Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
International comparison of papillary thyroid carcinoma treatment according to clinical guidelines - Postoperative adjuvant therapy -
Yusaku YoshidaKiyomi HoriuchiTakahiro Okamoto
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2019 Volume 36 Issue 4 Pages 221-224

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抄録

2014年の英国甲状腺学会の診療ガイドライン,2015年の米国甲状腺学会診療ガイドラインに続いて,わが国の診療ガイドラインは2018年に改訂された。各診療ガイドラインにおいては様々な相違点がある。本稿では術後補助療法,主に放射性ヨウ素内用療法,TSH抑制療法に視点をおいて診療ガイドラインを比較する。放射性ヨウ素内用療法は,内照射を「Remnant ablation」,「Adjuvant therapy」,「Therapy for persistent disease」という目的別に区分して治療対象・治療線量を決定する方針がATAおよびわが国のガイドラインに取り入られている。これにより今まで各国で一致しなかった治療対象と治療方針,治療線量が一致し,よりよいエビデンスの構築が目指せる環境が整ってきたと考えられる。TSH抑制療法は高リスク乳頭癌には行い,低リスク乳頭癌には行わないという方針は各ガイドラインで一致している。ただし,乳頭癌に限った質の高いエビデンスは乏しく,今後の課題である。

はじめに

甲状腺癌術後の補助療法として,わが国の「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018」で推奨されている治療は,放射性ヨウ素内用療法とTSH抑制療法である[]。放射性ヨウ素内用療法およびTSH抑制療法はいずれも,高リスク乳頭癌と中リスク乳頭癌の一部に行うことを推奨しているが,十分なエビデンスがあるわけではない。本稿では,術後補助療法としての放射性ヨウ素内用療法,TSH抑制療法に関して,米国甲状腺学会(American Thyroid Association, ATA)が2015年に作成したガイドライン,および英国甲状腺学会(British Thyroid Association, BTA)が2014年に作成したガイドラインと比較する[]。

放射性ヨウ素内用療法の定義

2015年版ATAのガイドラインでは,甲状腺乳頭癌術後の放射性ヨウ素内用療法の目的を「Remnant ablation」,「Adjuvant therapy」,「Therapy for persistent disease」の3つにわけ適応および推奨を提示した。2010年にわが国の甲状腺腫瘍診療ガイドラインが発行されて以降,国内で「アブレーション」として施行されているものの多くが,放射線治療病室の不足という背景からATAのガイドラインにおける「補助療法」と考えられ,海外と国内の報告の放射性ヨウ素内用療法の治療成績を評価するにあたって注意が必要であった。2018年に改訂された診療ガイドラインでは,治療成績を海外の報告と正しく比較すべくATAのガイドラインに準拠し分類を紹介している(表1)。BTAのガイドラインはこの分類に従った治療指針は示していない。

表1.

放射性ヨウ素内用療法の分類(甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018)

各ガイドラインにおける放射性ヨウ素内用療法

わが国の甲状腺腫瘍診療ガイドラインでは,超低リスクおよび低リスク乳頭癌は全摘術を推奨しておらず,微小癌に対する「アブレーション」の追加が再発と癌死の抑制に関連しないことから,放射性ヨウ素内用療法の適応とはしていない。従って,甲状腺全摘を行った中リスク乳頭癌の一部と高リスク乳頭癌が放射性ヨウ素内用療法の対象となる。ガイドラインでは,中リスク群への放射性ヨウ素内用療法に関しては,予後因子を考慮したうえで推奨するとしているが具体的な適応に関する記載はない。中リスク群への内照射追加による治療効果に関しては,死亡リスクを減少するとしているが,米国の大規模コホート研究をもとにした結果であり,わが国での治療対象とは異なること,放射性ヨウ素の投与量のデータが文献中に示されていないことには注意が必要である。そして,高リスク乳頭癌も米国の高リスク分化癌のデータを元に再発および死亡のリスクを低減させるとして内用療法を推奨している。特記すべきは,術後補助療法としての投与量としては治療量と同様の容量3.7~5.6GBq(100~150mCi)を推奨している。ただし,わが国特有の治療病室不足という問題から適切なタイミングで補助療法を実施できない事例が発生する懸念があり,推奨を理解した上で補助療法を1.1Gbq(30mCi)で行うことをやむを得ないと補足している。

ATAのガイドラインでは,1cm以下の微小癌では多発病変の有無を問わず放射性ヨウ素内用療法の適応としていないが,その他のATA low risk病変に関しては,術後Tg値や超音波検査所見,診断目的の放射性ヨウ素シンチグラフィーの結果,残存腫瘍の有無を参考にして適応を検討することを推奨している。ATA Intermediate riskに対しては1.1Gbq(30mCi)のremnant ablationまたは5.6GBq(150mCi)のAdjuvant therapyを術後に検討するべきとしており,ATA High riskに対しては5.6Gbq(150mCi)のAdjuvant therapyまたは3.7~7.4GBq(100~200mCi)のCancer treatmentを検討するべきとしている。

そして,BTAのガイドラインでは,放射性ヨウ素内用療法の適応はリスク分類では定めていない。1cm以下の多発病変を含む通常型乳頭癌または濾胞型乳頭癌は内照射の適応としておらず,4cmを超える腫瘍や肉眼的な甲状腺外進展を認めるまたは遠隔転移を認める症例を明らかな内照射の適応とし,その他の症例はリスク因子を検討の上,選択した症例でない照射を施行する方針を推奨している。そして,この推奨は濾胞癌も含めた分化癌としての推奨である。内照射の放射線量としては残存腫瘍のないpT1-2,N0に対しては1.1GBq(30mCi)の内照射を,残存腫瘍や遠隔転移のある症例には3.7~5.5GBq(100~150mCi)の投与を,その他の症例はリスク因子ごとに投与量を検討するよう記載されている。

