Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Clinical management, reports and impressions of parathyroid and thyroid disease from the Urologic surgeon
Shinichiro WatanabeHiroshi MikamiHidehisa Soejima
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2020 Volume 37 Issue 3 Pages 166-169

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抄録

泌尿器科は尿路結石や血液浄化療法を介して,副甲状腺疾患とのかかわりは深い。医中誌で,副甲状腺×泌尿器科で検索すると,2009~2019年に226編がhitし,原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)関連37編,二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)関連149編,腎移植関連22編,副甲状腺癌3編などであった。尿路結石はCa結石が90%以上であり,PHPTはその5%で稀ではなく,血清Ca,P値に関心を持つことが重要である。泌尿器科ではPHPTに比してSHPTの経験数が多い。Ca受容体作動薬によりPTxは減少しているが,PTxの効果は劇的で,医療経済的にも優位性は明らかである。Ca受容体作動薬により隠れていたHPTが腎移植後に明らかとなり,移植腎尿路結石や高Ca血症の治療に苦慮することも多い。今後もPTxの効果を発信していきたい。

1.はじめに

当科は泌尿器癌の手術を多数経験しており,1999年から腹腔鏡手術を開始し,2019年までに2800例を施行している。うちロボット支援手術として,2013年から開始した前立腺癌に対する前立腺全摘術を957例,2016年から開始した腎癌に対する腎部分切除術を156例施行している。

また,当科では1990年から副甲状腺摘除術(以下PTxと略す)を開始しているが,その背景として,熊本大学 泌尿器科で昭和40年代に原発性副甲状腺機能亢進症に対するPTxを開始したことに端を発する。熊本大学から当院に赴任した副島秀久医師が,1990年にPTxを開始した。1996年に筆者が当院に入職し,PTxを継続している。その後,2015年から三上 洋医師にPTxを伝承している。

当科のPTx件数を示す(図1)。初回PTx件数として,2019年までに原発性副甲状腺機能亢進症(以下PHPTと略す)を143例,二次性副甲状腺機能亢進症(以下SHPTと略す)718例を経験した。また腎移植後の三次性副甲状腺機能亢進症(以下THPTと略す)に対し4例施行し,MEN typeⅠを2例経験している。

図1.

当科の初回PTx件数

泌尿器科からみた甲状腺・副甲状腺疾患であるが,尿路結石や血液浄化療法を介して副甲状腺疾患とのかかわりは深い。甲状腺疾患は副甲状腺疾患の精査・加療中の発見がほとんどで,症例は少ないのが現状である。そのため本稿では,副甲状腺,甲状腺の順に述べたい。

2.副甲状腺疾患

泌尿器科からの視点ということで,医中誌で2009~2019年に泌尿器科から発表された論文・学会発表を,副甲状腺×泌尿器科のキーワードで履歴検索すると,226編(論文52編,会議録174編)がhitした。これらは93施設から発表されており,10編以上発表した施設が当科を含めて5施設,5~9編が7施設であった。

その内容は,PHPT関連37編,SHPT関連149編,腎移植関連22編,副甲状腺癌3編,その他(画像診断など)12編であり,具体的にはPTx関連が85編,SHPTに対するCa受容体作動薬関連が62編であった。

PHPTは結石型,骨型,化学型に分けられるが,当科は泌尿器科であるため結石型が75%を占める。わが国では毎年17万人の尿路結石患者が治療されており,カルシウム結石が90%以上,PHPTはその5%と報告されている[]。計算すると年間約8000例のPHPTが発症しているが,PTxの報告件数を考慮すると見逃されている症例も多いと思われる。当院もそうであるが,疝痛発作で受診しても救急外来では血清Ca,Pi値が測定されない症例も多いことが予想され,尿路結石症患者の診療では血清Ca,P値に関心を持つことが重要である[]。

PHPTにおいて,泌尿器科からも手術適応,手術方法について報告されている[]。PHPTに対する955例のPTxを経験した泌尿器科からの報告では,泌尿器科であるため結石型69.3%,骨型6.9%,生化学型15.0%,混合型8.8%であった。生化学型の症例も全身倦怠感,軽度のうつ症状,食欲不振,便秘などの不定愁訴を訴える場合が多く,PTxが症状の改善に有効と報告されている[]。無症候性症例の手術は,米国National Institute of Health(NIH)のガイドラインはあるが[],当科を含めてその適応に悩む施設も多いと思われる[]。

画像診断についての報告もあり,CT(できれば造影・dynamic),エコー,99m Tc-MIBIシンチグラムが有用である[]。当科の症例はPTx目的の紹介がほとんどであるため,初診時に単純CTおよび超音波検査士によるエコーをまず行っている。CTは64列MDCTを使用して1mmスライスで撮影し,描出された腺が2腺以下の場合,造影CTおよびMIBIシンチを追加している。画像所見とPTxでの摘出腺重量から検討したPHPTおよびSHPTでの腺描出率を691腺(PHPT39例,SHPT162例)で検討したところ,単純CT単独で86.1%,単純CT+エコーで89.0%であった(2011年第23回日本内分泌外科学会総会で報告)。また,腺重量別の描出率を図2に示した。この結果をもとに,PHPTにおいて当科では同定できた腫大腺のみ摘出している。また,前腕の自家移植腺摘出術を57例経験しているが,エコーとともに単純MRIでの描出が有用であることを経験している。

図2.

