Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Invasion pattern of follicular carcinoma
Rumi Hino
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2019 Volume 36 Issue 3 Pages 137-140

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抄録

WHO分類第4版(内分泌腫瘍)の改訂で,濾胞癌Follicular thyroid carcinoma(FTC),NOSの亜分類は3項目となりminimally invasive, encapsulated angioinvasiveとwidely invasiveになった。WHO第3版でのPTC亜分類は,minimally invasiveとwidely invasiveの2項目であったが,従来のminimally invasiveが今回の改訂でminimally invasiveとencupsulated angioinvasiveに分かれた。Widely invasiveは従来通りである。FTCの病理診断では,細胞異型に関わらず被膜浸潤と静脈浸潤を評価する点は前回から変わらない。静脈浸潤が多い場合,被膜浸潤だけ,あるいは静脈浸潤が少ないminimally invasiveよりも予後が有意に悪いという報告の蓄積により,minimally invasiveからencupsulated angioinvasiveが分離独立している。FTCの改訂の主な焦点は,浸潤様式から見た場合,微少浸潤型濾胞癌は静脈浸潤に重点が置かれ,従来のminimally invasiveがさらに2つに分かれた点である。被膜浸潤がない場合,静脈浸潤の有無で良悪が分かれる事から,静脈浸潤の判定は慎重に行わなければならない。

はじめに

甲状腺濾胞癌の定義は,濾胞上皮由来の悪性腫瘍で,乳頭癌の核所見がない腫瘍である。悪性の判定基準は,細胞異型の関与はなく,脈管浸潤,被膜浸潤,あるいは甲状腺外転移のいずれか少なくとも一つを組織学的に確認する事でなされる。濾胞癌の構築は良性の甲状腺腫あるいは正常の甲状腺構造と区別が困難な程良く分化したものまで見られる為,構築による良悪または非腫瘍との鑑別も難しい。すなわち,濾胞癌の判定には,転移の有無が不明な場合,静脈浸潤または被膜浸潤の有無が決め手となる。2017年のWHO分類第4版(内分泌腫瘍)の改訂では,濾胞癌の浸潤様式の分類について,静脈浸潤に重点が置かれ従来の微少浸潤型濾胞癌が細分化された。

WHO分類第4版(2017)の改訂点

濾胞癌の亜分類に関して,WHO分類第3版(2010)では,①Minimally invasiveと②Widely invasiveの2つの亜分類であったものが,WHO分類第4版(2017)になると①Minimally invasive,②Encapsulated angioinvasiveそして③Widely invasiveの3つの亜分類に変更となった(表1)[]。その背景には,2014年に改訂されたAFIP(ARMED FORCES INSTITUTE OF PATHOLOGY)の影響もある。AFIPでは従来Minimally invasiveとされていた項目が2014年の改訂版では①Minimally invasive with capsular invasion,②Minimally invasive with limited vascular invasion,③Minimally invasion with extensive vascular invasionの3項目に分かれた(表1)[]。すなわち,微少浸潤型濾胞癌を(1)被膜浸潤だけの微少浸潤型濾胞癌,(2)血管浸潤の数が4ヶ所未満,あるいは(3)4ヶ所以上の微小浸潤型濾胞癌に分けた。AFIP改訂時に採用された論文によると,微少浸潤型濾胞癌症例を上記(1)(2)(3)に分類し,(1)被膜浸潤だけでは予後に関与せず,(2)静脈浸潤4ヶ所未満と(3)4ヶ所以上の症例では,(2)に比較して(3)は有意に予後が悪いという結果に至っている[]。この場合,浸潤を受けている静脈の大きさに関係なく解析されていたが,異論もある[]。今回のWHO分類の改訂においても,静脈浸潤の個数によるグループ分けの記載はないものの,被膜浸潤だけが見られる微小浸潤型濾胞癌と静脈浸潤を伴う微小浸潤型濾胞癌を区別している。

表1.

Classification of follicular thyroid carcinoma(WHO 4th edition,2017)

日本甲状腺癌取扱い規約第7版(2015)においては,今のところWHO分類第4版(2017)やAFIP(2014)の様な細かな分類の記載はなく,濾胞癌についてはWHO分類第3版と同様,微少浸潤型と広範浸潤型の2型に分ける事になっている(表2)[10]。

表2.

