日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
二次性副甲状腺機能亢進症に対する内科的管理
小岩 文彦笹井 文彦佐藤 芳憲
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2017 年 34 巻 3 号 p. 176-181

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抄録

腎機能の低下に伴って生じる生体のカルシウム(Ca),リン(P)代謝異常に対する防御反応として副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に分泌され,二次性副甲状腺機能亢進症が発症,進展する。軽度例が多い保存期CKDではP制限食や経口活性型ビタミンD製剤が対策となる。透析期になると副甲状腺機能は進行するため,静注ビタミンD製剤が主体となるが,高用量に伴うCa負荷が臨床上問題となり,投与量が制約されることも多かった。

Calcimimetics製剤はPTHだけでなく血清Caも低下させることから,活性型ビタミンD製剤との併用によりCa負荷を軽減しながらPTH低下効果を得ることが可能となる。国内外の臨床研究により副甲状腺機能管理以外に心血管系石灰化や骨折,死亡などのアウトカムの向上が示された。国内では経口,静注製剤が使用可能で,二次性副甲状腺機能亢進症の内科管理における重要な選択枝となりつつある。

はじめに

2005年に提唱された慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(Chronic kidney disease-Mineral and bone disorder:CKD-MBD)は骨病変や副甲状腺過形成に加えて心・血管石灰化を包含し,予後に影響する全身性の病態として広く認識されているが,二次性副甲状腺機能亢進症はCKD-MBDの代表的な合併症である。保存期CKDが進行する過程で副甲状腺機能亢進症が発症,進行することは生体のリン(P),カルシウム(Ca)代謝異常に対する生体の防御機構であることが以前から知られていた。P,Ca管理とともに活性型ビタミンD製剤は二次性副甲状腺機能亢進症の主な治療法として確立していたが,近年副甲状腺に発現するCa受容体に作用するCa受容体作動薬が相次いで開発され,臨床的有効性を示している。本稿では二次性副甲状腺機能亢進症に対する薬物療法を中心とした内科的管理について解説する。

1.副甲状腺機能亢進症の発症,進展の機序とその要因

CKDの進行に伴い腎からのP排泄が低下して体内にPが蓄積すると血中P濃度が上昇し,PTH分泌や副甲状腺過形成を促進する[]。また骨からP蓄積を感知してfibroblast growth factor 23(FGF23)の分泌が亢進する。FGF23はP利尿を促進して血中P濃度を維持しようとするが,腎でのP排泄低下に伴いFGF23分泌もさらに亢進する。一方でFGF23はビタミンDの活性化を障害して活性型ビタミンDが低下する。また腸管からCa吸収も低下して低Ca血症が進行し,高P,低Ca血症が顕在化し,ビタミンD代謝障害も加わって二次性副甲状腺機能亢進症が発症,進行する。

さらにビタミンD代謝障害や高P血症が副甲状腺細胞に発現するCa受容体やビタミンD受容体を減少させることにより,CaやビタミンDに対する反応性も減弱して副甲状腺機能を亢進させる要因となる(図1)。

図1.

二次性副甲状腺機能亢進症の発症,進展機序

保存期CKDの段階から出現,進行した二次性副甲状腺機能亢進症は透析導入時に300pg/mL程度まで上昇する[]が,透析導入後はP,Ca管理の改善,活性型ビタミンD製剤の投与により低下する。その後透析期間が長期化すると副甲状腺細胞は増殖してびまん性過形成を呈する。さらに進行すると一部の細胞増殖が亢進して小結節が複数形成されて結節性過形成に進展し,単結節に至る場合もある。組織学的に結節性過形成または単結節を呈する副甲状腺は推定体積が500mm3以上であることが多く[],ビタミンDパルス療法に抵抗性を示すことが知られていた[]。そのため推定体積が500mm3以上の腫大副甲状腺を認めた場合には活性型ビタミンDを主体とした内科的治療に抵抗する可能性が高いと考えられてきた。しかしCa受容体作動薬の登場により腫大副甲状腺を認める場合でも内科治療に奏効することが日常診療で経験されるようになり,単に副甲状腺サイズによって内科的治療の反応性が予測できないのが実情である。

2.保存期CKDにおける内科管理

(1)P管理

腎機能の低下に伴うPTH上昇がP制限により抑制されることは以前から動物実験により示されており[],保存期CKDでは腎機能の進展抑制を目的とした低たんぱく食事療法が実践されるが,たんぱく制限によりP制限が可能となる。

