日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集2
原発性副甲状腺機能亢進症術後のQOL解析
宮 章博宮内 昭
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2014 年 31 巻 3 号 p. 202-204

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抄録

原発性副甲状腺機能亢進症は,様々な神経精神症状を伴う場合がある。一見自覚症状がない,いわゆる生化学型の患者ではこれらの症状があっても漠然とした非特異的症状であるので,加齢,日常生活のストレス,あるいは他の疾患の影響かと判断される可能性がある。これらの漠然とした症状が手術によって変化するかどうかを評価するために健康関連QOLの包括的尺度のSF-36が利用されてきたが,疾患特異的尺度としてPAS scoreが提唱されている。PAS scoreは簡便で迅速に計算できるので臨床の現場で利用しやすい。筋肉や平衡機能,睡眠などの症状の変化に対しても手術療法のQOL評価がされている。これらの評価によって,一見症状がない軽症の副甲状腺機能亢進症の場合でも手術によって症状が改善することが分かってきた。このことは,いわゆる無症候性副甲状腺機能亢進症の手術適応を考えるうえで大きな根拠になる。

はじめに

原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)の古典的な症状は,強度の骨痛,尿路結石,著しい神経精神症状がある。スクリーニングで血清カルシウム値を測定する機会が増えたため,最近の患者ではこれらの古典的症状を呈する患者はせいぜい20%程度である[]。いわゆる生化学型の患者に倦怠感,憂鬱な気分,脱力感,物忘れなど様々な神経精神症状があっても,これらの症状はいずれも漠然とした非特異的症状であるので,加齢,日常生活のストレス,あるいは他の疾患の影響かと判断され見過ごされる可能性がある。したがって,これらの漠然とした症状が手術によって変化するかどうかを正しく評価してPHPTに対する手術の意義を検討する必要がある。そこで今回はそれらの評価方法について紹介する。

1.健康関連QOL

健康関連QOL(HRQOL:Health Related Quality of Life)を測定する尺度は,包括的尺度と疾患特異的尺度に分類される。

包括的尺度としてSF-36(Short-Form Health Survey)がしばしば利用されている。これは科学的で信頼性・妥当性を持つ尺度で,様々な疾患の健康関連QOLを測定することができ,他の疾患や健康人のQOLと比較することもできる。米国で作成され,130カ国語以上に翻訳されて国際的に最も普及している。8つの健康概念(表1)を測定するための複数の質問項目から成り立っている。

表1.

SF-36の8つの概念

PHPTにおける疾患特異的尺度としてparathyroid assessment of symptoms score(PAS score)が提唱されているのでその研究報告も紹介する。

また,QOLに関連するものとして,筋肉,平衡機能への影響や,睡眠への影響についても紹介する。

2.PHPTに対するSF-36による評価

SF-36を使用してPHPTにおいて副甲状腺摘出術がQOLを改善することを明らかにしたいくつかの研究報告がある。Talposらは[]軽度高カルシウム血症(血清カルシウム10.1~11.5mg/dL)を伴った無症候性PHPT患者53名(女性42名,男性11名)を無作為に手術群と非手術群に分け6カ月毎,2年間,SF-36でQOLを調査した。結果は,SF-36には8つの下位尺度があるが,日常役割機能(精神)と社会役割機能の2つの尺度で手術群は有意にQOLの改善がみられた。その後,43名の無症候性PHPT患者を対象にしたSheldonらの前向き試験[],100名の多施設の前向き試験[],軽度高カルシウム血症を伴った50名の無症候性PHPT患者の前向き無作為化試験[]でも手術によるQOL改善が報告された。一方,無症候性患者では手術による効果がなかったという報告もある[]。ただし,この報告の対象患者は元々のQOLが悪く,精神症状が強かったことが影響している可能性がある。

