日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
原著
癌予測に有用なエコー所見に関する検討~術前細胞診で癌が確定しなかった症例を対象に~
坂下 智博本間 明宏畠山 博充水町 貴諭加納 里志古沢 純飯塚 さとし畑中 佳奈子福田 諭
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2014 年 31 巻 2 号 p. 130-133

詳細
抄録

穿刺細胞診で悪性が確定しなかった場合にも画像的に甲状腺癌が疑わしいなどの理由により手術を行うことが少なくない。術後病理診断と画像所見との関係について比較し,どのような画像所見が癌予測因子として有用であるかについて検討した。対象は甲状腺腫瘍摘出を行ったもののうち,術前細胞診で悪性以外であった58症例。術前エコー検査所見(微細石灰化,辺縁不整,内部low echo,縦横比1以上,Haloの消失)が陽性であった場合に,術後病理で悪性であった陽性適中率(PPV),陰性であった場合に術後病理が良性であった陰性適中率(NPV)をそれぞれ算出した。前述した各エコー所見のそれぞれのPPVは74,89,71,89,65%。NPVはいずれの所見も51~58%にととどまった。辺縁不整および縦横比1以上がみられた場合のPPVは89%であり,これらの所見は有用な癌予測因子となりうると考えられた。

はじめに

甲状腺腫瘍の治療方針の決定に際し,穿刺細胞診はその精度の高さから重要視される検査のひとつである[,]。しかしながら,穿刺細胞診で甲状腺癌が明らかにならなかった場合でも,画像所見などにより悪性が疑われ手術治療を行うことは実臨床の中では少なくないと思われる[]。今回,われわれの施設において穿刺細胞診で甲状腺癌が明らかにならなかったものの,手術を行った症例を対象に,術後病理検査結果と画像所見とを検証し,悪性と判断するのに有用な画像所見について検討した。

対象と方法

北海道大学病院耳鼻咽喉科において2010年7月から2013年2月までの間,甲状腺腫瘍を有し穿刺細胞診で「悪性」以外であった症例で甲状腺切除が施行された58症例を対象とした。男性17例,女性41例,年齢の中央値58歳(範囲24~77歳,平均55.4歳)。

耳鼻咽喉科医師により日立アロカメディカル社製エコー機器(HI VISION Ascendus)を用いて,Bモードにて腫瘍を観察した。腫瘍の最大径と過去の報告から癌予測に有用な所見と報告されている以下の項目(微細石灰化の有無・辺縁不整の有無・内部low echoの有無・Haloの消失の有無・縦横比1以上)について記録した[,]。また,各項目のうちいずれかひとつでも陽性であった場合に,エコー診断基準陽性とし,全項目が陰性であったものをエコー診断基準陰性とした(表1)。

表1.

エコー診断基準

エコー診断基準および各異常所見が陽性であった場合に,最終病理が癌であると判明した陽性適中率(PPV),陰性であった場合に,最終病理が良性であった陰性適中率(NPV)をそれぞれ算出した。穿刺細胞診の評価は,本邦における甲状腺癌取り扱い規約第6版に従った[]。

結 果

全58症例の手術を施行した根拠は,以下の通りである。細胞診結果の「悪性疑い」が根拠となり手術を行った例が11例,エコー所見から悪性が疑われた例が36例,腫瘍径(3cm以上)が根拠となったものが6例,繰り返しの細胞診を望まず診断的手術を行ったものが5例であった。

術前エコー検査による腫瘍最大径は中央値22mm(範囲5~66mm,平均23.6mm)。

術後病理による最終診断は未分化癌1例,低分化癌1例,高分化型乳頭腺癌28例,濾胞腺癌3例,腺腫様甲状腺腫17例,濾胞腺腫8例であり全症例の57%(33/58)に悪性腫瘍を認めた。術前細胞診の結果は「悪性疑い」が11例,「鑑別困難」20例,「良性」18例,「不適正」9例で,術後病理で悪性腫瘍が明らかとなった割合はそれぞれ82%,55%,28%,67%であった。エコー診断基準が陽性のものは47例(81%)あり,そのうち31例に術後病理で悪性腫瘍が判明した。エコー診断基準で陰性のものは11例(19%)であり,そのうち2例に術後病理で悪性腫瘍が判明した。これらエコー診断基準と術後病理診断を2×2表に示したところ感度94%,特異度36%,PPV66%,NPV82%と算出された(表2)。また各画像所見陽性の数と,術後病理で悪性腫瘍を認めた割合をそれぞれ表3に示す。

表2.

エコー診断基準と最終病理診断の2×2分割表(感度94%,特異度36%,PPV66%,NPV82%)

表3.

画像上陽性所見の数と術後病理悪性の適中率の比較

また各画像所見および腫瘍の大きさについて個別に感度・特異度・PPV・NPVを算出したものを表4に示す。エコー上「辺縁不整」および「縦横比1以上」を示した場合の陽性適中率が最も高く89%であったが,陰性適中率はいずれの所見とも42~58%の範囲にとどまる結果であった。

表4.

