日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
症例報告
局所および硬膜外麻酔併用にて手術しえた,超高齢者両側乳癌の1例
近藤 亮一藤田 知之西村 基越川 佳代子亀田 典章藤森 実
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2014 年 31 巻 1 号 p. 64-68

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抄録

【症例】98歳,女性。【現病歴】平成20年10月,左乳房腫瘤を認めたため当院受診した。触診上左乳輪・乳頭下に4cm大の腫瘤を触知した。マンモグラフィ,超音波検査施行後,左右とも穿刺吸引細胞診にて悪性の診断を得た。局所および硬膜外麻酔併用にて左単純乳房切除術,右乳房円状部分切除術を施行したが手術時間は両側合わせて33分であった。病理組織学的診断で左は硬癌,T2,N0,M0,StageⅡA,ER(+),PgR(+),右は非浸潤性乳管癌,Tis,N0,M0,Stage0の結果を得た。【結語】超高齢者に発生した同時性両側乳癌を局所および硬膜外麻酔併用にて手術しえた経験をした。

はじめに

高齢者の乳癌に対する至適な治療法は確立されておらず,手術が必要か否かは議論の対象となっている。今回われわれは超高齢者に発生した同時性両側乳癌に対し,局所および硬膜外麻酔併用にて手術しえた症例を経験したので文献的考察を加え報告する。

症 例

症 例:98歳,女性。

既往歴:うっ血性心不全,心弁膜症,認知症,囊胞腎。

家族歴:乳癌罹患者なし。

現病歴:平成20年10月,左乳房腫瘤を自覚し当院受診した。触診上左乳輪・乳頭下に4cm大の腫瘤を触知した。

マンモグラフィ所見:左MLOのM領域に微細分葉状・spiculaを伴う高濃度・多角形の腫瘤陰影を認め,カテゴリー5。右乳房はカテゴリー1(図1)。

図1.

マンモグラフィ所見

左MLOのM領域とCCに微細分葉状・spiculaを伴う高濃度・多角形の腫瘤陰影を認める。

右は異常所見なし。

超音波検査所見:左乳房・乳頭下から3時方向へ前方境界線の断裂・halo・spiculaを伴う不整形・低エコーを認め,カテゴリー5(図2a)。右乳房には9mm大の明瞭・平滑な低エコーを認め,カテゴリー3(図2b)。左右とも穿刺吸引細胞診にて悪性の診断を得た。

図2.

超音波検査所見

a:右乳房には9mm大の明瞭・平滑な低エコーを認める。

b:左乳房・乳頭下から3時方向へ前方境界線の断裂・halo・spiculaを伴う不整形・低エコーを認める。

乳房MRI所見(脂肪抑制・造影 T1強調画像およびTime-intensity curve):左乳腺のE領域に21×13mm大の辺縁が不整で,spiculaを伴う腫瘤を認め,漸増性パターンを呈し,乳癌が疑われた(図3a)。右乳腺のE領域に8mm大の結節性病変を認め,動脈相で造影増強効果のピークをむかえていた(図3b)。

図3.

乳房MRIとTime-intensity curve

a:脂肪抑制・造影 T1強調画像で左乳腺のE領域に21×13mm大の辺縁が不整で,spiculaを伴う腫瘤を認め,Time-intensity curveは漸増性パターンを呈し,乳癌が疑われた。

b:脂肪抑制・造影 T1強調画像で右E領域に8mm大の結節性病変を認め,Time-intensity curveは動脈相で造影増強効果のピークをむかえていた。

治療経過:平成20年12月,局所麻酔と硬膜外麻酔の併用による手術を施行した。硬膜外麻酔は第4胸椎・第5胸椎間の正中より硬膜外カテーテルを挿入,留置し0.25%マーカイン40mlを注入した。術式は,左は乳房下垂が強かったため,乳房を上方に牽引しつつ,切除線と乳腺後隙に局所麻酔薬1%キシロカインE 13mlを注入,左単純乳房切除術施行した。その後,右乳房の切除線と乳腺後隙に局所麻酔薬1%キシロカインE 4mlを注入,右乳房円状部分切除術を施行した。両側とも術前画像診断にて明らかなリンパ節転移を認めていなかったため腋窩郭清は省略した。手術時間は33分であった。

病理組織所見:左は肉眼的に23×10×30mm大の境界不明瞭な腫瘤(図4a)で,組織学的には腫瘍細胞は充実性胞巣を形成し,間質に浸潤していた(図4b)。ERは陽性であった(図4c)。右は肉眼的に4×5mm大の境界不明瞭な小さな腫瘤(図4d)で,組織学的には腫瘍細胞は乳管内に増殖し,間質浸潤は示していなかった(図4e)。

図4.

