日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集2
クッシング症候群/サブクリニカルクッシング症候群
内海 孝信神谷 直人今本 敬市川 智彦鈴木 啓悦
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2016 年 33 巻 1 号 p. 27-31

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抄録

クッシング症候群/サブクリニカルクッシング症候群(CS/SCS)は,副腎皮質からコルチゾールの慢性的な過剰分泌により引き起こされる病態であり,長期間に渡る高コルチゾール血症の影響で,高血圧や低カリウム血症,耐糖能異常・糖尿病,肥満,心血管系疾患,筋力低下,横隔膜拳上による呼吸機能の低下,骨粗鬆症・病的骨折,易感染性,精神神経症状など周術期管理の上で様々な問題を抱えていることが多い。また,視床下部CRH-下垂体ACTH系が抑制され,非病変部の副腎皮質も萎縮しコルチゾール産生が強く抑制されているために,副腎摘除術後は副腎不全の状態にある。CRH-ACTH系が回復し内因性コルチゾール産生が正常化するまで,術後はステロイド補充が必須となる。本稿では,われわれ外科医が担当するCS/SCSの周術期管理および術後ステロイド補充に関して詳述する。

はじめに

クッシング症候群/サブクリニカルクッシング症候群(Cushingʼs syndrome/subclinical Cushingʼs syndrome:CS/SCS)は,副腎皮質からコルチゾールの慢性的な過剰分泌により引き起こされる病態であり,ACTH依存性とACTH非依存性に大別される。ACTH依存性には下垂体性クッシング症候群(クッシング病)と異所性ACTH産生腫瘍があり,ACTH非依存性は狭義のCS/SCSであり副腎腫瘍によるコルチゾール過剰産生によって生じる[]。

副腎性CS/SCSの病因には,副腎腺腫および副腎癌,ACTH非依存性大結節性副腎過形成,原発性副腎皮質小結節性異型性などがある[]。CSは満月様顔貌や水牛様脂肪沈着,中心性肥満など特徴的な身体所見を示すが,SCSでは欠いているためCTなどの画像検査で副腎偶発腫瘍が見つかった場合は,SCSの可能性も考慮し内分泌機能検査を行う必要がある[,]。SCSは,顕性のCSに比べて合併症は少なく軽度なことも多いが,術後副腎不全になることもあるためCS同様の厳重な周術期管理が求められる[]。

CS/SCSに対する手術は,一般的に良性腺腫で大きさは4~6cmまでであれば,腹腔鏡下副腎摘除術(全摘)の適応となる[11]。大きな腫瘍や術前に副腎癌が疑われる症例は,腹腔鏡手術で行うのであれば経験豊富な術者が望ましい。非常に大きな腫瘍やリンパ節転移,局所浸潤のある症例は,従来通り開放手術の適応となる[11]。

周術期管理

CS/SCSの周術期において,高コルチゾール血症によって引き起こされる合併症の評価と管理が重要である。長期間に渡る高コルチゾール血症の影響で,高血圧や低カリウム血症,耐糖能異常・糖尿病,心血管系疾患,深部静脈血栓症,肥満,筋力低下,横隔膜拳上による呼吸機能の低下,骨粗鬆症・病的骨折,易感染性,精神神経症状など様々な合併症が存在する。以前と比べて周術期の合併症は減少しているが,特に顕性のCSは手術侵襲に対して脆弱な状態にあり,厳格な周術期管理が求められる[1216]。

⑴ 高血圧・低カリウム血症

通常ではコルチゾールが11β水酸化ステロイド脱水素酵素によりミネラルコルチコイド受容体に親和性のないコルチゾンに変換されるため,コルチゾールによるミネラルコルチコイド作用は発現しない。しかしながら,コルチゾール過剰状態では酵素阻害が生じるため,ミネラルコルチコイド作用が発現する[1719]。ミネラルコルチコイド作用により,腎臓でのナトリウム再吸収,カリウム排泄亢進が起こり,高血圧や低カリウム血症,アルカローシスを生じる[18]。

高血圧に対しては降圧薬で適正範囲内に血圧をコントロールし,低カリウム血症に対しても原則はカリウム製剤の内服で補正する。

⑵ 耐糖能異常・糖尿病

高コルチゾール血症により,内臓脂肪が増加しインスリン抵抗性を生じ,肝臓での糖新生も促進されるため,CS/SCSでは耐糖能異常や糖尿病になりやすい[]。糖尿病に関しては,厳しい低カロリー食による管理ではなく,カロリー制限は緩くしインスリンによる血糖コントロールを行う[18]。糖尿病の程度にもよるが,術中も麻酔科医によりインスリンの持続静注で血糖管理を行う場合もある。