各画像所見における癌予測精度(PPV:陽性適中率,NPV:陰性適中率)

考 察

穿刺細胞診を施行した全症例を対象にした場合の細胞診の精度については確立したデータが報告されており,穿刺細胞診の結果をもって最終的に手術を行うかどうかのdecision makingを行うことについて異論の余地はない[,]。しかしながら,細胞診では癌が確定しなかったものの,画像所見などにより悪性を否定しえず手術が必要となるケースは少なからず存在すると思われる。細胞診では判定不可である濾胞腺癌が想定される場合や,腫瘍の石灰化が強く充分な細胞量が採取できないケースがこれに当たると思われる。また癌が確定しない場合でも,画像的に悪性を疑った場合には穿刺細胞診を繰り返し密なフォローアップが必要であるが,患者さん本人がそれを望まず診断的意義を含めて手術での摘出を希望される場合もある。過去の報告では,細胞診で鑑別困難であった症例の35~78%に甲状腺切除が施行され癌予測に有用な因子を検討する研究がなされつつある[]。本研究では,細胞診で癌の確定に至らなかった症例を対象に,特に有用なエコー所見について検討した。Kimらは,微細石灰化,辺縁不整,著明な内部low echo,縦横比>1のいずれかひとつでも陽性所見を認めた場合にエコー診断基準陽性,すべて陰性所見であるものをエコー診断基準陰性であると定めた場合に感度94%,特異度66%,PPV56%,NPV96%と報告しており,この診断基準の有用性について論じている[]。本研究においてもエコー診断基準を用いた場合には感度94%,特異度36%,PPV66%,NPV82%であり,Kimらの報告と近い結果が得られた。このように,エコー診断基準の有用性については他の報告も多く,Gweonらは,穿刺細胞診で「鑑別不能:意義不明な濾胞病変」が得られた場合でも,エコー診断基準を満たしている場合には穿刺細胞診を繰り返すのではなく,手術的治療を推奨している[]。このように穿刺細胞診で癌が明らかにならない場合でも,エコー診断基準の利用は手術決定において大きな役割を担っていると考えて良いと思われる。

本研究により,診断基準において陽性所見の数が多ければ多いほど,術後病理で悪性である割合が高いことが明らかになり,陽性所見の数は癌を予測する上での重要な因子のひとつであると考えられた。なお,本研究では各所見についても個別に検討しているが,「辺縁不整」を認めた場合と「縦横比1以上」の場合の陽性適中率については双方とも89%と高く,信頼できる所見のひとつと考えられた。

一方,腫瘍径が大きく整容的な面で手術を希望される場合も実臨床の中では少なくなく,腫瘍径4cm以上で悪性腫瘍である可能性が高まるため手術での摘出が推奨されるとの報告もみられる[]。しかしながら,本研究において腫瘍径3cm以上を陽性とした場合のPPVおよびNPVはそれぞれ53%,42%にとどまり腫瘍径の大きさと術後病理悪性との関連性は示されなかった。

一般的に乳頭腺癌の場合,穿刺細胞診の正診率は95%程度と言われている[]。本研究の対象58例のうち穿刺細胞診で「悪性疑い」が11例あり,うち9例は乳頭腺癌であった。同時期に穿刺細胞診を行い「悪性」が確定した31例は全例手術を行い乳頭腺癌であったことを確認している。「悪性疑い」以上を陽性とした場合の陽性適中率は95.2%(40/42)と高率であった一方,穿刺細胞診で「良性」・「鑑別困難」であった38例のうち14例(37%)に乳頭腺癌を認め,偽陰性も高率に認めた。繰り返し穿刺細胞診を行うことで細胞診の精度を高められた可能性はあるが,エコー診断基準を重要視して手術を行った症例が多くあったため細胞診の偽陰性が高率となった可能性が考えられる。

本研究では3例に濾胞腺癌を認めたが,うち2例(67%)はエコー診断基準陽性であったものの,これは良性結節のエコー診断基準陽性率64%(16/25)と変わらない結果であり,エコー診断基準の有用性を示すことはできなかった。濾胞腺癌については,今後も対象症例を増やし,他の異常所見についても詳細に検討する必要があると考えられた。今後,本邦においても穿刺細胞診評価にはベセスダシステム[10]が広く導入される方向にあるが,細胞診結果とエコー所見を組み合わせて評価し,癌予測因子を検討する必要がある。

おわりに

穿刺細胞診で悪性が明らかにならなかった場合においても,エコー診断基準を用いることは手術方針の決定に有用であり,さらに陽性所見の数・「辺縁不整」・「縦横比1以上」は癌を予測する上で重要な因子のひとつであると考えられた。

本論文の要旨は第46回日本甲状腺外科学会(2013年9月26日,名古屋市)において示説した。

【文 献】
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top