Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Indications and techniques for US guided FNA for thyroid nodules
Wataru KitagawaMitsuji NagahamaKiminoro SuginoKoichi Ito
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2017 Volume 34 Issue 1 Pages 17-22

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抄録

穿刺吸引細胞診は,甲状腺腫瘍の診断に欠くことができない検査である。しかし,その手技や検体処理の仕方によっては,検体不適正率が上がり穿刺吸引細胞診を再検する必要が出てくる。穿刺吸引細胞診では十分な量の細胞を採取し,迅速・的確に適正な標本を作製する必要がある。

重要なことは,すべてUSガイド下に診断に適した部位から選択的に細胞を採取すること,細胞診成績を左右するので,検体処理を速やかに固定まで丁寧に行うことである。

穿刺吸引細胞診の適応と当院で施行しているUS guided FNAの手技とそのコツを述べた。また,通常の塗抹標本以外にLBCやメンブレンフィルターを用いる検体処理の工夫をすることによって,検体不適正率は減少する。

はじめに

超音波機器の発達や穿刺吸引細胞診技術の向上に伴い,数mmの微小癌も診断できるようになってきている[]。穿刺吸引細胞診は多くの病理組織型推定が可能な簡便な検査ではあるが,その施行方法によっては,検体不適正で再度細胞診を施行しなければならないこともある。細胞診に関わる臨床医,臨床検査技師は細胞診専門医が十分判断できる量の細胞を採取し,迅速・的確に適正な標本を作製することが重要になる。この項では,甲状腺結節に対するUS guided FNAの適応とそのコツに関して記載する。

適 応(図1,2
図 1 .

囊胞性病変の超音波診断フローチャート

「日本乳腺甲状腺超音波医学会甲状腺用語診断基準委員会編:甲状腺超音波診断ガイドブック,改定第3版,p.49,2016,南江堂(文献)」より許諾を得て転載。

図 2 .

充実性病変の超音波診断フローチャート

「日本乳腺甲状腺超音波医学会甲状腺用語診断基準委員会編:甲状腺超音波診断ガイドブック,改定第3版,p.50,2016,南江堂(文献)」より許諾を得て転載。

日本乳腺甲状腺超音波学会(JABTS)から出版されている甲状腺超音波診断ガイドブック第3版(2016)[]は,詳しく細胞診の適応を決めている。結節性病変は囊胞性病変と充実性病変に分けて,さらに腫瘍径によるFNA適応基準を提唱している。

囊胞性病変(図1

囊胞内の充実性部分が50%以上と50%未満に分け判断する。充実性部分が50%以上占める場合は,充実性病変として扱い,充実性病変が50%未満の場合は囊胞の腫瘍径でFNAを施行するか判断する。

充実性病変(図2

5mm以下では通常経過観察を勧めているが,頸部リンパ節転移が疑われる場合や遠隔転移が疑われる場合,CEA,カルシトニン高値で髄様癌を疑う場合はFNAの適応となる。5mmより大きく10mm以下の場合は悪性を強く疑う場合,10mmより大きく20mm以下の場合は悪性を疑う場合に適応になる。20mmを超える充実性病変はすべてFNAの適応となる。

しかし,甲状腺専門外来では紹介患者も多く,5mm以下でも細胞診の結果を紹介医に報告しなければいけない場合も想定され,適応はそれぞれの施設や担当医師の判断となるのが現状である。

禁 忌

甲状腺機能亢進状態のバセドウ病,皮膚に感染を伴う場合,頸部の静止が得られない症例は禁忌である。

抗凝固薬の服用は中止せずに行える。

穿刺部位

穿刺する部位によって,細胞の採取量に相違があるので,診断に最適な部位より細胞量を採取することが重要となる。また,穿刺時の動静脈,気管などを避けて安全に穿刺するためには,必ずUS guidedで行うべきである。

主な穿刺部位を表1に示した。

表 1 .

主な穿刺部位

穿刺方法

交差法と平行法がある。それぞれの利点と欠点を図3に示した。施行医が最も慣れた方法を用いることが安全である。

図 3 .

交差法と平行法の利点,欠点

当院では,平行法で細胞診を施行しているので,その手技について記載する(図4)。

図 4 .

US guided FNAの実際(平行法)

1)使用プローブ

体表用のドプラ機能を有する12MHz以上の高周波数デジタルリニアプローブを使用する。

2)穿刺器具

穿刺時に必要な物品を表2に示した。穿刺針は通常22G,120mmの吸引生検針を用いているが,組織の硬さによって18Gや20Gを選択する。

表 2 .

穿刺に必要な物品 文献)より引用,一部改変。

プローブを超音波用ゼリー入りのプローブカバーに挿入し,穿刺用アタッチメントを装着する。20cc注射器シリンジを装着した穿刺吸引細胞診断用シリンジフォルダー(千葉大式吸引ピストル)に,穿刺針と接合したエクステンションチューブを装着する(図5)。

図 5 .

穿刺用プローブ,穿刺用アタッチメント(図左)と千葉大式吸引ピストル(図右)

通常120mmの22G吸引生検査針と穿刺吸引細胞診断用シリンジフォルダー(千葉大式吸引ピストル)をエクステンションチューブで接合する。

3)細胞固定操作の準備器具,薬品

細胞固定に必要な器具と薬品を表3に示した。

表 3 .

