近年,癌の治療の進歩は目まぐるしいものがある。1990年代の癌の薬物治療と言えば,がん細胞への殺細胞効果を利用した薬剤が主流であった。しかし,その後,がん遺伝子やがん抑制遺伝子が発見され始めると,がん化における分子生物学的な解明が進んだ。がん細胞膜上の受容体に,がんの増殖因子が結合すると,シグナル伝達経路が活性化する。それにより,がん細胞が増殖する。そのシグナル伝達経路上を遮断することにより効果的ながん抑制作用を期待する。その様な伝達経路上の分子を標的とした,分子標的薬の出現により,がん治療も劇的に進化?した。内分泌外科医も例外ではなく,その恩恵に預かっている。今では,癌の発生の解明や治療薬の開発には遺伝子変異を含めた分子生物学的な研究が欠かせないものとなっている。また最近では遺伝子パネルなど,遺伝子の変異により治療薬が選択できるような,がんゲノム医療も可能となってきている。内分泌外科医もある程度の知識が必要となる。
そのため特集の内容は迷うことはなかった。しかし私個人は,この分野には疎いため,内容を考える上で昨年のコロナ禍でリモート開催となった日本内分泌外科学総会,日本内分泌病理学会での発表を参考にした。日本内分泌外科学会雑誌に日本の内分泌病理学を牽引されている3名の先生方の論文を残せることはとても貴重で有難いことだと感激している。