日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
小児甲状腺癌の病理組織学的特徴,特にびまん性硬化型乳頭癌に着目して
菅間 博
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2013 年 30 巻 4 号 p. 281-286

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抄録

小児甲状腺癌を理解するために必要な基礎事項を整理するとともに,福島原発事故以前に日本国内の多施設で手術された小児甲状腺癌を集計し,チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺癌と比較した。甲状腺癌の発症は女児の二次性徴がはじまる9歳位から認められ,20歳以下の甲状腺癌185例のうち15歳以下の小児の症例が39例あった。成人同様に女性に多いが,年齢が低いほど性差は少なくなる。小児に特徴的な甲状腺癌の組織型としては,びまん性硬化型乳頭癌DSPCと,充実型乳頭癌があげられる。DSPCは臨床的には橋本病との鑑別が問題となるが,その病理学的な本質は甲状腺の癌性リンパ管症とびまん性リンパ球浸潤と考えられる。充実型乳頭癌はチェルノブイリ原発事故に注目されたが,放射線被曝と関連のない国内でも若年者にみられる。病理組織学的に低分化癌との鑑別が問題となるが,臨床的に治療方針に違いがあることから,区別する必要がある。

はじめに

小児の甲状腺癌は極めて稀で,15歳以下の甲状腺癌の発症頻度は年間およそ100万人に1人程度といわれる。四半世紀前におこったチェルノブイリ原発事故後に,小児の甲状腺癌が多発したことが知られている[]。福島原発事故後,日本国内で小児甲状腺癌の発症が危惧されているが,国内の小児甲状腺癌についてのまとまった研究は少なく,共通の理解が十分に醸成されているとはいえない。本稿では,まず小児甲状腺を理解するうえで必要な基礎的事項を整理する。今回,福島原発事故以前の日本国内の多施設で手術された小児甲状腺癌の症例を収集し,その発症年齢,性差と組織型の特徴をチェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺癌と比較する。さらに小児に特徴的な組織型について,病理組織診断上ポイントを解説する。

甲状腺の発生,発育と小児期甲状腺の特徴

甲状腺原器は胎生3週頃に原始咽頭底の中央が陥入して形成される[]。甲状舌管として舌骨を貫通,咽頭軟骨の前方を下降して,さらに甲状軟骨の前面で左右に分葉する。胎生10週には濾胞が形成される。出生児には濾胞内にコロイドが貯えられ,その重量は約1.5gとなる。甲状腺ホルモンは出生直後から身体の発育および知能の発達には重要であり,乳幼児期の甲状腺ホルモンの欠乏はクレチン症をひきおこす。甲状腺の重量は,年齢にほぼ平行して徐々に増加し,1歳で2g,4歳で4g,10歳で9g,15歳で14g,20歳でほぼ20gに達する。特に二次性徴前後で,甲状腺の発育速度に大きな違いはない。小児と成人の甲状腺の組織像に大きな違いはないが,小児の甲状腺は濾胞が比較的小型均一で,濾胞間の結合織が疎で開大したリンパ間隙が目立つ。

小児甲状腺癌の定義

生物学的に小児は,出生後から二次性徴開始までの期間と定義される。ヒトの二次性徴の開始は性差,個人差が大きく,およそ10歳から13歳までの幅がある。性差は明瞭で,女性が男性より約2年程度早い。栄養状態,遺伝的要因や人種差などにより二次性徴の開始に違いがある。社会的には,小児は中学校までで,日本では15歳以下であるが,国により若干の違いがある。生物学的な小児甲状腺癌(Pediatric thyroid carcinoma)は,二次性徴開始までに発症した甲状腺癌と考えられるが,二次性徴の開始時期は性差,個人差が大きいことから,便宜的に社会的な小児の定義が用いられ(図1),日本では15歳までに発症した甲状腺癌と定義されることが多い。また,二次性徴開始から性成熟が完成するまでの移行期を思春期(Puberty)とよび,社会的には参政権が付与されると成人とされる。日本では,成人する20歳までを若年者(Juvenile)とよぶ。よって,成人以前の,小児期と思春期を合わせた時期に発症する甲状腺癌には若年性甲状腺癌(Juvenile thyroid carcinoma)の名称が使われる。

図1.

