Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Characteristics of otolaryngologist's practice for thyroid/parathyroid disease
Takahiro Fukuhara
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2020 Volume 37 Issue 3 Pages 156-160

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抄録

耳鼻咽喉科は耳鼻科と頭頸部外科に分かれており,甲状腺・副甲状腺疾患は頭頸部外科が治療を担当する。しかし,診療には内分泌の知識が要求されるため,頭頸部外科医の中でも専門医を取得している医師は限られる。このため,一般耳鼻科や開業医などで,術前の診断や術後のフォローを行うのは難しい。一方で,甲状腺・副甲状腺疾患術後の主な合併症である音声障害に対しては高い専門性を有する。音響分析による音声評価や喉頭ファイバースコピーによる声帯評価は日常的に行う検査であり,気流阻止法による声帯閉鎖不全の定量評価やピッチレンジ検査,ストロボスコピーなども行う。手術に関しては,一期的・二期的な音声改善術,または気管や喉頭へ浸潤する症例において音声を温存しながらの手術加療を得意とする。

はじめに

1)耳鼻咽喉科・頭頸部外科の特徴

耳鼻咽喉科は,近年では耳鼻(咽喉)科と頭頸部外科の専門に分かれており,耳鼻科医は耳科や鼻科を専門とする。“咽喉”は咽頭・喉頭のことであり,嚥下機能や音声機能に関与し,頭頸部腫瘍の診療に深く関係するため,頭頸部外科医が専門にすることが多い。

頭頸部外科医にとって,甲状腺・副甲状腺の手術は,頭頸部手術の一つとして捉えているが,内分泌的なアプローチが必要となるところが他の手術と大きく異なる。このため,内分泌に関する知識がないと手が出しにくい分野であり,耳鼻科咽喉科医の中には,甲状腺・副甲状腺疾患には馴染みがない医師も多くいる。実際に耳鼻咽喉科・頭頸部外科の内分泌外科専門医はまだ少ない[]。

これは開業医では顕著であり,甲状腺・副甲状腺の術後は,一般耳鼻科の開業医ではフォローできないことが多い。

2)超音波検査との関わり

甲状腺・副甲状腺疾患の診断・治療には超音波検査機器は欠かせないものであるが,日本超音波医学会の甲状腺超音波専門医を取得している耳鼻咽喉科・頭頸部外科医はほとんどおらず[],日本超音波医学会や日本乳腺甲状腺超音波医学会に参加する医師も内分泌外科医と比べると圧倒的に少ない。これは,耳鼻咽喉科・頭頸部外科で超音波検査が実施されていない訳ではなく,耳鼻咽喉科・頭頸部外科では超音波を学術的に捉え,学会へ参加する医師が少ないことが原因と思われる。

しかし一方で,甲状腺・副甲状腺疾患の主な手術合併症に反回神経麻痺などの音声障害があるが,耳鼻咽喉科・頭頸部外科医は音声障害の診療に関して高い専門性を有する。

甲状腺・副甲状腺疾患における音声についての関わり

1)反回神経麻痺の評価

甲状腺・副甲状腺疾患の手術合併症として,主なものに反回神経麻痺がある。反回神経麻痺があれば必ず嗄声を呈する訳ではなく,麻痺の様式による。声帯が正中で固定する場合は,嗄声の症状は出ず,患者自身も気づかない場合もある。このため喉頭ファイバーで声帯運動を評価するのがゴールデンスタンダードである。しかし,喉頭ファイバーによる観察だけでは診断が難しい声帯不全麻痺もある。この場合ストロボスコピーを使用し,左右の声帯振動が同期するかを評価して,声帯不全麻痺を診断する[]。

気息性嗄声を伴うような反回神経麻痺の程度を定量的に評価する簡易な方法に,最長発声持続時間(Maximum Phonation Time:MPT)の測定がある。MPTは対象者の肺気量にも影響されるため,術前後で比較を行う。MPTの変化によって,反回神経再建の効果などを定量的に評価,フォローする。

そのほか,声帯閉鎖不全による気流の抜けを気流阻止法で評価すること(Mean Flow Rate:MFR)によって,反回神経麻痺の程度を定量的に評価することができる(図1)。この場合も術前評価しておき,術前後で比較を行う。さらに術前の音声を録音しておけば,音響分析による声の質の評価が可能である(図2)。

図1.

