日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
原著
当科における甲状腺高分化乳頭癌の切除範囲と再発・予後の解析
大場 崇旦花村 徹岡田 敏宏渡邉 隆之金井 敏晴前野 一真伊藤 研一天野 純
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2014 年 31 巻 3 号 p. 214-218

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抄録

1996年~2005年に当科で手術を行った甲状腺高分化乳頭癌症例278例を,全摘群134例,非全摘群144例に分け,再発・予後を解析した。再発は全摘群で21例(15.7%),非全摘群で5例(3.5%)と全摘群で有意に多く(p<0.01),遠隔再発は全摘群で12例(8.9%),非全摘群で1例(0.7%)であった(p<0.01)。原病死は全摘群で3例(2.2%),非全摘群では0例であった(p=0.2)。より進行した症例に全摘が施行されるというselection biasの影響が考えられるが,進行した乳頭癌を手術のみでコントロールすることの限界を示唆している結果とも考えられた。再発リスクの高い症例においては放射性ヨウ素によるablationなど手術以外の治療戦略を加えることが必要と考えられ,放射性ヨウ素によるablationが施行可能な施設が限られた本邦において,ablationを施行すべき症例を選択する指標の確立が必要と考えられる。

はじめに

甲状腺高分化乳頭癌は一般的に進行が遅く,予後良好であるが,術後にリンパ節再発,遠隔転移再発をきたす症例も存在する[]。治療方針,手術戦略に関しては各施設間で差があるのが現状であり,本邦の甲状腺腫瘍診療ガイドライン[]ではhigh-risk例に対しては全摘術が推奨グレードBとされており,T1N0M0症例では葉切除でよいというコンセンサスが得られている。しかしながら,これらのどちらにも当てはまらない症例はグレーゾーンとされており,個々の施設で最終決定することが委ねられている。

今回,当科における甲状腺高分化乳頭癌に対する切除範囲と再発・予後の関連について後方視的解析を行った。

対象と方法

1996年1月~2005年12月に当科において初回手術を行った甲状腺高分化乳頭癌291例のうち,初発時遠隔転移を有する13例を除いた278例を,全摘群(全摘または準全摘)134例,非全摘群(葉切除以下)144例に分け,再発の有無や予後を解析した。時期により若干の差はあるが,当科では①腫瘍が片葉に認められ1cm未満の場合は片葉切除+D1,②腫瘍が両葉に認められいずれも1cm未満の場合は全摘術+D1,③いずれかが1cm以上の場合は全摘+D2aを標準術式としてきた。また,腫瘍径に関わらず,内深頸領域のリンパ節転移が明らかな症例,明らかなEx2症例では全摘+D2aを施行してきた。リンパ節郭清範囲は甲状腺癌取扱い規約第6版[]に準じて分類した。

また,全摘または準全摘症例で術中所見および病理組織学的検査所見により腫瘍の遺残が認められる症例,リンパ節転移が多数の症例に対しては,放射性ヨウ素によるablationを施行した。

結 果

1.全摘群,非全摘群の臨床病理学的特徴(表1

平均観察期間(以下,±標準偏差)は138.9±39.8カ月(13~207カ月)であった。平均年齢は全摘群で53.4±16.1歳,非全摘群で49.6±15.2歳であり,全摘群で有意に高かった(p<0.05)が,性別には有意差を認めなかった。術式は全摘群で全摘72例,準全摘62例であり,非全摘群では葉切除が142例,部分切除1例,核出1例であった。リンパ節郭清は全摘群でD0が3例,D1 24例,D2a 70例,D2b 9例,D3a 15例,D3b 4例,D3c 9例であり,一方,非全摘群ではD0 2例,D1 53例,D2a 87例,D2b 2例で,全摘群で有意に郭清範囲が広かった(p<0.05)。D0症例は偶発癌症例であった。隣接臓器合併切除は全摘群で22例,非全摘群で7例と全摘群で有意に多かった(p<0.05)。全摘群で病理学的腫瘍径は有意に大きく(p<0.05),リンパ節転移は有意に多く(p<0.01),pExは有意に高かった(p<0.01)。

再発は全摘群で21例,非全摘群で5例であり,全摘群で有意に多く(p<0.01),遠隔再発は全摘群で12例,非全摘群で1例であった(p<0.01)。全摘群で3例の原病死を認め,非全摘群では原病死は認めなかった(p=0.2)。また,全摘群,非全摘群いずれにおいても,pN0症例は腫瘍径,pExに関わらず,再発を認めなかった。

表1.

全摘群,非全摘群の臨床病理学的特徴

2.非全摘群での再発例の臨床病理学的特徴(表2

再発部位は局所再発5例(頸部リンパ節4例,縦隔リンパ節1例),遠隔再発1例(肺)であった(重複含む)。頸部リンパ節再発は対側リンパ節再発が1例,郭清範囲外での再発が3例であった。再発例5例中4例は局所再発であり,そのうち3例は局所再発巣切除+再手術後の放射性ヨウ素によるablationにより無再々発生存中であった。

表2.

