日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集1
「特集1.甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018年版の刊行にあたって」によせて
杉谷 巌
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2019 年 36 巻 1 号 p. 1

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日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会の編集による「甲状腺腫瘍診療ガイドライン」の初版は2010年に公開された。編集委員の一人として微力ながらその制作に携わらせていただいたことで,文献の系統的レビューやエビデンスの質の評価の方法について学ぶ一方,様々なclinical questionに対するエビデンスの脆弱さに改めて気づかされた。このたび,折しも両学会の発展的統合が成された記念すべき年である2018年に,待望の改訂版が出版される運びとなった。evidence-based medicine(EBM)と治療の標準化を目指し,甲状腺腫瘍に悩む患者の健康アウトカムを高めることを目的とした本ガイドラインは,作成委員長の岡本高宏先生らのご尽力のおかげで,最新のエビデンスの吟味に基づいて,より明確な推奨度を示したものとなっている。

今回の改訂によって,最近の甲状腺癌,とくに乳頭癌の取扱いにおける重要な潮流であるrisk-adapted managementに関して,初版でも示されたリスク分類がより整備され,それぞれに対する明確な治療方針が示された。これは,2015年に改訂された米国甲状腺学会のガイドラインと基本的には同様の内容である。思い起こせば2010年版ガイドラインには「甲状腺乳頭癌に対する甲状腺切除範囲をめぐる論争と日本の現状について」と題するコラムが掲載されており,日本と諸外国における治療方針の違いという患者さんには何とも説明しがたい事情が記されていた。低リスク癌にはQOLを重んじる治療を従来から行ってきた日本から発信されたエビデンスの貢献もあって,彼我の溝が埋められたことは大きな進歩であろう。

米国や韓国をはじめとする先進諸国では甲状腺癌の過剰診断・過剰治療という新たな問題が生じている。それへの対抗措置のひとつである無症候性微小乳頭癌(cT1aN0M0)の非手術経過観察(active surveillance)は,世界に先駆けて日本で臨床試験が行われ,その妥当性が示されてきた。2010年版ガイドラインにおいて,いち早く容認されたこの方法は,2018年版では超低リスク乳頭癌に対する取扱いとしてより明確に示されることになった。

そのほか,日本では認識が不足しがちであった分化癌術後の放射性ヨウ素内用療法について,その分類と適応が明記されたこと,2014年以降に相次いで保険収載された分子標的薬治療についての項が追加されたこと,日本甲状腺未分化癌研究コンソーシアムの研究成果に基づき,未分化癌についてのエビデンスが増強されたことなどが主要な改訂点となっている。

今回の特集号では,ガイドライン作成委員長の岡本先生がガイドライン開発の経緯について,副委員長の伊藤康弘先生が改訂の要点について,同じく副委員長の小野田尚佳先生が今後の展望についてご執筆くださった。さらに,東京女子医科大学公衆衛生学の小島原典子先生が診療ガイドラインの作成における益と害のバランスについて,また,治療の標準化というガイドラインの目的からも密接に関係する専門医制度の観点から日本甲状腺外科学会元理事長の今井常夫先生からもご寄稿いただいた。改訂ガイドラインを読み解くうえで貴重な特集となっている。

3年後に予定されている次期改訂に備えては,患者報告アウトカムなど本ガイドライン作成の過程で明らかとなったエビデンスの不足を埋めていく作業とともに,ガイドラインで示された方針をNational Clinical Databaseなどの大規模データを用いて検証することが重要であると考える。

 

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