析中の第2回疫学調査により,本邦におけるP-NETの現況がさらに明確にされることが期待される。また手術については,局所に留まるP-NETは原則的にすべてが切除対象である。