気流阻止法。マウスピースをくわえ,鼻クリップをして,息が漏れないようにする。

図2.

音響分析のチャート図。発声における基本周波数や振幅のゆらぎ,雑音成分などのパラメーターで分析する。

また,反回神経を温存した場合にも,術後反回神経麻痺が生じることがある。このような場合には,反回神経麻痺の予後予測のため喉頭筋電図検査が有用である(図3)。

図3.

喉頭筋電図検査。輪状甲状間膜から刺入し,甲状披裂筋へ電極の先を留置する。

2)上喉頭神経外枝麻痺の評価

上喉頭神経障害による輪状甲状筋麻痺は,高い声が出にくくなることで知られるが,患者の訴えのみで判断されることが多い。他覚的に評価するため,ピッチレンジを術前から測定し,術後と比較している。また喉頭ストロボスコピーを使用すると,高音発声時にのみ左右の声帯振動の同期が得られない現象が観察される。

3)術前の反回神経浸潤評価

甲状腺癌の反回神経浸潤の術前の正確な診断は難しい。超音波検査やCTなどの画像検査のほか,喉頭ファイバーで声帯の動きを評価する。さらにこれに加え,喉頭筋電図検査で甲状披裂筋の筋電図を評価している。声帯麻痺がみられない症例でも,喉頭筋電図で異常波形を示し,術中所見で神経浸潤が認められる症例がある[]。

4)音声改善手術

反回神経切除症例では,反回神経再建術を一期的に行う。この手技はほぼ確立されたものであり,内分泌外科と変わりはないと思われる[]。

耳鼻咽喉科・頭頸部外科医が行う工夫を挙げるとすると,輪状甲状関節を切除して喉頭内まで反回神経を同定し,声門開大筋である後輪状披裂筋に分布する反回神経後枝を切除した上で神経再建を行う(図4)。また,神経再建術に加え,音声改善術である甲状軟骨形成術1型や披裂軟骨内転術をさらに追加して行うことがある。日本内分泌外科学会誌2020年37巻2号の特集1において,古田先生がこの内容について寄稿しておられるので参照されたい。

図4.

反回神経の走行。輪状咽頭筋を切除した後,輪状甲状関節を外し,甲状軟骨下角を切除すると,反回神経後枝が明視下におかれる。

反回神経再建術を行っても術後に音声改善効果が得られなかった症例については,音声改善手術である甲状軟骨形成術1型や披裂軟骨内転術を追加する。これらの手術は原則,局所麻酔で行い,術中に患者の発声改善を確認しながら調整を行う[]。

5)喉頭・気管浸潤症例

喉頭・気管へ浸潤している症例に対しては,喉頭・気管を部分切除し,再建することで音声機能を保つ。甲状腺癌は声門部より低い高さで喉頭侵入することが多いため,喉頭を部分切除しても声帯が温存されることが多い。喉頭を部分切除した症例では,反回神経再建が困難なため,一期的に披裂軟骨内転術を追加すると,再建後の音声が良好に保たれる(図5)[]。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医は気管孔管理に慣れているため,喉頭皮膚瘻や気管皮膚瘻などを形成したのち,二期的に喉頭・気管を再建する手法がよく選択される。

図5.

喉頭気管浸潤症例に対する披裂軟骨内転術の追加と二期的再建術。A.術前のCT写真,B.切除した腫瘍,C.喉頭・気管部分切除を施行,D.気管皮膚瘻の作成,E.二期的に閉鎖。

稀に癌の進行により喉頭全摘術が余儀なくされる症例がある。このような症例では,喉頭摘出後に気管食道間にボイスプロテーゼを挿入する手法によって,音声再建が可能である(図6)[]。これによって,声によるコミュニケーションが可能となる。

図6.

ボイスプロテーゼを挿入した永久気管孔とボイスプロテーゼ(Provox Vega®)。

おわりに

耳鼻咽喉科・頭頸部外科の診療科としての特徴から,甲状腺・副甲状腺疾患への関わり方を述べた。音声的なアプローチは診断・治療ともに耳鼻咽喉科・頭頸部外科が得意な分野のため,この点は内分泌外科学会に貢献できる一つであると思われる。しかし,施設間の診断や治療に関する違いは,診療科の違いのためのみともいえず,必ずしも上記の通りでないことは申し添える必要がある。

【文 献】
 

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