日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集2
神経筋弁移植術
讃岐 徹治湯本 英二
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 33 巻 4 号 p. 249-253

詳細
抄録

甲状腺癌に対する手術操作や腫瘍浸潤により,一側反回神経麻痺をきたした場合,高度の気息性嗄声のためQOLが著しく低下する。正常音声までの改善には麻痺側声帯の位置を正中位に固定し,声帯筋の収縮により声帯の自然な形態と緊張を回復させることが重要であり,声帯筋の神経支配再建が必要となる。

甲状腺癌術後症例では通常反回神経末梢側の利用が困難なことが多く,神経筋弁移植術と披裂軟骨内転術を併用する。

本術式では術直後より空気力学的検査の改善が得られ,その後経時的に聴覚印象が改善し正常音声までの回復が期待できる。

はじめに

反回神経麻痺の原因はさまざまであるが,甲状腺腫瘍や食道癌など頭頸部疾患が占める割合が大きい。当科における過去の反回神経麻痺臨床統計(1999~2007年)においても術後性麻痺の約15%を甲状腺手術が占めていた(表1)。また甲状腺手術における反回神経麻痺の合併率は,0.2から4.1%であったとする報告もある[]。また反回神経の合併切除を選択しなければならない場合があり,術後の嗄声が問題となる。

表1.

術後性麻痺の原因疾患

手術操作や腫瘍浸潤により一側反回神経麻痺をきたした場合,高度気息性嗄声によりQOLが著しく低下するため,音声改善手術の適応となる。

本稿では,甲状腺手術後の二期的神経再建術,特に神経筋弁移植術を中心に方法と効果について論じる。

甲状腺手術後一側反回神経麻痺に対する治療指針

一側反回神経麻痺による嗄声の治療には,声帯の位置を正中位に移動させ,声帯筋(甲状披裂筋)の収縮による声帯の自然な形態と緊張を回復させることが重要である。

当科における一側反回神経麻痺に対する治療方針を示す。神経再建手術は大きく,甲状腺手術に引き続いて一期的に神経再建手術を行う場合と,甲状腺手術に嗄声の改善を希望する患者に対して行う二期的再建手術に分けられる。

二期的手術で声帯のレベルや厚みに左右差がない症例や,甲状腺手術時に広範な郭清を行い頸神経ワナが使用できない症例を除き,神経再建術を用いている。神経再建術には神経縫合術,神経移植術,神経移行術,神経筋弁移植術がある(図1)。

図1.

神経再建方法

A:神経縫合術

B:神経移植術

C:神経移行術

D:神経筋弁移植術

なお,甲状腺癌初回手術時に反回神経を合併切除した症例では神経末梢側の同定が難しいため,二期的手術の際は神経移行術ではなく神経筋弁移植術を選択している。

手術の適応

一側反回神経麻痺で,発声時に声帯間高低差がある時,声帯の厚みに左右差がある時,後部声門間隙が大きい症例などに対して披裂軟骨内転術と神経筋弁移植術が適応となる。

神経筋弁移植術

神経筋弁移植術は,Tuckerにより初めて報告された術式である[]。喉頭麻痺を対象として頸神経ワナと肩甲舌骨筋を利用した神経筋弁を声帯筋に移動して音声の改善が得られている。またMayらが同様に神経筋弁を外側輪状披裂筋に移植し,音声改善が得られたことを報告している[]。しかしそれ以降広く普及することはなかった。その理由は臨床例で術後嗄声の改善が十分でなかったこと,および動物モデルでこれらの臨床成績を裏付ける実験データが乏しかったためと考えられる。

そこでわれわれの教室では,ラット反回神経脱神経モデルを用いて神経筋弁移植術を行い,筋萎縮の回復[]と誘発筋電図評価[]から,臨床での神経筋弁移植術の有用性を示唆する結果を得た。

当教室の術式[]は,Tucker,Mayらのそれといくつかの点で異なる。まず神経筋弁は胸骨舌骨筋より採取している。同筋は肩甲舌骨筋と異なり頸神経ワナのループより分枝する太い神経によって支配されているため神経再生に有利と考える。また術中に神経刺激装置により十分な神経活動を確認したうえで神経筋弁を採取し,顕微鏡下操作で正確に移植をしている。

手術の実際[10

手術は全身麻酔下(男性は挿管チューブ内径7mm,女性は6mm)で行う。甲状軟骨下縁よりも少し頭側で正中から胸鎖乳突筋前縁まで水平の皮膚切開を行い,皮弁を挙上する。

神経筋弁の作成:内頸静脈を露出し肩甲舌骨筋の背側で頸神経ワナ上根を同定する。同筋を切断し頸神経ワナを尾側に追跡する。下根に合流した後,胸骨舌骨筋に侵入する部位で5mm角の筋肉片を付けて神経筋弁を作成する。術中は神経刺激装置を用い,神経筋活動を確認することと神経筋弁が緊張なく甲状軟骨翼まで届くように頸神経ワナを頭側に向かって剝離することが重要である。