甲状腺腫瘍の組織学的分類から抜粋 甲状腺癌取扱い規約第7版(2015)

被膜浸潤について

日本甲状腺癌取扱い規約第7版では,被膜浸潤とは,「被膜を完全に突き破って周囲の被膜の位置よりも突出している状態を意味する」と記載されている。腫瘍周囲線維性被膜内にある島状の腫瘍巣,被膜途中までの腫瘍浸潤は被膜浸潤とはしない。線維性被膜を完全に貫いているものや,被膜の内外に腫瘍巣を認めるものを被膜浸潤とする。穿刺吸引細胞診後に穿刺部位に被膜浸潤様の組織像がみられるので注意を要する。

被膜浸潤については,WHO分類もAFIPも被膜浸潤だけの場合は,濾胞癌の中でも最も予後が良い癌という位置付けになっている。日本甲状腺癌取扱い規約にはそういった記載はないが,実際の病理診断時のコメントにWHO分類あるいはAFIPの亜分類を記載し,被膜浸潤だけの濾胞癌は予後が良いという情報を追記する事も可能である。

静脈浸潤について

日本甲状腺癌取扱い規約第7版において,静脈浸潤は被膜内もしくは被膜近くの非腫瘍部の血管で判定することになっている[10]。対象とする血管は内皮細胞で覆われている管腔で,血管内の腫瘍に内皮細胞が付着している,あるいは血栓が付着している場合に静脈浸潤と判定する(図1)。変性した腫瘍細胞が血管内に浮いている場合は静脈浸潤とはしない。静脈浸潤の評価は,まずHE(Hematoxylin and Eosin)染色とEVG(Elastica Van Gieson)あるいはVB(Victoria Blue)-HE染色でなされ,腫瘍に血管内皮が付着している事の確認は,必要であれば血管内皮マーカーであるCD31やCD34抗体を用いた免疫染色を行う。しかしながら,実際に病理診断で遭遇する濾胞性腫瘍の静脈浸潤の判定は困難な事も多く,規約通りに判断できない事もある。例えば,濾胞性腫瘍の切片にEVGを施し静脈は確認できたとしても,血管内に腫瘍はあるが内皮細胞の付着がみられない,または腫瘍が血管内に充満していて血管内皮が確認困難,あるいは腫瘍が血管壁を圧排し血管内腔に僅かに凸に見え血管内皮も被っているが明らかな静脈浸潤にし難い例など判断に悩む事は多々ある。また,被膜にある島状の腫瘍巣の中には,HE染色だけでは血管浸潤と区別がつかないことがある(図2a)。被膜内の腫瘍巣である場合は,被膜浸潤にも相当しないので良性腫瘍になる。一方,それが静脈浸潤であれば,微小浸潤型濾胞癌つまり悪性と判断される。このような場合,EVGやVB-HEなどの特殊染色を施すと被膜内の島状腫瘍巣が静脈浸潤と判明する事がある(図2b)。被膜浸潤がない場合,静脈浸潤の有無で良悪が分かれる事から,静脈浸潤の判定はHE染色だけではなく特殊染色などを用い慎重に行わなければならない。

図1.

血管浸潤のHE像。腫瘍の表面に血管内皮が確認される。

図2.

a 腫瘍被膜内の島状の腫瘍巣 b VB-HE染色により図2aの島状の腫瘍巣が血管浸潤だと判明。

AFIPの様に静脈浸潤の具体的な数で微少浸潤型濾胞癌を細分類する事,あるいは,静脈浸潤の数を記載する事については,現行の日本甲状腺癌取扱い規約では行われていない。しかし,静脈浸潤が4ヶ所以上の微少浸潤型濾胞癌は,被膜浸潤のみ,あるいは静脈浸潤が4ヶ所未満の微少浸潤型濾胞癌に比べて予後が悪い事より,病理報告書の所見に静脈浸潤の数や予後に関する情報を記載するのも一つの方法かもしれない。

まとめ

濾胞癌の浸潤様式からみた分類は日本甲状腺癌取扱い規約では比較的シンプルであり,微小浸潤型濾胞癌と広範浸潤型濾胞癌になる。WHO分類の改訂(2017)やAFIP(2014)では,微少浸潤型濾胞癌を静脈浸潤の有無あるいはその数によってさらに細かく分けている。静脈浸潤が多くみられる症例群(AFIPでは4ヶ所以上)は,微小浸潤型濾胞癌の中でも予後が悪い群に相当する。日本の取扱い規約でこれらは明記されていないが,必要な場合は病理報告書の所見欄に記載する事も一つの方法と考える。

おわりに

濾胞癌は,細胞異型や構造異型で病理組織学的に判断出来ない事から病理診断に苦慮する場合が多い。今回のWHO分類改訂版やAFIPでは,静脈浸潤の有無や数で微少浸潤型濾胞癌の亜分類が確立されている。しかし,病理医各々の脈管浸潤の捉え方にも差があるとの指摘もあり,日本の規約にそれらの亜分類が導入されるかは今後が待たれる。

【文 献】
 

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