小児の生物学的および社会的定義

チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺癌

チェルノブイリ原発事故は,1986年4月26日におこり,WHOのデータでは,約500万人が被爆し甲状腺癌が通常の50~100倍の頻度で発生しているが,そのうちの75%は15歳未満で被爆した若年者の症例である[]。ベラルーシのデータでは,原発事故後4年目から小児の甲状腺癌が発症している[]。その内訳は,0~4歳では発症はほとんどないが,5~9歳では事故後4~9年目に発症のピークがみられ,その後小児の成長につれて発症のピークが10~14歳,さらに15~19歳,そして成人へとシフトしていく(図2)。チェルノブイリ原発事故で小児甲状腺癌が激増した理由として,放射性ヨード(I131)の飛散量が多く,汚染牧草を食べた牛の牛乳や汚染食品を食べた母親の母乳を介してI131が小児に取り込まれたと考えられている。特に,発達時期にある小児の甲状腺はヨード取り込みが高いこと,また同地域がヨードの相対的不足地域であったことも影響したと考えられている[]。

図2.

ベラルーシ(1985~2006)における(A)若年者および(B)小児の甲状腺癌の発症頻度

(Arq Bras Endocrinol Metabol. 51:748-762, 2007)

日本国内の小児甲状腺癌の年齢分布と性差

2011年3月11日以前に,国内の4施設,福島県医科大学病院(福島),筑波大学病院(茨城),伊藤病院(東京),隈病院(兵庫)で手術された20歳以下の若年性甲状腺癌の症例を収集し臨床病理学的に再検討した[]。収集した185症例の年齢分布と性差を図3に示す。15歳以下の小児甲状腺癌は39例であった。甲状腺癌の発生は8歳以下では男女とも認められない。女児の二次性徴がはじまる9歳位からみられ,15歳まで漸増し39例みられた。思春期の16歳以降に発症頻度が指数関数的に増加し,16歳から20歳の症例数は15歳以下の約4倍の146例であった。男女比は,二次性徴以前と考えられる10歳以下は4例と少ないが,1:1である。これはチェルノブイリ原発事故後の報告でも10歳以下では,性差がないとされていることに一致している。11~15歳では約1:7.7,16歳~20歳では約1:4.4と成人とほぼ同様に女性に多いが,成人に比較して性差は小さい。

図3.

国内の若年者甲状腺癌症例の年齢・性分布

小児の甲状腺癌の組織型の特徴

15歳以下の小児および20歳以下の若年者の甲状腺癌の組織型と女性の比率を表1に示す。乳頭癌(Papillary carcinoma)の頻度が15歳以下で74%,濾胞癌(Follicular carcinoma)が21%,20歳以下で乳頭癌84%,濾胞癌が11%と,乳頭癌が7~8割を占める。ただし,国内の成人の統計[]では乳頭癌が92.5%,濾胞癌(Follicular carcinoma)が4.8%であることから,相対的な濾胞癌の割合は若年者ほど大きい。濾胞癌はヨード不足地域で増えることが知られており,発達時期のヨード取り込み量の相対的な不足が関与している可能性が考えられる。

表1.