披裂軟骨内転術はIsshikiの方法[11]に従う。甲状軟骨後縁を露出し,甲状咽頭筋を切断する。その後甲状軟骨後縁にメスで切開線を入れ,両頭鋭匙や剝離子で内側の軟骨膜を粘膜と一緒に剝離する。剝離を尾側にすすめ,甲状軟骨下角を探し,輪状甲状関節を剪刃で開くようにしながら外し,輪状甲状関節を確認する。甲状軟骨上角も露出させ,甲状舌骨靱帯移行部で切断する。

筋突起周囲には梨状窩に相当する粘膜が覆い被さっている場合があるため,慎重に処理する必要がある。

筋突起は,輪状甲状関節から輪状軟骨稜線上に沿って約1cm上方に米粒大の突出として確認できる。筋突起は,有鉤アドソン鑷子で把持して可動性を確認する。

筋突起に牽引用の糸をかける。針は小さめのもの(形成外科用強彎針No0~1など)と3-0ナイロンを用い,先端がちぎれないように十分組織に糸をかけて結ぶ。

窓枠作製と甲状披裂筋筋束の露出:甲状軟骨翼の窓部分のデザインは,窓枠下縁と甲状軟骨下縁の距離は2mm以上とする。開窓は手術顕微鏡下にドリルで行い,次に内軟骨膜を切開し,甲状披裂筋筋束を露出する。

筋突起牽引と筋移植:牽引する糸を出す方向は,前後では甲状軟骨翼中央と前1/3であり,高さは開窓部の下縁と甲状軟骨下縁に出す。牽引する力はあまり必要なく,引っ張りすぎると過内転するが,挿管チューブがあるため糸が緩まない程度の力で結紮する。筋弁の筋肉部はできるだけ広く声帯筋と接するように手術顕微鏡下で8-0ナイロン糸を用いて2糸程度固定する(図2A)。筋弁移植を行った後は,開窓部を外軟骨膜で被覆し,止血を確認して,ペンローズドレーンを傍声門腔へ留置して閉創する(図2B)。

図2.

神経筋弁移植術

A:筋突起を牽引する糸を結紮固定し,神経筋弁を広く内筋と接するように置いて固定したところ

B:内転術と神経筋弁移植術を終了し,窓枠を外軟骨膜で被覆したところ

治療成績

2000年5月から2014年10月まで当科で神経再建術を行った一側反回神経麻痺症例88例のうち甲状腺癌術後の麻痺に対して披裂軟骨内転術と神経筋弁移植術を施行し1年以上観察できた15例の術後の発声機能について検討した。全例に披裂軟骨内転術に神経筋弁移植術を併用した。15例中5例は,甲状腺手術時の頸部郭清術のため患側の頸神経ワナの同定ができなかったか,神経活動の確認ができなかったため,健側の頸神経ワナと甲状舌骨筋による神経筋弁を用いて神経再建を実施した。症例の内訳は表2に示す。

表2.

症例の内訳

発声機能の評価として最長発声持続時間(MPT),平均呼気流率(MFR),声の質の評価として,GRBAS尺度(声の聴覚印象)の結果を提示する。GRBAS評価は,2名の耳鼻咽喉科専門医と1名の言語聴覚士が行い,2点以上の検者間の評点差がないことを確認して,その平均点を採用した。反回神経麻痺による嗄声ではAとSの要素がほとんどみられないため,G,R,Bについて記載した。

発声機能の評価時期は,手術直前,術後1~3カ月,術後6~12カ月,術後12カ月以上で行った。術後どの時期もMPT12秒以上,MFRは約200ml/秒以下で術前より改善した(図3)。GとBの評価は術後のどの時期も術前に比して改善し,12カ月以上では0.4,0.3とほぼ正常の聴覚印象となった。一方,Rは術前より0.4と低値であり,術後ほとんど変化はなかった(図4)。術直後よりMPT,MFRが改善したのは,披裂軟骨内転術の効果と思われる。聴覚印象(G,B)は声帯筋の神経支配がすすむにつれ,経時的に改善したと考えられる。

図3.

発声機能検査

図4.

声の聴覚印象

まとめ

一側反回神経麻痺症例に対する音声改善手術において正常音声獲得には,声帯の位置を正中位に変化させ,声帯筋の収縮による声帯の形状と緊張を回復させることが重要であり,そのためには麻痺側声帯の神経再支配が必要である。

甲状腺癌術後では,通常反回神経末梢端を利用できないことが多く,神経再建手術のうち神経筋弁移植術に披裂軟骨内転術を併用している。

本術式では術直後より空気力学的検査の改善が得られ,その後経時的に聴覚印象が改善し正常音声までの回復が期待できる。

【文 献】
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top