固定操作準備品 文献)より引用,一部改変。

穿刺手技

1)体 位

患者をベットにあおむけに寝かせ,前頸部を伸展するため肩枕を挿入する。

2)消 毒

穿刺する頸部全体とプローブカバーを消毒する。麻酔は使用せず,超音波用ゼリーは用いない。

穿刺時の注意点とコツ

①針先をいつもエコーで確認する

最も大事なことは超音波で針先を見失わないことである。針先が十分確認できない場合は穿刺を続行せず,プローブを微調整し針先を再確認するか,一度穿刺を中止する。不用意な副損傷は絶対避けなければならない。

②超音波画像上のガイドラインより穿刺針がずれた場合

この場合はゆっくり針を回転して進めるか,針を皮下まで抜いて再度穿刺をする。またはエコープローブで甲状腺に適度の力をかけ腫瘍の位置をずれた針先の前方方向に動かす。

橋本病やバセドウ病などのびまん性甲状腺腫の穿刺時には,甲状腺の硬さによりぶれることが多い。

③気管とプローブの間に腫瘍がくるようにする

腫瘍の背側に気管をもってくると,気管が硬いので腫瘍が固定され移動しにくくなるので,穿刺が容易になる。このため平行法では,甲状腺左葉の腫瘍は左外側から,甲状腺右葉の腫瘍は右外側から穿刺すると穿刺が容易となる。

④細胞の採取

採取時,穿刺針を前後に少し動かしながら同時にドリル回転を素早くし,組織を切り取るように穿刺針を動かすと,細胞が多く採取される。

⑤吸引中の血液の混入

すぐさま穿刺吸引を中止し,針を抜去する。血液が多量に混入すると検体処理が困難になり,細胞診断ができない。当院では血液をメンブレンフィルター(センシンメディカル株式会社)で濾過し,血液を除去して標本作製をしている(図6)。

図 6 .

メンブレンフィルター

採取検体をメンブレンフィルターで濾過し,血液を除去したり細胞を集めて標本作製をする。

検体処理の工夫

甲状腺癌取扱い規約第7版[]の判定区分を表4に示した。このうち検体不適正は再度の細胞診が必要になり,患者,医師ともに負担となる。また付帯事項に検体不適正が占める割合は,細胞診検査総数の10%以下が望ましいとしている。既報告例[11]での細胞診の検体不適正率を表5に示した。従来法では検体不適正率が5.3%から20.9%とさまざまであり,甲状腺癌取扱い規約に記載されている10%を越えている報告も少なくなく,従来法では10%以下にするには限界がある。このため採取した検体は,検体不適正率を低下させるために検体処理の工夫が必要である。

表 4 .

甲状腺細胞診の判定区分と該当する所見および標本・疾患 文献)より引用。

表 5 .

検体不適正率の既報告例

検体に血液が混入したときは,廣川ら[12]は,直ちにプレパラートを斜めか,垂直にし,血液成分を下方へ流すことを勧めている。また,血液が流れないときは,プレパラートを台に軽く叩きつけることによって,血液を下方へ流し落としている。

メンブレンフィルター法(図6

当院では採取検体をメンブレンフィルターで濾過し,血液を除去し細胞をできるだけ集めて標本としている。

また直接塗抹標本の作製だけでなく,穿刺針を洗浄することにより,標本作成後の穿刺針内やシリンジ内に残存している可能性のある細胞も集めて,標本を作製している。

LBC(Liquid-based cytology:液状化検体細胞診)

米国を中心に婦人科領域で発達した検体作成法で,近年婦人科領域以外にも応用されている[1315]。LBCは注射針で採取した細胞を即座に専用の液状化検体細胞保存・固定液にて洗浄し,特別な方法で専用プレパラートに塗抹し液状処理細胞診標本を作製する方法である。フィルター転写法(ThinPrep®法,Cellprerp法)と遠心沈降法(SurePath法,TACAS法,LBCPREP法などがある[16]。

LBC+従来法の併用で,前田ら[]は検体不適正率が12.5%から4.3%,鈴木ら[10]は5.3%が1.2%と改善したことを報告している(表5)。当院で施行しているメンブレンフィルター法+従来法での検体不適正率は2.4%である[]。

LBCの導入で,検体不適正率は減少するが,鈴木ら[16]はLBCは標本作製法が煩雑でコストがかかるとしている。

また,LBC標本の細胞像は通常の塗抹標本と必ずしも同じではなく,LBC標本の特徴を十分理解した上での鏡検が必要となる。

合併症

疼痛や出血・血腫,嗄声,感染,急性甲状腺腫大,腫瘍の播種などがある。

まとめ

甲状腺結節に対するUS guided FNAの適応とコツを中心に記載した。

穿刺吸引細胞診施行時の最も重要なことは,細胞診断に適した腫瘍部位から十分な細胞量を採取すること,採取した細胞は,迅速・的確に標本を作製することである。

また検体不適正率を改善するのは,従来法のみでは限界があるので,従来法でのプレパラート作成に加え,LBCやメンブレンフィルター法などを併用することが有用である。

【文 献】
 

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