日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
甲状腺専門病院所属の女性外科医 甲状腺専門病院で働く女性外科医~若手甲状腺外科専門医としての立場から
小田 瞳
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2018 年 35 巻 2 号 p. 120-122

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抄録

近年,外科を選択する女性医師が増えつつあります。しかし,女性外科医が結婚,妊娠,出産を迎える時期と専門医取得を目指す時期がほぼ重なっており,専門医取得自体が容易ではありません。さらに,専門医取得後も育児をしながら身に付けた技術を社会へ還元し続けることは非常に困難を伴います。

現在,私は甲状腺専門医として診療を行っています。まだまだ経験が浅いため皆様の参考になるかどうか分かりませんが,若手女性医師の立場から自身の経験を通して何かお伝えできることがあればと思っております。

今後も職場や家族の協力のもと,様々な問題点を改善しながら,女性甲状腺専門医として専門病院で培ったスキルや資格を活かし,また私自身が甲状腺治療・手術を受けた立場から,少しでも多くの患者さんのお役に立てればと思います。

はじめに

私は医学部を卒業した当初は消化器外科や乳腺外科にも興味があり,どの分野に進むか迷っていました。最終的に甲状腺分野に進んだ理由は,私自身が中学生時代から甲状腺疾患の治療を受け,研修医の時に甲状腺の手術を受けた経験からでした。現在は甲状腺専門医として,子育てをしながら働いています。

産後は家庭と仕事の両立が難しく,自分の希望する分野の仕事ができなくなる方が多い中,私は好きな分野を継続することができ幸せなことだと思います。近年,外科を選択する女性医師が増えつつあります。しかし,女性外科医が結婚,妊娠,出産を迎える時期と専門医取得を目指す時期がほぼ重なっており,専門医取得自体が容易ではありません。さらに,専門医取得後も育児をしながら身に付けた技術を社会へ還元し続けることは非常に困難を伴います。

私は甲状腺専門医としての経験が浅いため皆様の参考になるかどうか分かりませんが,若手女性医師として何かお伝えできることがあればと思っております。

甲状腺外科医としての研修をスタートする前に

出身大学がある県内で初期研修と一般外科医としての後期研修を終え,外科学会専門医を取得しました。しかし,研修病院は甲状腺専門病院ではなかったため,研修中に甲状腺の手術を見学する機会はほとんどありませんでした。逆に消化器外科や心臓血管外科,さらには麻酔科など他分野から学ぶことも多く,非常に有意義な経験でありました。一通りの基本的な外科手技を学び,専門研修に繋げることができました。

外科学会専門医の取得のためには幅広い分野の症例を経験する必要があります。そのため経験が偏らない様に結婚,妊娠,出産を迎える時期との調整が重要です。

甲状腺外科医としてのキャリアのスタート

後期研修終了後に本格的に甲状腺専門医を志しました。しかし,甲状腺専門病院が近くになかったため県外での研修が必須となりました。都会では交通網が発達しているため県境がほとんど気にならないかもしれませんが,私は地方に居ましたので県外での研修は大きな決意が必要となります。さらにその時期に結婚したこともあり,県外で研修することを非常に迷いました。

様々ありましたが,お世話になった先生方へ相談し,家族の理解もあり,県外の甲状腺専門病院で1年半ほど働きました。そちらの病院では,先輩医師のサポートを受けながら甲状腺の基礎について多くのことを学ぶことができました。また,甲状腺の分野は他と比べ緊急で呼び出されることが少ないため,女性にとっては結婚,出産後も長期的にキャリアを積んでいける分野であると実感しました。充実した毎日を過ごしていましたが,次第に環境を変えて新たな場所で挑戦をしたいと思うようになり,甲状腺専門病院として症例数が多く,学会発表や研究が盛んな現在の病院で勉強することを決意しました。

現在の病院での研修

現在の病院では,外来,手術からその後のフォローまで自身で担当することができ,有意義な研修を行うことができました。

研修前は,自分が外来や手術を最後までやることができるだろうかと不安でした。しかし,指導医の先生方による全面的なサポートのもと,研修スタート後,半年程度で数多くの外来や手術を安全に行うことができました。これは専門病院で研修する大きなメリットであると思います。また,甲状腺分野は外科と内科の境界線があまりなく,どちらも幅広く勉強することができます。おかげで内分泌外科(甲状腺外科)学会専門医と甲状腺学会専門医の両方を取得することができました。

さらに学会や論文発表を積極的に推進する病院方針のもと,国内外の学会発表や論文の執筆などを経験させて頂きました。特に英語論文は初めてでしたが経験豊富な先生方のサポートのもと,最後まで書き上げることができました。

甲状腺専門研修後に出産

現在の病院での専門研修が終了した後に,出産を経験し,産休と育休を取得させて頂きました。その後,少しでもブランクをなくすため,家族の協力を得て早期復帰しました。出産すると女性の働き方は大きく変化しますが,私は復帰後,当直やオンコールがない,育児短時間勤務制度を利用させて頂きました。産休や育休,時短勤務などの制度を活用できた理由は,甲状腺という分野の特徴と,周囲のスタッフの方々の協力があったからだと思います。

私は今後も甲状腺専門医の仕事を続けていくつもりです。専門病院で培ったスキルや資格を活かし,また私自身が甲状腺治療・手術を受けた立場から,少しでも多くの患者さんのお役に立てればと思います。

おわりに

女性医師が結婚・妊娠・出産を迎える時期と専門医取得を目指す時期は重なっていることが多く,育児との両立は避けては通れないと考えられます。そのためには,様々な問題を解決しなければなりません。

外科学会専門医を取得するには,5年以上の認定施設での研修が必須で,様々な領域の手術経験が350例以上,術者経験が120例以上,既定の研究・論文発表,予備・認定試験の合格が必要となります。

さらに内分泌外科(甲状腺外科)学会専門医を取得するには,3年以上の認定施設での研修が必須で,甲状腺・副甲状腺疾患の術者経験が100例以上,既定の研究・論文発表,専門医試験の合格が必要となります。

この場合,約10年間の外科修練期間は妊娠出産適齢期と重なるため,この時期の出産・育児は専門医取得が非常に困難となる可能性があります。また,出産より先に専門医を取得した場合も,その後のキャリア形成がし易くなる反面,高齢出産による様々なリスクに直面するのも現実です。

私の場合は外科医としてのキャリアをある程度築いた後に出産を経験しました。現在の病院での専門研修が終了し,いざ妊娠を考えた時には,なかなか子宝に恵まれず不妊治療を経験し現在に至ります。さらに私の場合はそもそも他大学を卒業後,医学部に入学しているため,高齢出産によるリスクをより実感しました。

いずれの時期も外科医と育児の両立は様々な困難が存在し,最も適した時期というものはなく,多様な状況に対応できる支援体制が必要であると考えられます。

現在では乳幼児期までの保育には多様性のある保育施設が増えてきており,外科の勤務体制をカバーできるような長時間保育も一部存在します。しかし,学童期になると選択肢が非常に少なくなるため,出産後に復職し乳幼児期を乗りこえることができても小学校就学を契機に離職する女性外科医師は多いといわれています。

今後も職場や家族の協力のもと,様々な問題点を改善しながら女性甲状腺専門医として少しでも多くの患者さんのお役に立てればと思います。

 

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