小児・若年者甲状腺癌の組織型と女性の比率

乳頭癌の特殊型としては,びまん性硬化型乳頭癌(Papillary carcinoma, diffuse sclerosing variant)が,15歳以下で10%,20歳以下で9.7%と,成人に比較して明らかに多く,小児および若年者に特徴的な甲状腺癌の組織型といえる。チェルノブイリ原発事故後に増加したとされる充実型乳頭癌(Papillary carcinoma, solid variant)[,]は,今回の185例の集計では,15歳以下と20歳以下で,それぞれ1例(2.6%)と7例(3.8%)みられた。また,濾胞型乳頭癌(Papillary carcinoma, follicular variant)が,15歳以下と20歳以下で,それぞれ10%と7%で,同様に相対的にやや多い。即ち,これらの甲状腺癌の病理組織学的な特徴は,15歳以下の小児というよりは,20歳以下まで拡げた若年者に共通した特徴と考えられる。

家族性大腸癌の原因となるadenomatous polyposis coli(APC)遺伝子の異常を背景に生じる篩状型乳頭癌(Papillary carcinoma, cribriform-morular variant)や,多発性内分泌腫瘍症2型(Multiple Endocrine Neoplasia type 2)の髄様癌(Medullary carcinoma)は小児で高頻度に発症し,篩状型乳頭癌は100%女性であること,髄様癌には男女差がないことは注目に値する。また,成人の高齢者に多い未分化癌は小児ではみられない。今回集計した中には含まれていなかったが,極めて稀な腫瘍である胸腺様分化を伴う紡錘形細胞腫瘍(SETTLE:spindle epithelial tumor with thymus-like differentiation)は,若年者で男性優位に発症することが報告されている[]。

以下,小児に多くみられる組織型,特にびまん性硬化型乳頭癌とくに充実型乳頭癌について,病理組織学的な特徴を中心に解説する。

びまん性硬化型乳頭癌

びまん性硬化型乳頭癌はDSPC(diffuse sclerosing papillary carcinoma)と呼称され,前述の如く小児に特徴的な組織型である。DSPCはびまん性の甲状腺腫大を示すため慢性甲状腺炎(橋本病)との鑑別が問題となる病態として,1989年にCarcangiu MLらによって提唱された概念である[10]。その特徴として,a)片葉または両葉にまたがるびまん性病変,b)裂隙状のリンパ管内の微小乳頭状構造形成,c)扁平上皮化生と多数の砂粒小体形成,d)高度のリンパ球浸潤,e)著明な線維化があげられている。肉眼的に典型的なDSPCは,片葉または両葉がびまん性に硬く腫大し,割面は全体にまだらな灰白色調で,原発腫瘍と非腫瘍部の境界が不明瞭である(図4A)。これは非腫瘍部に橋本病類似の高度のリンパ球浸潤と間質の線維化を伴うためで,臨床的にも抗甲状腺自己抗体の上昇がみられることが多い。DSPCを病理診断する際に,a)のびまん性の表現から大きさ2cm以上の腫瘤を形成するものは除くべきとする議論がみられる[11]。しかし,腫瘤の大きさは当初からDSPC診断の除外所見ではない。術前のDSPCの穿刺吸引細胞診では,通常の乳頭癌の所見に加えて,組織像を反映し癌細胞の扁平上皮化生や砂粒小体が高頻度にみられ(図4B),また背景にリンパ球がみられることが多い。DSPCでみられる本質的な組織像は,b)の甲状腺の癌性リンパ管症状態を意味する著明なリンパ管拡張と,d)の免疫反応としての高度のリンパ球浸潤である。その結果として,リンパ管に塞栓した乳頭癌細胞はc)の化生や変性の所見を呈し,甲状腺間質にはe)の分葉状の線維化が起きると解釈される(図4C)。DSPCではリンパ節転移が必発で広範なことが多い。また血行性遠隔転移もみられることがある。しかし,DSPCの予後は比較的良好で,d)のリンパ球浸潤との関連が考えられている[10]。

図4.

