日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
pNETの手術適応と術式選択
土井 隆一郎阿部 由督伊藤 孝中村 直人松林 潤余語 覚匡鬼頭 祥悟浦 克明豊田 英治平良 薫大江 秀明川島 和彦石上 俊一
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2013 年 30 巻 4 号 p. 256-261

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抄録

膵神経内分泌腫瘍(pNET)は神経内分泌組織にある腸クロム親和性細胞由来の腫瘍であるとされる。実際に遭遇する腫瘍の種類は多く,腫瘍ごとに症状が異なるため診断方法もさまざまである。しかしながらpNETと診断された場合はすべて外科切除の適応と考えるべきである。インスリノーマ以外の腫瘍は転移・再発のリスクが極めて高く,リンパ節郭清が必要である。肝転移を伴っている場合は予後不良であるが,一方,切除によるメリットがあると判断される場合は肝切除の適応がある。外科切除のみで根治できない症例が多く,集学的治療を考慮しなければならない。pNETに対する分子標的治療薬を組み込んだ治療体系の整理が必要である。

はじめに

神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor,NET)は全身の神経内分泌組織にある腸クロム親和性細胞(enterochromaffin cell,EC細胞,Kulchitsky細胞)から発生する腫瘍である。腸クロム親和性細胞は消化管や気道内腔の上皮細胞に含まれる腸内分泌細胞であり,いわゆる神経堤(neural crest)に由来しており,他の上皮細胞と同じ幹細胞由来である。

膵臓にも腸クロム親和性細胞が存在し,NETが発生する。膵臓にできるNET(膵神経内分泌腫瘍,pancreatic neuroendocrine tumor,pNET)は多種に及ぶために画一的な治療方針を示すことは難しいが,腫瘍性疾患であり転移を含む悪性腫瘍としてのポテンシャルを有しているわけであるから常に根治をめざした切除手術を治療の選択肢とすべきである。

pNETの分類

pNETの治療体系の中で,外科治療法をどのように位置づけるかは,腫瘍の種類によって若干異なる。pNETは,①機能性と非機能性,②遺伝性と非遺伝性,③良性と悪性,などによって分類される。

機能性pNETの中で最も多いのはインスリノーマであり,以下ガストリノーマ,グルカゴノーマと続く(表1)。その他の機能性pNETの頻度は少ない。非機能性pNETは,かなりの大きさになって症状が出現するまで発見されないことが多かったが,近年はCT検査などを容易に実施できるため,腫瘍が小さい段階で発見されることが多くなった。最新の国内の調査では非機能性pNETはpNET全体の47.4%にも及ぶことがあきらかになった[]。

表1.

膵NETの頻度

機能性pNETは,すでに症状を有しているわけであるから一般に手術適応に迷うことは少ない。偶然発見された非機能性pNETの場合は無症状のことが多いが,現在では非機能性pNETについても腫瘍の大きさに関係なく切除手術が望ましいとされている。

遺伝性のNETのほとんどは多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)に合併するものであるが,その他にVon Hippel Lindau病(VHL)に合併するNETも知られており注意が必要である。MEN1型の患者の60%に膵・消化管NETが,VHL病の17%にpNETができるが,重要な点は多発であることと将来にわたって新病変が出現する可能性があるということである。

pNETの良悪性を判定することは極めて難しい。遠隔転移やリンパ節転移が認められる場合は悪性腫瘍と判定できるが,そうでない場合には切除標本の病理組織学的所見をもってしても悪性であるかどうかを決定することは困難である。

2000年のWHO分類では,病理組織学的所見のうちKi-67指数,血管浸潤,腫瘍径などを基準に,高分化型神経内分泌腫瘍,高分化型神経内分泌癌,低分化型神経内分泌癌に分類された(表2)。その後,細胞分裂数またはKi-67指数がNETの予後をうまく反映することから欧州神経内分泌腫瘍学会(ENETS)がNETのグレード(grade)分類を提唱し,2010年のWHO分類では,Ki-67指数または細胞分裂数によってNETをG1,G2,神経内分泌癌(NEC)に分類することになった(表3)。切除手術後の病理学的分類方法としては明確になったが,一方,これは切除標本以外では評価することはできず,術前の治療法決定には貢献しないものである。以上のように現在ではpNETの治療前に良悪性という分類をあてはめることはできず,切除標本の評価をもってグレードで表すことになっている。

表2.

膵NETのWHO分類(2000年)

表3.