海外のKDIGOガイドラインでは,保存期CKDの管理目標PTHは透析導入前の全てのCKDステージでPTH測定アッセイの基準上限値以上を治療目標に定めている[]。2012年に改訂されたわが国のガイドラインでも基準値上限を超える場合に是正を考慮することが示されている[]。保存期CKDではPTHの上昇は腎機能低下に伴うミネラル代謝異常に対する代償的な上昇であることから,PTH管理を目的としたP制限やP吸着薬による高P血症の是正は妥当である。

Pは供給されるたんぱく質により生物学的利用率が異なり,植物性食品,動物性食品,加工食品の順に高く,加工食品では90%以上である。さらに食品ごとにたんぱく当量当たりのP含有量(P/たんぱく比率)が異なることから,P制限においてこの点を考慮することが重要である[]。

食事療法によるP制限を行っても高P血症が是正できない場合にはP吸着薬の投与を考慮する。小数例のランダム化比較試験では対照に比べてP吸着薬使用群でPTH抑制効果が認められている[]。国内で保存期CKDに使用可能なリン吸着薬は従来炭酸Caだけであったが,2013年に炭酸ランタンが適応拡大され,2014年には鉄含有P吸着薬であるクエン酸第二鉄が,2016年にはビキサロマーが承認されて2017年現在4剤が選択可能である。いずれも血清P低下に加えてPTH低下効果が報告され[1012],保存期CKDにおけるP負荷の軽減が副甲状腺機能亢進症の改善に寄与すると考えられる。

(2)活性型ビタミンD製剤

腎不全の進行に伴い血中ビタミンD濃度は徐々に低下するが,わが国ではビタミンD欠乏の診断に必要な血中25(OH)D測定は,2016年にビタミンD欠乏性くる病もしくは骨軟化症の診断,治療の場合だけに認められており,腎不全における保険適応はない。そのためCKD-MBD診療ガイドラインではP管理を十分に行ってもPTH高値を認める場合に,経口活性型ビタミンD製剤であるアルファカルシドールやカルシトリオールの投与が妥当であることを示している。通常保存期CKDでは二次性副甲状腺機能亢進症が進行して重度の副甲状腺過形成に至ることはまれであり,高用量の投与により尿中Ca排泄の増加や高Ca血症,高P血症を惹起して腎機能増悪の原因となり得ることから,ガイドラインでは腎機能の観点からアルファカルシドールでは0.5μg/日,カルシトリオール0.25μg/日が目安とされた。しかし腎機能進行例では,上記投与量で血中PTHを目標値に管理困難な場合に遭遇することが多く,透析患者に使用される静注ビタミンDやファレカルシトールは保存期CKDでは保険適応外であり,新たな二次性副甲状腺機能亢進症治療薬が切望されている。

3.透析期CKDにおける管理

(1)活性型ビタミンD製剤

1984年に発表された,高度に進行した二次性副甲状腺に対する静注カルシトリオール製剤がPTH低下に有効であった報告をきっかけとして,活性型ビタミンD製剤が透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症に対する主要な内科的治療法として広く普及した。進行した二次性副甲状腺機能亢進症では,副甲状腺細胞に発現するビタミンD受容体が減少しており,通常量のビタミンD製剤では副甲状腺機能を制御することは困難である。先の報告では週3回静注カルシトリオールを投与することにより,血中ビタミンD濃度を一過性に薬理学的な濃度まで上昇可能となり,強力なPTH抑制効果が得られる。さらにビタミンD受容体を増加させてビタミンDに対する反応性の向上も期待されたが,診療現場では静注ビタミンD療法に起因した高Ca血症が問題となった。そこでカルシトリオールのPTH抑制効果を維持しながら腸管からのCa吸収を抑制したビタミンD誘導体が開発され,国内では静注製剤としてマキサカルシトールが,経口製剤としてファレカルシトリオールが臨床応用された。

マキサカルシトールはわが国で開発されたビタミンD誘導体で,カルシトリオールの22位の炭素原子を酸素原子に置き換えたものである。ビタミンD結合蛋白との親和性がカルシトリオールの約1/500で血中半減期が約100分と短く,小腸におけるCa,P上昇作用が減弱している。国内で実施されたカルシトリオールとマキサカルシトールの比較試験では両剤ともにPTH同等に低下し,血清Caは有意に上昇したが両群間に有意差はなかった[13]。