単純CTによる腺重量別描出率

縦隔内異所性副甲状腺の報告も泌尿器科からあり,CT+MIBIシンチが有用である[]。当科でも9例を経験しており,胸骨上縁から2横指程度の部位では頸部切開創からの摘出が可能であるが,胸骨切開を5例,胸腔鏡下(VATS)で摘出を4例経験した。

SHPTのPTxにおいて,3腺以下摘出例では残存腺は非常に軽微な過形成腺であり,どの部位が発見できなかったが手術記載に残すことが重要であることが報告されている[]。当科でもdata baseを作成し,どの部位が摘出できなかったか,図に記載している。

SHPTの加療に関しては,シナカルセトが発売された2007年よりも以降の検索であるため,Ca受容体作動薬に関する報告が多い[]。エテルカルセチド塩酸塩投与プロトコールを作成し,PTHのコントロールが改善した報告もある[10]。今後エボカルセトの報告も増加すると思われる。ただし,PTxは最も劇的にSHPTを改善し,骨折・心血管イベントを減少し,特に生命予後に関してLower risk of death, improved survival of HD patientsと報告されている[11]。JSDTの統計を基にした報告でもPTxの予後は良好である[12]。医療経済の観点では,シナカルセトと比較してPTxが経済性に優れるという報告がある[1314]。われわれもPTxの劇的な効果を多数経験しており,PTxを推進する立場をとっている。

高Ca血症性クリーゼの報告もある[15]。高Ca血症性クリーゼは原発性の0.7~3.8%に合併し,致死的である。原因として全身的侵襲,外傷,頻回のマッサージ,カルシウム剤,エピネフリン,副甲状腺腫瘍内の出血や壊死,急性囊胞変性が報告されている。当科でも,結石治療中にクリーゼを経験した施設から必ず結石治療の前に副甲状腺の検索・治療が依頼されている。

腎移植も泌尿器科で多数施行されている。腎移植後に遷延する副甲状腺機能亢進は移植腎機能低下の原因となるため,その治療は重要である。レシピエントでは,SHPTを献腎移植で18.5%,生体腎移植で8.3%に認め[16],また移植患者の17%が移植後1年目でPTHの上昇を認め,持続性HPTを呈する。さらに腎移植後1年で11~25%の症例で高Ca血症が報告されている[17]。生命予後からみて移植後3カ月で補正Ca>10.5mg/dlは独立した危険因子であり,移植後1年で補正Ca>10.5mg/dlの症例で有意に移植腎喪失のリスクが高い[1617]。PTxの1年後に有意に移植腎機能が低下するとの報告もあり,透析期にPTxの適応のある症例では移植前にPTxを行うことが望ましい[1617]。PTxの術式として,再発・再手術のリスクを考えると全摘+自家移植が勧められるが,1~2腺のみの腫大の場合は腫大腺のみの切除でも効果があるとの報告もある[17]。

腎移植後のレシピエントに移植腎尿路結石が発症する確率は0.2~2%と報告されている。自己腎尿管結石のような疝痛発作といったはっきりした自覚症状がないため,しばしば重大な合併症へと発展する。症候としては尿量減少・無尿,繰り返す尿路感染,無痛性の血尿・敗血症,移植水腎症に起因する骨盤腫瘤蝕知,拒絶反応と鑑別できないCr上昇がある[18]。移植腎尿管結石症の原因としては,①生体腎・献腎ドナー腎よりの腎結石の持ち込み,②二次性・三次性副甲状腺機能亢進症,高Ca尿症,低クエン酸尿症,過尿酸血症などの代謝異常,③尿管ステントなどの異物,④感染がある[18]。治療方法として,移植腎尿管に対する対外衝撃波結石破砕術(ESWL),経皮的腎結石破砕術(PNL),経尿管的結石破砕術(TUL)などが報告されているが,移植腎の解剖学的な要素から結石治療を多数経験している施設でも治療に難渋する症例も多く,発症予防が重要である。

3.甲状腺疾患

副甲状腺疾患の画像検査で甲状腺腫瘤を認める場合,腺腫様甲状腺腫が強く疑われる症例以外では穿刺吸引細胞診を行い,甲状腺悪性腫瘍であれば,甲状腺・副甲状腺同時手術を選択している。当科では7例経験し,全例が乳頭癌であった。

甲状腺手術は,high volume centerでの多数の研修経験があれば泌尿器科医のみでの手術も可能であろうが,当院はそうでないため外科との合同手術を行っている。

泌尿器癌の全身検索で甲状腺腫瘤を認めた際も,エコーで腺腫様甲状腺腫が強く疑われる症例以外では,上記の検索を施行している。

PTx中に甲状腺乳頭癌のリンパ節転移が偶発的に発見される症例も報告されており[19],当科でも5例経験している。うち2例に甲状腺手術が追加されている。

泌尿器癌の術前検査で甲状腺機能異常を認め,内分泌内科に紹介する症例は非常に少ない。

4.おわりに

泌尿器科ではPHPTに比してSHPTの経験数が多いが,Ca受容体作動薬によりPTx件数は劇的に減少している。SHPTに対するPTxの技術継承が困難な状況となっているが,前述したようにその効果は劇的であり,医療経済的にも優位性は明らかである。Ca受容体作動薬により隠されていた副甲状腺機能亢進が腎移植後に明らかとなり,高Ca血症の治療に苦慮することも多い。泌尿器科医としてはその点を強調して,今後もPTxの効果を発信し続けたい。

【文 献】
 

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