膵NETのWHO分類(2010年)

pNETの手術適応と術式選択

①インスリノーマ

インスリノーマは,Whippleの三徴(空腹時の意識消失発作,発作時血糖が50mg/dl以下,ブドウ糖投与による症状改善),傾眠,振戦などその他の低血糖症状で発症し,また慢性的には肥満,異常行動,性格変調などをきたしていることもある。患者は多くの場合,症状によって日常生活が困難になっている。したがってインスリノーマと診断された場合,すべて切除手術の対象である。インスリノーマは膵臓に局在しており,約90%は転移することがないため手術による根治が期待できる[]。

直径が2cm以下の病変については核出術を行う(図1)。腫瘍と主膵管が離れている場合は主膵管を損傷せずに核出術が可能だが,腫瘍と主膵管の距離が近接しており主膵管損傷の危険ある場合は注意が必要であり,場合によっては膵部分切除や膵分節切除,膵尾部切除などの小範囲膵切除を考慮する(図2)。遠位側膵切除を行う場合,腫瘍の被膜がはっきりしており浸潤傾向がない,など悪性所見を伴わない場合は脾動静脈温存が可能である。①腫瘍の多発,②尾側膵管の拡張,③周囲組織への浸潤,④リンパ節転移,などを認めた場合は,所属リンパ節郭清を伴う膵切除術(膵頭十二指腸切除術または遠位側膵切除術)を行う。

図1.

インスリノーマの核出術

インスリノーマの核出術では,腫瘍被膜に沿って膵実質を剝離し,腫瘍側に膵実質が付着しないように切除する。主膵管が近傍に存在しても,剝離層さえ確保できれば膵管損傷をおこすことはない。

図2.

インスリノーマに対する術式選択

腫瘍と主膵管が離れている場合は主膵管を損傷せずに核出術が可能だが,腫瘍と主膵管の距離が近接しており主膵管損傷の危険ある場合は,膵部分切除や膵分節切除,膵尾部切除などの小範囲膵切除を考慮する。

症状を伴っているが画像診断法で腫瘍局在があきらかでなく,術中超音波検査などによっても腫瘍が確認できない場合,盲目的な膵切除は避けるべきである。閉腹して,カルシウムを用いた選択的動脈内刺激物収入試験(SASIテスト)を行い,微小インスリノーマ,ラ島過形成,膵島細胞症などの局在を診断した上で,改めて手術適応を検討するべきである。

最近,膵腫瘍に対する腹腔鏡下手術が普及しつつある。経験豊富な術者は腹腔鏡下超音波検査(LSUS)で85%以上のインスリノーマの局在診断が可能であると報告されており,治療の選択肢となる[]。本邦では,2012年に腹腔鏡下尾側膵切除術が保険適応となったところである。

②ガストリノーマ

ガストリノーマは,Zollinger-Ellison症候群(難治性胃潰瘍,胃酸の過剰分泌,膵ラ島非B細胞腫瘍の存在)を呈する。患者は難治性潰瘍に伴う心窩部痛,吐血,下血,あるいは激しい水様下痢,脂肪便,体重減少などで疲弊していることが多い。ガストリノーマは切除術によってのみ根治できる疾患であり,ガストリノーマと診断された場合は切除手術の適応である[]。

肝転移・遠隔転移を伴わないと診断された場合は切除手術を行う。ガストリノーマは60%以上にリンパ節転移があると報告されており,切除術に際してリンパ節郭清は必須である。血管など周辺臓器への浸潤がある場合も,合併切除が可能と判断される場合は切除手術を行う。

ガストリノーマは十二指腸,膵の両方から発生することが知られているが,最近は膵ガストリノ―マよりも十二指腸ガストリノーマの発生率が高く,家族性でない場合でも全体の50~88%が十二指腸ガストリノーマである[]。膵臓や十二指腸以外からの発生も稀に報告されており,腹部全体の詳細な検索が不可欠であるため,開腹による手術が推奨される[]。

転移,浸潤所見がない場合は,十二指腸,膵臓とも部分切除術や核出術で根治できる。十二指腸ガストリノーマ手術は腫瘍摘除術を行う(図3)。MEN1に合併する十二指腸ガストリノーマは多発するため十二指腸全切除が望ましい。膵頭十二指腸切除術の適応であるが,膵温存が可能な膵温存十二指腸全切除術が実施可能であれば考慮する(図4)。

図3.