⑶ 心血管疾患・深部静脈血栓症

高血圧や糖尿病などの血管障害性の合併症,またCSでは血液凝固能が亢進している場合もあるので[18],術前の心血管疾患や深部静脈血栓症の評価は重要である。心臓超音波による心機能の評価や下肢静脈超音波による深部静脈血栓症のスクリーニングを行う必要がある。低心機能の場合は,心不全を起こさないように術中・術後の補液量に注意する。

合併症に状況によっては循環器内科にコンサルトし,抗凝固薬や抗血小板薬,ヘパリンの投与が周術期に必要な場合もある。周術期の深部静脈血栓症・肺塞栓症の予防管理は,各施設でリスク分類に応じた対処(弾性ストッキングの着用やフットポンプの装着など)をしている。可能な限り術後早期の離床を促し,脱水傾向にならないように飲水・補液量に注意する。

⑷ 呼吸機能の低下

脂肪合成が亢進しているため肥満となり,タンパク質異化亢進により筋力低下も生じている[18]。特に顕性のCSでは,肥満による横隔膜拳上および筋力低下による呼吸機能低下があることも多く[],術前の呼吸機能が良くなければ呼吸器内科にコンサルトして,呼吸機能訓練指導や喫煙者の場合は禁煙指導,術後の早期離床やネブライザーによる喀痰排泄促進などを行う。さらに,周術期の一定期間,去痰薬の内服や点滴を行う場合もある。

⑸ 骨粗鬆症・病的骨折

腸管からのカルシウム吸収の低下や骨形成低下,骨吸収亢進により骨粗鬆症を生じやすくなる[]。そのため,かつては脊椎圧迫骨折による神経障害で歩行困難となってから手術となる症例も多かった[18]。現在でも,術前に骨密度検査(dual-energy X-ray absorptiometry:DEXA)を行って骨粗鬆症を評価し,単純レントゲンやCTで脊椎の圧迫骨折がないか評価しておく必要はある。さらに,気管挿管時の喉頭展開(頸椎骨折)や体位変換時に骨折を生じるリスクもあり,術前に整形外科へコンサルトすることも必要である。

⑹ 易感染性

高コルチゾール血症により免疫力低下や皮膚の菲薄化・脆弱化があり,感染に対しては厳重に観察する必要がある[]。術前の活動性の感染がないか確認すること,術後も創傷治癒遅延による創哆開,創部感染症,褥瘡の発生やテープ・ドレーンの擦れによる表皮剝離にも注意が必要である[18]。また,CSでは尿中カルシウム増加のため尿路結石を生じやすく,易感染性と重なって閉塞性腎盂腎炎のリスクが高いことも認識しておく必要がある。

⑺ 精神神経症状

CSでは,精神神経症状を約50%合併するとの報告もある[20]。罹患期間の長い症例では,うつ病を合併し自殺企図のリスクもあるので,精神科医によるサポートも必要である。

⑻ 消化管潰瘍・出血

高コルチゾール血症により,消化管潰瘍や出血のリスクもあり,術後ステロイド補充の際に併用するだけでなく,術前からプロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーを内服する場合がある。

術中や術後の静脈ルートの確保は,末梢血管が脆弱なため確実な補液ルートを確保する目的で,中心静脈ルートを採る場合がある[18]。全身麻酔導入後に,麻酔科医に依頼して内頸静脈への中心静脈カテーテル留置を行う。

術中のステロイド補充は,副腎中心静脈を処理するタイミングで麻酔科医に依頼して,ヒドロコルチゾン(サクシゾン®や水溶性ハイドロコートン®など)100mgを静脈注射する。

ステロイド補充

CS/SCSでは,副腎腫瘍によるコルチゾール過剰産生のため視床下部CRH-下垂体ACTH系が抑制されており,また非病変部の副腎皮質は萎縮してコルチゾール産生が強く抑制されている[2122]。このため,副腎摘除術後は副腎不全の状態にあり,CRH-ACTH系が回復し内因性コルチゾール産生が正常化するまでステロイド補充が必要になる[18]。ステロイド補充には,グルココルチコイド作用とミネラルコルチコイド作用のあるヒドロコルチゾンが用いられることが多い。

術前説明では,副腎不全の症状(表1)や術後ステロイド補充に関して十分に説明する必要がある[18]。術後は副腎不全のリスクがあり,副腎不全を放置した場合は最悪死亡する可能性があること,副腎皮質ホルモン(ステロイド)の長期に渡る内服が必要になることを本人・家族に説明し十分に理解してもらう。特に両側副腎摘除した場合は,生涯に渡ってステロイド内服が必要になることを説明しなければならない。

表1.