非全摘群での再発例5例の臨床病理学的特徴

3.全摘群での再発例の臨床病理学的特徴(表3

再発部位は局所再発13例(皮下3例,頸部リンパ節9例,縦隔リンパ節1例),遠隔再発12例(肺10例,骨3例)であった(重複含む)。頸部リンパ節再発は郭清範囲内での再発は1例で,郭清範囲外での再発が8例であった。

初回手術後に放射性ヨウ素によるablationが施行されていたのは7例で,施行されていなかった14例のうち12例はリンパ節転移数が10個以上もしくはpEx2症例であった。また,初回手術後放射性ヨウ素によるablationが施行されていた18例(表4)のうち11例は無再発で経過しており,再発例7例中6例はリンパ節転移が20個以上の症例であった。ablation非施行群116例の平均観察期間は139.4±39.8カ月(13~207カ月),ablation施行群18例の平均観察期間は132.8±39.8カ月(20~189カ月)で有意差は認めなかった。

局所再発例13例のうちで,局所再発のみの9例中8例は局所再発巣切除+再手術後の放射性ヨウ素によるablationにより再々発なく生存中であり,遠隔再発12例中9例は再発後に放射性ヨード内用療法を施行し,担癌状態で生存中であった。

原病死に至った3例中2例では初回手術後に放射性ヨウ素によるablationが施行されておらず,原病死の原因は肺転移による呼吸不全が2例,骨転移による全身状態の悪化が1例であった。

表3.

全摘群での再発例21例の臨床病理学的特徴

表4.

初回手術後に放射性ヨウ素によるablationが施行された18例の臨床病理学的特徴

考 察

甲状腺乳頭癌は生命予後がよいため,甲状腺切除範囲が生命予後,再発におよぼす影響に関してエビデンスレベルの高いデータを出すためには,多数の症例集積および,数十年間に渡る経過観察が必要と考えられる。海外からはBilimoriaら[]が52,173例での10年間に渡る解析で,生命予後は全摘術のほうが良好であると報告しており,Hayら[]はstageⅢ症例300例の30年間に渡る解析で,全摘術のほうが生命予後は良好で,局所再発率も低いと報告している。一方,Haighら[]は5,432例での12年間に渡る解析で生命予後,再発率ともに差はないと報告している。これらの報告には1940年代からの症例なども含まれており,超音波検査など各種画像検査が進歩した現在の症例とは単純比較はできないと考えられる。さらに,全摘術と放射性ヨウ素によるablationの組み合わせが一般的である欧米と異なり,本邦では放射性ヨウ素によるablationを施行できる施設が限られていることから,海外での成績と本邦での成績を比較することは適切でないと考えられるが,上述の如く全摘術と葉切除術の術後成績に関しては様々な報告がある。本邦からはItoら[]がT1N0M0症例2,637例での20年間に渡る解析で生命予後,再発率に有意差はなく,葉切除でも良好な予後が期待できると報告しており,近年,海外からもT1/2N0M0症例では葉切除で十分との報告がされている[]。

本検討では腫瘍径40mm以下かつpN0症例では再発は認めず,pT1/2N0症例に対する葉切除は妥当な術式であると考えられたが,pT,pNは術後に得られる因子であるため,術式決定には有用ではない。ここで,cT1/2N0M0症例99例を検討したところ,pN0は57例(57.6%),pN1aは20例(20.2%),pN1bは22例(22.2%)であった。これらのうちで再発は局所再発2例(2.0%)のみで,いずれも再切除後に放射性ヨードによるablationを施行し無々発生存中であった。以上より,cT1/T2N0M0症例に対する葉切除は十分許容されうると考えられる。また,本検討では腫瘍径やpExに関わらず,pN0症例では再発を認めず,pN0は予後良好因子である可能性があると考えられた。

再発部位に関しては,全摘群で遠隔再発が有意に多く,さらに,非全摘群では原病死は認めなかったが,全摘群では3例の原病死を認め,そのうち2例は術後に放射性ヨウ素によるablationが施行されていなかった。より進行した症例で全摘が選択されたというselection biasの影響があると考えられるが,進行した甲状腺乳頭癌を手術のみでコントロールすることの限界を示唆している結果とも考えられ,再発リスクの高い症例においては,放射性ヨウ素によるablationなど手術以外の治療戦略を加えることが必要と考えられる。甲状腺分化癌に対する放射性ヨウ素によるablationの有無が再発や癌死の独立した予後因子になるとの報告があり[],放射性ヨウ素によるablationによりhigh-risk群では局所再発,遠隔転移,癌死の低下が得られる[1011]。本検討では全摘群での再発例21例中14例は放射性ヨウ素によるablationが施行されていなかった症例であり,うち12例はリンパ節転移が10個以上,もしくはpEx2の症例であった。また,pEx2やリンパ節転移を多数認める症例でも,放射線ヨウ素によるablationを施行し,無再発で経過している症例も11例あった。これらは,放射性ヨウ素によるablationによる再発riskの低下が示唆される結果であり,当院では2012年からリコンビナントTSH製剤使用下での30mCi投与による外来アブレーションが施行可能となり,high-risk症例に対して,積極的に施行している。

結 語

cT1/2N0M0症例に対する葉切除は妥当な術式であると考えられ,pN0は予後良好因子であると考えられた。

非全摘群での遠隔再発は0.7%であり,当科の治療方針は概ね妥当であったとは思われるが,全摘群の中には本来全摘が必要なかった症例も含まれている可能性があり,さらなる症例の蓄積が必要と考えられた。

また,再発リスクの高い症例においては全摘後に積極的に放射性ヨウ素によるablationを併用することが望ましいと考えられるが,施行可能な施設が限られた本邦において,放射性ヨウ素によるablationを施行すべき症例を選択する指標の確立が必要と考えられる。

【文 献】
 

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