十二指腸ガストリノーマ摘除術

十二指腸切開を加え(左上),ガストリノーマを同定したら,腫瘍を損傷しないように注意して十二指腸全層を切開する(右上)。腫瘍が切除されると白色の筋層表面が確認できる(左下)。腫瘍切除面は粘膜層を吸収糸で縫合して被覆する(右下)。

図4.

膵温存十二指腸全摘術の概念

血管を丁寧に処理することによって,主乳頭部と副乳頭部をのこして膵頭部と十二指腸漿膜を分離することが可能である(a)。再建は挙上空腸を用いてビルロート1法形式またはビルロート2法形式で行う(b)。

微細なリンパ節転移巣は,術中の視診,触診では診断できないのでリンパ節郭清を伴う切除術を行う必要がある。

③グルカゴノーマ

グルカゴノーマの患者は,壊死性遊走性紅斑,貧血,体重減少,糖尿,耐糖能異常,口内炎などを患っている。外科切除が治癒させうる唯一の治療法であり,グルカゴノーマの診断が確定した時点で外科切除を考慮する。また,グルカゴノーマ診断時の平均腫瘍径は他のpNETに比べて大きい[]。転移はほとんどが肝転移とリンパ節転移であり,特に肝転移の頻度が41~95%と高率である。肝転移があっても取りきれる場合は,原発巣,肝転移ともに手術切除を行う。

グルカゴノーマは高率にリンパ節転移をきたすため,腫瘍切除に加えリンパ節郭清が必須である。原発巣の局在は90%以上が膵臓で,膵尾部,体部,頭部の順に頻度が高い。術式は膵体尾部切除術,膵頭十二指腸切除術を基本とするが,原発巣の局在に応じて術式を変更する。

根治切除が不可能な転移巣が認められた場合,切除による腫瘍の縮小は血中グルカゴン濃度を低下させ,合併する糖尿病,皮膚病変(壊死性遊走性紅斑),貧血,高アミノ酸血症に対する改善効果がある。

④VIPオーマ

VIPオーマは膵性コレラといわれる多量の分泌性下痢を主体とするWDHA症候群を発症して診断されることが多い。悪性頻度は40~80%である[]。

術前診断で肝転移・遠隔転移を伴わないと診断された場合は切除手術の適応である。また,所属リンパ節転移,局所浸潤所見,肝転移が存在しても根治が可能と判断される場合は切除手術の適応である。

根治切除が困難と判断される場合でも,腫瘍の90%以上の切除が可能であれば,減量手術による症状緩和が期待できる。手術が不完全切除にとどまった場合は,ソマトスタチンアナログ製剤などによる追加治療を行う。

術式は,膵部分切除術,膵頭十二指腸切除術,膵体尾部切除術などの膵切除術を行う。腫瘍が小さく,浸潤,転移がない場合は腫瘍核出術を検討する。切除にあたっては局所リンパ節郭清が必要である。VIPオーマは通常,膵に発生するが,稀に十二指腸発生が報告されており,膵内に腫瘍が発見できない場合は必ず他臓器の検索を行う必要がある。

⑤非機能性pNET

2012年の米国NCCN(National Comprehensive Cancer Network)では,非機能性pNETに対しては切除が推奨されており経過観察の選択肢はなくなっている。国際的には1cm以下の非機能性pNETは肝転移率が低く,経過観察が可能であるとの意見もあったが[],膵切除術が安全に施行できる施設においては非機能性pNETに対しては切除術を第一選択とすべきである。

手術を行う場合には膵機能温存に配慮した適切な術式選択が必要である。術式は腫瘍の大きさや局在によって選択する。小さい腫瘍に対しては核出術,膵中央切除術など非定型的膵切除術を選択しえるが合併症率が高くなる。核出術を行う場合には主膵管損傷に注意を払う必要がある。1cm以下の腫瘍を切除する場合には核出術,1~2cmの腫瘍を切除する場合は核出術または膵切除術を選択する。2cm以下の腫瘍であっても,リンパ節転移の検索と予防的郭清を行うべきである。2cmを超える腫瘍については膵切除術とリンパ節郭清を行う必要がある。

おわりに

インスリノーマ以外のpNETは転移再発のリスクが高く,外科切除のみで根治できない場合も多い。pNETは外科切除を含む集学的治療によって対処する必要がある[](図5)。

図5.

pNETの治療体系

インスリノーマ以外のpNETは転移再発のリスクが高く,外科切除を含む集学的治療を行う必要がある。

【文 献】
 

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