日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集2
単孔式腹腔鏡下副腎摘除術 整容性の観点からの検証
井上 省吾
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2019 年 36 巻 1 号 p. 29-33

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抄録

単孔式腹腔鏡下副腎摘除術(LESS-A)の最大の利点は,整容性と満足度が優れている点であるが,患者からの主観的な評価がほとんどなされていないのが現状である。非患者による手術アプローチの嗜好調査では,女性および若年者で有意に臍アプローチを希望しており,整容性に高い関心を示していることを報告した。さらに,整容性,満足度および創部痛に関して,臍および上腹部アプローチのLESS-Aと,対照として従来法の3群間で,術後1,3,6,9,12カ月目に自己記入式質問票を郵送し縦断的に調査した。術後3カ月で,従来法は有意に満足度が低かったが,術後6カ月から,従来法の満足度は上昇するも,一方で上腹部LESS-Aでは低下した。術後9カ月以後は,上腹部LESS-Aは満足度がさらに低下し,従来法と比較し満足度は有意に低値を示した。LESS-Aを行う場合,満足度の点から臍アプローチは必須であると考えられた。

はじめに

単孔式腹腔鏡手術(Laparoendoscopic single-site surgery:LESS)は,単一の切開創から腹腔鏡手術を行う術式である。腹腔鏡手術は低侵襲とされているが,ポート挿入部は創部痛や筋の攣縮を引き起こすことがあり,術後の早期回復を遅らせる要因となる。LESSは創部が1カ所であり,従来法と比較して創部の数が少ないことから,腹壁の損傷が最小限に留められる。そのため,従来法よりも創部痛などの手術侵襲が低く,術後回復が早いことが期待されている[]。内視鏡手術が標準化されつつある現在において,LESSは次世代の低侵襲手術として注目されている。その中でも,単孔式腹腔鏡下副腎摘除術(Laparoendoscopic single-site adrenalectomy:LESS-A)は,多くの症例で手術創を延長することなく標本摘出が可能であるため,LESSの最も良い適応の一つとされる[]。さらに臍からアプローチすることで,創部が臍におさまり術後創部がほとんどわからなくなることから,LESSは究極の“Scarless surgery”と考えられる[]。

LESSの最大の利点は,整容性と満足度が優れている点である。しかし,その根拠は術者自身の評価によるものが多く,患者からの主観的な評価がほとんどなされていないのが現状である[]。本稿ではLESSの整容性,満足度および創部痛について,われわれのこれまでの研究結果を中心に文献的考察を加えて概説する。

非患者におけるLESSアプローチの嗜好

当教室では,一般人および医療関係者400名に対してLESSにおける手術アプローチの嗜好に関する調査を行った[]。女性では,65.1%が臍アプローチを上腹部アプローチよりも好んでおり,これは男性の49.3%よりも有意に多い結果であった(p=0.001)。同様に50歳未満の若年者においても,60.8%が臍アプローチを好み,50歳以上の高齢者よりも有意に多かった(p=0.019)。BMI(Body mass index:p=0.224)別や腹部手術既往(p=0.514)の有無においても同様に検討したが,臍アプローチの嗜好に有意差を認めなかった。さらに多変量解析を用いて解析したところ,最も臍アプローチを嗜好する因子は,性別(女性)であり(オッズ比:1.749,95%信頼区間:1.050~2.928)[],女性が整容性を重視していることが明らかになった(表1)。この研究結果から,当教室では原則として男性には上腹部アプローチ,女性には臍アプローチを用いてLESS-Aを施行している。

表1.

手術アプローチの嗜好

LESS-Aにおける整容性解析の現況

LESS-Aと従来法の腹腔鏡下副腎摘除術(Conventional laparoscopic adrenalectomy:CLA)に関して,Wangら[10]は計443例のLESS-AとCLAを比較したSystematic reviewとMeta-analysisを報告している。LESS-AはCLAよりも有意に手術時間は長いが,VAS(Visual analog scale)による術後の創部痛スコアは低く,整容性に関しては,LESS-AとCLAの両者において有意差はなく同等との解析結果であった。

しかしながら,この結果は私たちが術後に患者から実際に受ける評価と異なる印象を受ける。このMeta-analysisでは,計9つの論文を解析しているが,整容性を検討している論文は,わずかに2つのみであり,全例に後腹膜アプローチでLESS-Aが行われた論文も解析に含まれるなど,限定的な内容であった。

そこでわれわれは,LESS-A 11例とCLA 54例において整容性,満足度および創部痛を比較検討した。調査方法は,VASによる自己記入式質問票を郵送し,手術創部の整容性,満足度および創部痛に関して0~10点で自己評価を依頼した。なお,整容性は,0:大変汚い~10:大変きれい,満足度は,0:大変不満~10:大変満足,創部痛は,0:痛みなし~10:大変痛い,とした。全体では,整容性(LESS-A 8.58 vs. CLA 8.00,p=0.487),満足度(8.92 vs. 8.46, p=0.487),創部痛(0.67 vs. 0.57, p=0.393)で,いずれも有意差を認めなかった。ただ,女性においては,LESS-AはCLAと比較して有意に高い満足度を認め(10.00 vs. 8.72, p=0.049),同様に50歳未満の若年者でも同様に,LESS-Aは有意に高い満足度を認めた(9.17 vs. 6.38, p=0.036)(図1)[]。この結果から,LESS-Aは女性および若年者においては,満足度が高い術式と結論づけられた。ただ,この研究は横断的解析であり,さらに調査時期がLESS-Aで平均12.1(5~19)カ月,CLAで64.3(18~181)カ月と大きく異なることが問題であった。

図1.