3.PHPTに対するPAS scoreによる評価

SF-36を使用した研究報告が従来あるが,手順が煩雑なため日常の臨床現場で使用しにくい。その代わりとして,Pasiekaらは副甲状腺疾患に特異的な尺度の評価方法であるPAS scoreを考案した。これは表2のような13項目の質問で構成されており,それぞれの項目は,視覚的アナログ尺度で回答する。評価は,10cmの直線上で,左端を0点(徴候なし),右端が100点(徴候が最大)として,測定時の症状をcmで測定してスコア化する。彼らは,副甲状腺摘出術を受けた63名のPHPT患者と非中毒性甲状腺結節に対して甲状腺切除術を受けた54名の患者について,手術前と手術後7から10日,3カ月後,12カ月後のPAS scoreを調査した[]。結果は,PHPT患者群では手術後のいずれの時点でも手術前と比較するとPAS scoreが有意に低下しており,これは術前の症状が術後早期から改善し,1年後まで継続したことを示している。一方,甲状腺切除群では手術前後で有意な変化は認めなかった。次にPasiekaらは,地域が異なるカナダ,米国,オーストラリアの3施設における203名のPHPT患者についてPAS scoreを用いて手術前後の調査を行った[]。また同時に従来のQOLと健康評価法を実施した。結果は,PAS scoreがPHPT患者群では有意に改善し,1年後まで持続していた。一方,甲状腺切除群では手術前後のPAS scoreは有意差がなかった。同時に実施した従来のQOLと健康評価法も,PHPT群は手術1年後でも改善がみられたが,甲状腺切除群では変化がなかった。さらにPasiekaらは,これらの改善が長期間持続するか検討するため以前の研究対象者を手術10年後に調査した[]。PHPT群の術前,術後1年,10年のPas scoreは318,177,189で,甲状腺切除群は,それぞれ170,190,189であった。PHPT群は術後10年でも術前と比較すると有意に改善した状態が持続していた。また,術後10年のPAS scoreも両群で有意差はなかった。したがって,この前向き研究によってPHPT患者において副甲状腺摘出術は術後早期に症状を改善させ,この効果が長期間続くという恩恵があることを示した。

表2.

PAS scoreの13の評価項目

Mihaiらは,副甲状腺摘出術の術前と手術3,6,12カ月後にPAS scoreとSF-36の両方の調査を同時に行った[10]。それぞれのPAS scoreは460,254,245,249で,術後は有意に低下した。また,SF-36は,5つの尺度(体の痛み,全体的健康,活力,社会的生活機能,心の健康)で改善がみられた。またSF-36の身体要素スコアと精神要素スコアはそれぞれPAS scoreと負の相関がみられた。したがって,PAS scoreはSF-36と相関関係があり,PAS scoreはSF-36と比較すると簡便で素早く計算できるので臨床の現場で有用であることを示した。

4.筋肉,平衡機能への影響

Rolighedらは58名のPHPT患者群と58名の性別,年齢,閉経状況をマッチングした対照群を横断的研究で筋肉と平衡機能,QOL,健全性を調べた[11]。結果は,PHPT群は対照群と比較すると,SF-36の8つの全下位尺度で有意に低下,WHO Five Well-Being Indexでも健康状態が低下(p<0.001),そして開眼時(p<0.05)あるいは閉眼時(p<0.001)の立位姿勢の安定度も低下していた。また,等尺性筋力の最大値は上肢(p<0.01)と下肢(p<0.001)の両方で低下した。無症候性PHPT患者に限定すると,膝の筋力の低下と姿勢の安定性が有意に低下していた。したがって,PHPTは筋肉とQOLに悪影響を与えており,無症候性とされている軽症状のPHPT患者においても影響がみられた。筋力低下は骨密度とは関係なく骨折リスクの増加に影響する可能性があり重要な因子である。

5.睡眠への影響

睡眠障害はPHPT患者の高頻度でみられるが,副甲状腺摘出術前には44%でみられたとの報告がある[12]。また,睡眠障害と不眠症は,PHPTと関連して非常に悪影響を受けた症状であり,QOLも低下させているとの報告もある[13]。Murrayらは,115名のPHPT患者について,Insomnia Severity Index(ISI)と睡眠パターンを調べる調査を術前と手術6カ月後に実施して,睡眠障害と不眠の頻度を調べ,副甲状腺摘出術による効果を評価する前向き研究を行った[14]。結果は,術前は62.6%の患者が睡眠障害で,25.2%が不眠症であったが,ISIは手術によって低下(p<0.0001)し,68.7%の患者はISIが改善した。不眠症は,手術後に72.4%の患者が改善した。また不眠症の患者は睡眠時間が有意に延長した(p<0.02)。さらに不眠症の有無に関わらず,覚醒する回数が減少した。このようにPHPT患者では睡眠障害や不眠症が高頻度でみられるが,大半の患者は手術により改善する可能性を報告した。ただし,彼らの研究対象にはコントロール群がないことが弱点である。

おわりに

スクリーニングで発見されるような軽症の高カルシウム血症で,いわゆる無症候のPHPTの場合,手術適応を迷うことがあるかもしれないが,今回紹介した評価法などによって,一見症状がないような軽症のPHPTの場合でも手術によって症状が改善する可能性が分かってきた。したがって,PHPTを診断し手術適応を決定する場合には,このことを十分理解しておく必要がある。

【文 献】
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  • 14.   Murray  SE,  Pathak  PR,  Schaefer  SC, et al.: Improvement of Sleep Disturbance and Insomnia Following Parathyroidectomy for Primary Hyperparathyroidism. World J Surg 38: 542-548, 2014
 

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