各ガイドラインを比較すると,リスク分類や投与基準に違いはあるもののTNM分類における放射性ヨウ素内用療法の適応は概ね一致しており(表2),残存腫瘍のないT1-2N0M0の乳頭癌へのRemnant ablationには否定的である点,再発リスクの高い症例へのAdjuvant therapyや遠隔転移を有する症例にCancer treatmentを推奨する点では一致している。しかし,いずれのガイドラインもエビデンスは乏しく,特に分化癌としての評価ではなく乳頭癌に限定した報告は限られる。2018のガイドライン改定で提示された,放射性ヨウ素内用療法の目的別に分類した「アブレーション」,「補助療法」,「治療」を用い,リスク分類に基づいた治療効果の判定によるエビデンスの構築が今後の課題である。

表2.

TNM分類で比較した放射性ヨウ素内用療法の適応

TSH抑制療法

わが国の診療ガイドラインでは,甲状腺乳頭癌の超低リスク・低リスク症例に対しては行わないことを強く推奨し,中リスク症例の一部および高リスク症例でTSH抑制療法を弱く推奨している。中リスク症例に関しては術中所見と病理診断に基づいてTSH抑制療法の適応を決定するよう記載されている。この中で,再発や癌死という補助療法の追加効果に関する質の高いエビデンスに基づいた推奨は,超低リスク・低リスクにTSH抑制療法を行わない術後管理方針のみである。そして,各リスク群におけるTSHの管理目標値の記載はない。

一方,ATAのガイドラインでは高リスク乳頭癌に対して術後のTSH値を0.1mU/L以下にコントロールすることを強く推奨しており,その他のリスク群に関してはTSH抑制療法を弱く推奨している。中リスク症例に対してはTSH値を0.1~0.5mU/Lとすることを推奨し,低リスク症例に対しては術後の放射性ヨウ素内用療法の結果でTSH値の管理目標を提示している。低リスク群で放射性ヨウ素内用療法を行った場合も,行わなかった場合も,Tg値が感度以下となっている場合にはTSH値を0.5~2mU/L,感度以下となっていない場合は0.1~0.5mU/Lの幅で管理し,葉切除を行った場合には0.5~2mU/Lの範囲で保つよう記載している。この推奨を作成する中で,比較的質の高い論文と評価しているのは高リスクに対するTSH抑制療法の系統的レビューであるが,わが国の診療ガイドラインはこのメタ解析の妥当性に懸念があるとしている。

そして,BTAのガイドラインでは,放射性ヨウ素内照射の適応とならない1cm以下の多発病変を含む通常型乳頭癌または濾胞型乳頭癌に対しては,TSH抑制は必要なく,TSH値を正常低値である0.3~2.0mU/lでコントロールすることを推奨し,甲状腺全摘後にremnant ablationを行った症例に対して9~12カ月後のリスク再評価までの期間はTSH値を0.1mU/l以下にするように推奨し,その時点でablationの結果に再度リスク分類を行い,高リスク乳頭癌はTSH値を0.1mU/l以下に,中リスク乳頭癌は0.1~0.5mU/lに,低リスク症例は0.3~2mU/lを目標に管理することを推奨している。治療効果に関するエビデンスの具体的数値の記載はない。

各ガイドラインを比較すると,参考文献からのエビデンスの評価は異なるものの,低リスク乳頭癌にはTSH抑制療法を推奨せず,高リスク乳頭癌へは推奨するという点は一致している。中リスク乳頭癌に対してATAおよびBTAのガイドラインは一律にTSH抑制療法を推奨しているのに対し,症例を選択した上での施行を推奨しているのが,わが国のガイドラインの特徴であろう。ただし,それぞれのガイドラインのリスク分類が一致していないため解釈に注意が必要である。

TSH抑制療法の有害事象と患者の視点

TSH抑制療法による有害事象については,ATAおよびBTAのガイドラインでは甲状腺機能亢進症の結果,心血管障害や心房細動,閉経後女性の骨粗鬆症の懸念があることが記載されているが,リスクの可能性に関する具体的な数値としてのエビデンスの提示はない。わが国の診療ガイドラインではTSH抑制療法による心血管イベントによる死亡が3.35倍,全死亡が4.4倍になることを記載し,50歳以上の女性に対するTSH抑制療法により骨密度が有意に低下することを示している。また,TSH抑制療法による患者視点の健康状態に関しては,唯一わが国のガイドラインが,TSH抑制療法を10年以上行った患者のTSH抑制療法を解除してもQoLの改善に関連しないという報告を取り入れている。TSH抑制療法によるQoLの変化に関する報告は乏しく,QoLの維持,忍容性といった患者視点の観点からは重要な課題である。

おわりに

甲状腺乳頭癌の術後補助療法である放射性ヨウ素内用療法とTSH抑制療法の各国ガイドラインを比較した。放射性ヨウ素内用療法は,各国の分化や風土の違いもあり統一できない面もあるが,少なくとも治療目的や投与放射線量を統一した補助療法の施行により,各国からの報告の解釈が比較しやすくなるのではないかと考える。わが国の術後補助療法の放射線量は,治療環境の問題もありしばらくは少ない投与量の報告が続くのではないかと思う。これは,わが国独自の環境による報告であるが,海外からは出せない新たなエビデンスになりうると考える。TSH抑制療法に関しては,治療効果そのもののエビデンスが十分とはいえない。エビデンスが不確実な中で治療を行うかどうかには,有害事象の可能性,患者視点の健康状態に関するエビデンスが,Shared decision makingを行う上で重要な課題であると考える。

【文 献】
 

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