組織所見

a:左肉眼所見 23×10×30mm大の境界不明瞭な腫瘤(矢印)を認めた。

b:左弱・強拡大 腫瘍細胞は充実性胞巣を形成し,間質に浸潤していた。

c:ERは陽性であった。

d:右肉眼所見 4×5mm大の境界不明瞭な腫瘤(矢印)を認めた。

e:右弱・強拡大 腫瘍細胞は乳管内に増殖し,間質浸潤は示していなかった。

:浸潤性乳管癌,硬癌,(f,ly1,v0,乳管内進展(+)23×10×30mm ER(+),PgR(+),Hercep test score 0:pT2,N0,M0):Stage ⅡA。

:非浸潤性乳管癌(4×5mm):Stage 0。

と診断された。

考 察

高齢者の定義に明確な基準はないが,一般には65~75歳以上とする報告が多い[,]。また,高齢者の乳癌に対する至適な治療法も確立されていないが,Preeceらは75歳以上の局所進行乳癌または手術拒否の患者67人に,タモキシフェン投与のみで,奏効率73%,5年生存率は49.4%であったと報告している[]。他にも,高い奏効率と良好な生存率が多く報告されている[,]。大崎らも,高齢者乳癌患者で,ホルモン陽性乳癌の場合は可能な限りホルモン療法を優先させることが原則であるとしている[]。一方タモキシフェンと手術療法の比較試験では局所コントロールは手術療法の方が有意に良好で[10],全身状態が侵襲に耐えうるなら手術を行った方が良く,余命が2年以上望める場合にはホルモン療法単独の治療は行うべきでないと報告されている[11]。また,山城らは高齢者では服薬コンプライアンスが低下し服薬できているかどうかの確認が必要で,ADLが低下しているため,血栓症のリスク,骨粗鬆症や骨折のリスクに注意が必要であるとしている[12]。また,Janssen-Heijnenらは,高齢者で心疾患,糖尿病,慢性閉塞性肺疾患,静脈血栓塞栓症を有していても術後合併症や術後生存率に悪影響を与えず[13],芳賀らは70歳以上の高齢者では在院死亡率および30日死亡率は術式,年齢に有意差を認めず,ほぼ0%であったと報告している[14]。高齢者に対しても手術療法が基本で低侵襲の手術を心がけるべきとの意見もある[]。本症例ではうっ血性心不全,心弁膜症,認知症を有しているとはいえ全身状態は良好であり,内服薬を確実に継続的に服用できるか不明であった。内服できなかった時やホルモン療法無効時の病勢増悪を考慮するとQOLの向上には機を逸せず手術することが確実な治療法であり,御家族はそのことを理解した上で手術を希望した。以上より,手術療法を選択した。術式に関しては腋窩リンパ節郭清を伴わない乳房温存術で十分との考えもあるが,温存術で必ずしも満足できる整容性が得られるとは限らず,また乳腺組織が委縮した下垂が強い乳房では,乳房切除術も短時間で施行できることから,比較的低侵襲と考えられる。腋窩郭清に関しては70歳・80歳以上の高齢者には腋窩郭清は必要ないとの報告がある[1417]。また,腋窩リンパ節陽性率は高齢者では少ないとされている[1819]。センチネルリンパ節生検に関しても,仮にセンチネルリンパ節に転移が認められた場合でも多剤併用化学療法を行う可能性がほとんどないことを考えればセンチネルリンパ節生検自体が不要であり,60歳・70歳以上のホルモン受容体陽性早期乳癌を対象とした試験ではタモキシフェン投与後の腋窩リンパ節再発率は郭清の有無によらず極めて低く,5年間の追跡期間中1~2%程度[2021]で生存率も同等であったと報告されている。ホルモン受容体陽性かつ臨床的に腋窩リンパ節転移が陰性で,化学療法を行う可能性がほとんどない場合にはタモキシフェンあるいはアロマターゼ阻害剤の投与を前提にすればセンチネルリンパ節生検術自体を省略できる可能性がある[12]との報告もある。以上より腋窩リンパ節郭清を施行せず,右は乳房円状部分切除術を左は単純乳房切除術とした。局所麻酔と硬膜外麻酔を併用した良好な鎮痛効果により手術時間は計33分であった。乳房温存と乳房切除のどちらが低侵襲かは手術時間と合わせて考慮すべきと考える。うっ血性心不全,心弁膜症,認知症などの合併症を有していたが,術後合併症もなく,良好な経過であった。

結 語

超高齢者に発生した同時性両側乳癌を局所麻酔と硬膜外麻酔の併用にて手術しえた経験をした。

おわりに

本論文の要旨は,第17回日本乳癌学会学術総会にて発表した。

【文 献】
 

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