経口ビタミンD誘導体のファレカルシトリオールはカルシトリオールの26,27位の水素をフッ素に置換した構造を持つ誘導体で,透析患者での半減期が約61時間と長く,代謝物である23位の水酸化体にもビタミンD受容体結合能を認める。本剤はビタミンD結合蛋白やビタミンD受容体との親和性がカルシトリオールの約1/3で,血清Ca上昇が軽度でPTH低下作用が強い特徴を持つ。ファレカルシトリオールとアルファカルシドールのクロスオーバー試験では,ファレカルシトリオールが有意なPTH低下を示した[14]。

活性型ビタミンD製剤の使用に際して,経口薬と静注薬の選択に関する指針はなく,国内および国外のガイドラインでも示されていない。国内外で開発されたCKD-MBD治療に用いられる活性型ビタミンD製剤の一覧を示した(表1)[15]。パリカルシトールはビタミンD2骨格が修飾された誘導体で,わが国では認可されていない。本剤は経口,静注薬があり,いずれもPTH低下に比して血清Ca上昇が軽度であり[16],腸管や骨からのCa,P動員が軽微であることが一因と考えられる。ドキセカルシフェロールはビタミンD2の側鎖を有するプロドラッグで,静注,経口薬があるが,パリカルシトールと同様に国内では認可されていない。

表1.

国内外で開発されたCKD-MBD治療に用いられる活性型ビタミンD製剤

(文献15を改変して引用)

(2)Ca受容体作動薬

①シナカルセト

副甲状腺は細胞外Caイオン濃度のわずかな変化を感知してPTH分泌が短時間で変化する。このCa濃度の変化を感知する部位がCa受容体であり,副甲状腺Ca受容体に作用して細胞外Ca濃度が上昇した場合と同様にPTH分泌を抑制する化合物であるcalcimimetics製剤として最初にシナカルセトが開発され,米国で2004年に,わが国では2008年に市販された。シナカルセトは副甲状腺細胞の増殖抑制に加えてCa受容体発現を増加させて反応性の改善が認められる[17]。

シナカルセトの最大の特徴はPTHだけではなく,血清Ca,P濃度を低下させることであり,活性型ビタミンD製剤では高Ca,高P血症のために増量や治療の継続が困難であった場合でも,シナカルセトの併用,あるいは切り替えによって治療の継続が可能となる。国内で実施された臨床試験では活性型ビタミンD製剤は87.5%が併用しており,PTH,Ca,Pの優れた低下効果を示した[18]。その後海外で実施された試験では血清Ca,Pの管理目標達成の向上を目的に活性型ビタミンD製剤を低用量に減量して併用する試みが実施され[1920],活性型ビタミンD製剤を主体にした治療に比べてより良好な血清Ca,P管理を達成しながらPTH管理が可能になった。併用効果が優れた根拠として,副甲状腺細胞のCa受容体のみならずビタミンD受容体発現も増加するため,両薬剤の反応性が向上すると想定されている[21]。国内の大規模コホートであるMBD-5D研究から,シナカルセトと活性型ビタミンD製剤の併用によりPTH低下効果は増強し,積極的に血清Ca,Pを低下させることが可能となる[22]。

シナカルセトがPTH,Ca,Pいずれも低下させることから,心血管石灰化の進行や心血管病発症の予防効果も期待された。海外の無作為化比較試験ではシナカルセトと低用量ビタミンD製剤の併用により,冠動脈や大動脈弁石灰化の有意な進展抑制が認められた[23]。シナカルセトの死亡リスクに関する検討では,海外の大規模前向き無作為化プラセボ対照比較試験として実施されたEVOLVE試験の主解析の結果,シナカルセト群の死亡を含めた主要評価項目である心血管複合リスクは低下したものの有意ではなかった[24]。しかし本研究には両群の年齢差や高い脱落率の他に,市販されたシナカルセトの内服が行われた,などの評価上の問題を複数含んでいることも明らかになった。そこでこうした影響を考慮した解析も事前に予定され,試験薬中止後6カ月で打ち切った解析では,主要評価項目はシナカルセト群が有意に低下した。また同解析によりシナカルセト群で副甲状腺摘出術リスクの有意な低下も認めた。さらにEVOLVE試験のサブ解析でも先の調整によりシナカルセト群で有意な骨折リスクの減少がみられた[25]。