整容性・満足度・創部痛の横断的解析

p<0.005,文献[]より改変

LESS-Aにおける整容性の縦断的解析[11

これまでの研究の問題点を踏まえて,LESS-AおよびCLAにおける整容性,満足度および創部痛に関する縦断的調査を行った。対象は,2011年11月から2014年8月までに広島大学病院泌尿器科で施行したLESS-A 38例(男性15例,女性23例)とした。LESSアプローチの嗜好調査の結果から,手術アプローチは原則として,男性は上腹部,女性は臍とした。上腹部アプローチ(Subcostal LESS-A:SC-LESS)が15例(男性14例,女性1例)で,臍アプローチ(Transumbilical LESS-A:TU-LESS)が23例(男性1例,女性22例)であった。なお,例外的にSC-LESSで施行した女性は78歳と高齢であり,同じくTU-LESSで施行した男性は49歳と比較的若年であった。今回,TU-LESS,SC-LESSおよび対照としてCLA 9例(男性4例,女性5例)を比較検討した。術後1,3,6,9,12カ月目にVASによる自己記入式質問票を郵送し,手術創部の整容性,満足度および創部痛に関して,横断的調査と同様の方法で自己評価を依頼した。

全症例で重篤な合併症を認めることなく手術を完遂し,輸血は必要としなかった。患者背景は,有意にTU-LESSで女性が多く,SC-LESSでは男性が多かった(p=0.001)。BMIは,TU-LESSで有意に低かったのみで(p=0.001),その他の患者背景の項目で,有意差を認めなかった。手術時間(p=0.089),出血量(p=0.211)も有意差を認めなかった(表2)。

表2.

縦断的調査における患者背景

整容性スコアは術後3カ月の時点で,TU-LESS 8.91,SC-LESS 8.13,CLA 6.78で,CLAはLESSと比較して有意に低い整容性であったが(p=0.016),6カ月以後では整容性スコアは3術式とも同等となった。満足度スコアは術後3カ月で,TU-LESS 9.00,SC-LESS 7.69,CLA 6.67であり,CLAは有意に満足度が低かった。本解析で最も興味深かったことは,6カ月以後の変化であり,術後6カ月から,CLAの満足度は上昇するも,SC-LESSでは低下,術後9カ月では,TU-LESS 9.28,SC-LESS 7.14,CLA 8.33(p=0.033),術後12カ月では,TU-LESS 9.17,SC-LESS 5.79,CLA 8.00(p=0.016)で,SC-LESSの満足度はさらに低下し有意に低値を示した。この縦断的調査からは,驚くべきことにSC-LESSは,CLAよりも満足度が低いことが明らかになった。また,創部痛も縦断的に評価したが,各時点において術式間に有意差を認めなかった(図2)。

図2.

整容性・満足度・創部痛の縦断的解析

p<0.005,文献[11]より改変

本検討では,創部への関心も縦断的に調査した。全ての時点において,女性は男性よりも有意に術後創部の高い関心を認めた(図3)。さらに横断的調査で女性はLESS-Aに高い満足度を示した一方,CLAは満足度が低かった。これらの結果は,創部に対する関心の性差を反映していると思われる。

図3.

創部への関心の縦断的解析

p<0.005,文献[11]より改変

臍アプローチによる単孔式手術における整容性と創部痛

臍は胎生期に生じた臍帯体側に残存した瘢痕であり,臍からアプローチすることで,切開創を目立たなくなる[]。副腎のように標的臓器の小さい手術や腎盂形成術のような形成術においては,2cmの切開創でLESSを十分完遂することが可能である。TU-LESSは創部が目立たなくなることから患者からの満足度が高いと考えられる一方で,ターゲットとアクセスポートとの距離が延長し接線方向となることで,難易度が高くなると考えられていた[12]。実際には手術時間は延長しておらず,TU-LESSは,安全に完遂可能な術式であった[13]。

LESS-Aにおいて,術後9カ月および12カ月の時点でTU-LESSはSC-LESSよりも有意に満足度が高く,その差は徐々に開く傾向にあった。臍の創部については経時的に拘縮するため徐々に創部が目立たなくなる。TU-LESSについて,“Scarless surgery”に近い術式となりうることが,高い満足度を維持できる原因と考えられた。縦断的検討では,SC-LESSはCLAよりも満足度が低く,LESS-Aを行うのであれば臍からのアプローチは必須であると考えられた。

また,これまでの論文では,TU-LESSで創部痛が増強することが危惧されていたが[],今回の検討では,TU-LESSとSC-LESSで創部痛に有意差を認めなかった[11]。

おわりに

LESSは副腎など標的臓器の小さい手術においては,整容性の点で良い適応になると考えられた。今回示した高い整容性や満足度といった明らかな利点,さらには創部痛軽減の可能性から,術式選択の一つとして積極的に考慮すべきである。ただ,確立した術式を学習することの必要性はもとより,難渋した場合には躊躇なくポートを追加するなど,安全性に配慮することが重要である[14]。

LESSを含む低侵襲手術を希望する患者は潜在的に多い。しかし,腹腔鏡下副腎摘除術におけるLESS-Aの割合は徐々に低下し,2017年の最新の調査結果によると1.8%で,ほとんど行われておらず[15],実際に現場の医師がLESSを治療選択肢の一つとして施行できていない現状が明らかになっている。一時期に認められたLESSに対する医療者側の熱気は冷めつつあるように思われるが,一方でLESSがより高い満足度を提供しうる患者集団が存在していることから,今後も本術式をさらに改善し普及させていく意義があると思われる。

【文 献】
 

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