びまん性硬化型乳頭癌

A:肉眼像(割面)B:穿刺吸引細胞診像(パパニコロ染色)癌細胞集塊内に砂粒小体が高頻度にみられる。C:弱拡大(HE染色)裂隙状に拡大したリンパ管内に,砂粒小体を伴う乳頭癌の細胞塊が多数認められる。背景にはリンパ濾胞を伴う高度のリンパ球浸潤,分葉状の線維化がみられる。

充実型乳頭癌

充実型乳頭癌はチェルノブイリ原発事故で注目を浴びた小児の甲状腺乳頭癌の組織亜型で,放射線内部被爆との関連が疑われた[,]。しかし,福島原発事故以前の日本の20歳以下の甲状腺癌でも,185例中の8例に充実型乳頭癌がみられ,放射線被爆との関連が乏しい。WHOの分類では,充実型乳頭癌は腫瘍細胞の大部分が充実性シート状増殖を示すが乳頭癌に特徴的な核所見を保持していることが組織診断の基準となっている(図5A)。血管侵襲や甲状腺外進展が1/3の症例でみられる。ただし,核の多形が高度なものや腫瘍壊死があるものは,低分化癌にすべきであると記載されている。本邦の甲状腺癌取扱い規約では,充実型乳頭癌は低分化癌に含まれ,亜型として採用されていない。しかし,充実型乳頭癌は低分化癌に比べ,増殖活性は低く(図5B)予後は良い[11]。よって,両者は臨床的に治療方針が大きく異なり,鑑別は重要である。病理学的な鑑別の際には,核溝や核内細胞質封入体などの核形態の所見に加えて,核分裂像やKi-67ラベル率などの増殖能の量的な評価を考慮すべきと考えられる。

図5.

充実型乳頭癌

A:中拡大(HE染色)乳頭癌の核型を示す腫瘍細胞の索状から島状の増殖がみられる。B:K-67免疫染色 K-67陽性核(矢印)は極少数である。

通常型の乳頭癌と濾胞癌および濾胞型乳頭癌

通常型の乳頭癌や濾胞癌は,成人同様に若年者でも最も多い組織型である。小児の乳頭癌は,前述したびまん性硬化型と充実型を除くと,成人の乳頭癌と組織学的に大差がない。ただし,甲状腺内のリンパ行性転移,リンパ節転移が著明なものが多い[12]。小児の甲状腺は,濾胞間の結合織が疎でリンパ間隙が開いているためかもしれない。

濾胞癌の比率は成人に比較し若年者で多いが,組織学的には成人の濾胞癌とほぼ同様である。ただし,微小浸潤型(被包型)よりも広範浸潤型が多く,初発時に多発性の血行性転移を伴うものもみられる。

濾胞亜型乳頭癌は,乳頭癌の核形態を示すが,乳頭状構造を欠き濾胞状構造のみからなる。成人では約1/3の症例は被膜に包まれ,濾胞腺腫や微小浸潤型濾胞癌との鑑別が問題となる浸潤傾向が乏しい。若年者では被膜をもたないものがほとんどで,通常の乳頭癌と同様の増殖浸潤様式を示す。しばしば,甲状腺内に多発性の結節を形成し,広範な転移を示すものがある。

おわりに

福島原発事故以前の多施設の若年者甲状腺癌の185例を検討した結果,小児甲状腺癌の発症は女児の二次性徴がはじまる9歳位から認められ,15歳以下の小児甲状腺癌は39例みられた。成人同様に女性に多いが,年齢が低いほど性差は少なくなる。小児の甲状腺癌の組織型としては,成人同様に通常型の乳頭癌と濾胞癌が多いが,相対的に小児に多い組織型織型としてびまん性硬化型乳頭癌DSPCと充実型乳頭癌があげられる。これらは15歳以下の小児というよりは,20歳以下まで拡げた若年者に共通した特徴と考えられ,また,チェルノブイリ原発事故後の報告と類似する。病理組織学的には,充実型乳頭癌と低分化癌との鑑別が,診断基準の違いから日本国内では問題となる。臨床的に治療方針に違いがあることから,国内の病理医間でコンセンサスを得ることが重要と考えられる。

【文 献】
 

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