シナカルセトの死亡リスクへの影響に関して,最近発表されたMBD-5D研究の報告では,intact PTHが500pg/mL以上の進行した二次性副甲状腺機能亢進症に対してシナカルセトは有効であり,全死亡リスクの51%低下を認めた。また,intact PTHが300pg/mL以上の軽度二次性副甲状腺機能亢進症に対しても心血管病入院あるいは死亡の罹患率比が0.71とリスクの減少と関連した[26]。

シナカルセトは活性型ビタミンD製剤と併用することによって従来では内科的治療に抵抗する進行例においても強力なPTH低下効果と血清Ca,P管理の向上をもたらす。さらにこれまでの国内外から発表された研究により多くのエビデンスが蓄積され,副甲状腺機能亢進症の管理以外に心血管系合併症や骨折,死亡などのアウトカムの向上に寄与する可能性がある。

②エテルカルセチド

二次性副甲状腺機能亢進症治療薬として新たに開発されたcalcimimetics製剤であるエテルカルセチドは静脈内に投与する注射剤で,シナカルセトに次ぐCa受容体作動薬として本年2月に世界に先駆けて日本で発売された。第一の特徴は静脈内に投与する注射剤であり,消化管に直接作用せず中枢組織への移行が少ないと予想されることから,消化器系副作用が軽減する可能性がある。第二の特徴として,D-アミノ酸ペプチド骨格を有するため生体内でほとんど代謝を受けず,腎排泄型であることから長時間にわたって血中PTH濃度を低下させることが可能である。本剤は血液透析により除去されるが,国内で実施された臨床試験では血中エテルカルセチド濃度は4週以降定常状態になった。初回投与と4週間の反復投与を比較すると,血中PTHの低下はほぼ同様で,血清Ca濃度は4週後やや低下傾向を認め,低下率は-12.75%であった[27]。

国内の第Ⅲ相プラセボ対照無作為化比較試験では,intact PTH>300pg/mLの血液透析患者155名に対してエテルカルセチドもしくは対照薬を12週間投与した。エテルカルセチドの開始用量は5mg週3回で,PTHや血清Ca濃度に応じて調整した。その結果主要評価項目である管理目標PTH濃度の達成率,30%以上のPTH低下は治療群,対照群がそれぞれ59.0,1.3%と76.9%,5.2%と有意に高値であった。また血清Ca値や骨代謝マーカー,FGF23も対照群に比較して有意に低下した。なお12週時点の平均投与量は7.8±4.9mgであった。安全性について,両群で重篤な有害作用は認めず,治療群では低Ca血症(1.3%),嘔吐(3.8%),嘔気(1.3%)であった[28]。またエテルカルセチドを1回5mgから開始して4週ごとに段階的に増量し,1回5~15mgの有効性を評価した国内試験では,最終時点の1回投与量は21例中5mgが8例,7.5mgが1例,10mgが8例,15mgが4例で,先の比較試験と同様の有効性,安全性が確認された[29]。

海外のシナカルセトを対照にしたランダム化無作為化比較試験では,主要評価項目であるintact PTH濃度が前値から30%以上低下した割合においてエテルカルセチド群がシナカルセト群に対する非劣性を認めた。さらに副次評価項目であるPTH低下>50%かつ>30%は,エテルカルセチド群のシナカルセト群に対する優位性が示された。また投与後8週までの嘔気,嘔吐の出現頻度は両群各々18.3%と22.6%,13.3%と13.8%であった[30]。

エテルカルセチドはシナカルセトでアドヒアランスが不良,あるいは副作用のため増量が困難な症例に対する代替療法に加えて,注射薬の特性を生かした二次性副甲状腺機能亢進症治療の新たな選択枝として今後の臨床効果が期待される。

おわりに

二次性副甲状腺機能亢進症の内科的治療について,保存期CKDおよび維持透析期に分けて概説した。calcimimetics製剤は活性型ビタミンD製剤を主体とした二次性副甲状腺機能亢進症の治療にパラダイムシフトをもたらした。最大の福音はcalcimimetics製剤との併用によって活性型ビタミンD製剤の負の側面を減弱させて利点を強調した臨床効果を得ることができるようになったことである。現在も新たなcalcimimetics製剤が国内外で開発されており,今後有効性,安全性を視野に入れたcalcimimetics製剤の選択が可能となる日も近い。

【文 献】
 

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