副腎不全の症状・検査所見

ステロイド補充中のストレス負荷がかかったとき(発熱や外傷,歯科治療時など)には,ヒドロコルチゾンを追加内服することをあらかじめ指示しておく。また,特に両側副腎摘除した症例では,緊急時に対応できるようにステロイド服用状況や緊急時のステロイド補充の処置を記載した医療情報カードを渡しておく施設も多い[18]。

SCSではステロイド補充をルーチンには行わない施設もある一方で,SCSの診断基準には「副腎摘除後の一過性の副腎不全症状があった場合」という参考所見が含まれており,SCSであっても常に副腎不全の発生に注意する必要がある。また,術前の視床下部CRH-下垂体ACTH-副腎系の評価は必須であり,術前のACTH基礎値が低値でCRH負荷試験に対して無~低反応,副腎アドステロールシンチで対側副腎への取り込み低下~消失を認める症例は,顕性のCSに準じたステロイド補充が勧められている[2122]。

⑴ 周術期のステロイド補充

周術期のステロイド補充は,施設や担当医(内分泌内科医)により補充量・期間・減少スケジュールがかなり異なるが,当院におけるCS/SCSに対する周術期のステロイド補充の例を示す(表2)。

表2.

当院におけるステロイド補充の例

CS:クッシング症候群

SCS:サブクリニカルクッシング症候群

入院中のステロイド補充の減量スケジュールは,安全かつ患者に負担のかからないように減量する[182122]。あまりに減量を急ぐと相対的副腎不全のために,全身関節痛・筋肉痛や倦怠感,食欲不振,発熱,易疲労感,嘔気,尿量減少,血圧低下をきたし患者負担が甚大になる[18]。多量のステロイド補充になる場合もあるため,術後の高血糖や低カリウム血症に注意し積極的に治療介入する。また,消化管潰瘍に対する予防のための薬剤の投与も必要である。

⑵ 外来におけるステロイド補充

当院では,一日ヒドロコルチゾン30mgで強い副腎不全徴候がない場合に退院とすることが多いが,個々の症例に応じてタイミングを計ることが重要である。退院後は内分泌内科医の外来で,ステロイド離脱症状に注意しながらステロイドを減量していく。

ヒドロコルチゾン内服中はコルチゾール値が指標とならないため,漸減に伴うACTH値の上昇を視床下部CRH-下垂体ACTH-副腎コルチゾール機能の回復の参考とする[2122]。また,ヒドロコルチゾンの半減期は短いため,外来日の朝のヒドロコルチゾンを内服させずに来院させ,採血した直後にヒドロコルチゾンを内服させて,測定された血中コルチゾールを残存副腎機能の指標とする施設もある[18]。さらに,完全に中止する前に,CRH負荷試験を行い,ACTHの反応の正常化を確認している施設もある[2122]。

前述した相対的副腎不全の症状の中でも,全身関節痛や倦怠感,食欲不振などの症状が客観的に軽度であれば,患者に十分に説明した上でステロイド内服の再増量は行わない場合もある[21]。ただし,発熱や電解質異常,血圧低下など客観的に副腎機能低下が認められる場合は,漸減速度が速すぎる可能性があり,一旦増量して再度漸減を行った方が良い[21]。

施設や症例によってもステロイド補充期間に幅があるが,CSでも一般的に術後6~18カ月程度でステロイド補充は中止できることが多い。症例によっては,2~3年かかることもあり,患者の状態に合わせて慎重に減量することが求められる。SCSでのステロイド補充期間は,当然CSよりも短くなるが,こちらも報告によってばらつきがある(表3)[2327]。

表3.

サブクリニカルクッシング症候群のステロイド補充期間

おわりに

CS/SCSは合併症も多様で,術後ステロイド補充の期間も施設や症例によって異なる。周術期管理や術後フォローアップを担当するわれわれ外科医は各診療科と緊密に連携して,症例ごとに安全かつ最適な治療スケジュールで診療にあたることが求められる。

謝 辞

東邦大学医療センター佐倉病院糖尿病・代謝・内分泌センター教授龍野一郎先生並びに千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学准教授田中知明先生をはじめ,内分泌内科の先生方のご協力に深く感謝申し上げます。

【文 献】
 

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
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