日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
原発性副甲状腺機能亢進症への治療介入のアウトカム(骨病変改善の観点から)
井上 大輔
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2021 年 38 巻 3 号 p. 130-135

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抄録

原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)は,PTH分泌過剰により骨代謝回転の亢進および皮質骨優位の骨密度減少をもたらす症候群である。その結果,椎体を含むあらゆる部位の骨折リスクが高まる。骨折は,PHPTに対する手術や薬物療法の適応を決定する上で最も重要なアウトカムの一つである。血清カルシウム濃度のコントロールに用いるカルシウム受容体作動薬(calcimimetic)は,単独では骨代謝の改善は期待できない。したがって,骨密度上昇効果が示されているビスホスホネートおよびデノスマブが骨に対する薬物療法の中心となる。しかし,非手術例に対するビスホスホネート投与により骨密度増加が認められても,必ずしも骨折率低下につながらない可能性がある。PHPTの骨折率増加には骨密度と独立した骨質の劣化の寄与が示唆されており,骨吸収抑制薬治療で本当に骨強度を高めることができるか否かについては,さらなる検討を要する。

はじめに

原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:PHPT)は副甲状腺の腺腫・癌・過形成からのPTH過剰分泌によって起こる症候群であり,活性型ビタミンD濃度の高値を伴う高カルシウム(Ca)血症,高Ca尿症,低リン(P)血症など呈する。これらの生化学的変化は長期的には骨,腎臓,心血管系,消化器系,脳神経系など様々な臓器に異常をもたらす。特に骨折は,手術適応や長期的なマネジメントを決定する上で重要なアウトカムの一つである。本稿では治療介入による骨病変の改善についてこれまでの知見を整理する。

1.PHPTと骨

PHPTでは皮質骨有意の骨密度減少がみられるが,海綿骨に富む椎体などの骨折リスクも上昇する。最新のメタ解析[]では全骨折のオッズ比は2.01倍,前腕骨折は2.36倍に増加していた。大腿骨近位部骨折については有意な増加は示されなかった。健常者との比較検討成績のみの解析でオッズ比は椎体骨折で5.76,軽症PHPTのみの解析でも4.22で,閉経後女性のみでは8.07倍という高値が認められた。したがって,椎体では骨密度低下の割に骨折率が高いことが示唆される。海綿骨スコア(trabecular bone score:TBS)は骨密度測定の際のDXA(dual photon absorptiometry)データから算出される骨質指標で,椎体海綿骨の微細構造を反映する[]。PHPTにおいて骨密度やTBSと骨折との関連を検討した成績[]によると,骨密度よりもTBSの方が骨折の予測力が高かった。したがって,PHPTにおいては骨質の劣化が骨折率増加に寄与している可能性がある。

2.骨に対する介入効果

1)手術療法

PHPTの唯一の根治術は外科的な病的副甲状腺切除であり,特に自覚症状や臓器障害を伴う場合には手術療法が原則である。無症候性PHPTの手術適応については,長年にわたり論議が続いている。標準的な方針を示す国際ワークショップによるガイドライン2014年版[]においては,基準範囲上限を1.0mg/dl以上越える高Ca血症,腎機能障害,骨粗鬆症(任意の部位の骨密度Tスコアが-2.5未満または椎体骨折既往有り),50歳未満の若年者が無症候性PHPTの手術適応基準となっている。手術療法/薬物治療の是非を論じる際の最も大きな争点は長期的予後であり,骨に関しても自然経過と比較した場合の骨関連のアウトカムが問題となる。2010年のSankaranらのメタ解析[]によると,軽症PHPTを無投薬で経過観察すると0.6~1.0%/年(2年以内)もしくは0.1~0.3%/年(2年以上)の緩やかな骨密度減少がみられた。一方,手術療法を行った場合,術後1年で3~4%の骨密度増加を認めた。また,軽症PHPTを手術有り/無しで5年間経過をみた検討[]において,経過観察群では全ての部位で有意に骨密度が低下した。手術群では経過観察群に比して,骨吸収マーカーであるCTX(Ⅰ型コラーゲン架橋C-テロペプチド)および骨形成マーカーであるP1NP(Ⅰ型コラーゲン-N-プロペプチド)が有意に低下し,腰椎,大腿骨頸部,橈骨遠位端,全身の骨密度が有意に増加した。ベースラインから有意に増加したのは腰椎のみであった。

以上の検討から手術による改善に疑いの余地は少ないと考えられるが,次に問題となるのは薬物療法との優劣である。しかしながら,骨折をアウトカムとした無作為化プラセボ対照試験(RCT)はない。以下に薬物療法の効果について論じる。

2)Ca受容体作動薬(calcimimetic)

細胞外Ca感知受容体(CaSR)作動薬calcimimeticの1つであるシナカルセトは,アロステリック作用によりCa-PTH反応曲線をシフトさせ,PTH分泌を抑制する。一般にPHPTではCa反応性が保持されているため,副甲状腺腺腫や癌に対しても効果が期待できる。78名のPHPT(血清Ca:10.3~12.5mg/dl)患者におけるRCTでは,シナカルセトは一年間にわたり血清Caを正常に維持しえた[]。血清Pも上昇したが,プラセボと比較して骨密度にはほとんど有意な差がなかった。PTHはわずかに低下したものの依然正常よりも高値であり,骨代謝マーカーはむしろ上昇傾向を示した。この試験はオープンラベルで全例治療に切り替えて4.5年間延長されたが,Ca,PTH,骨密度に関して大きな変化はみられなかった[](図1)。これらの検討によりシナカルセトの長期的かつ安全な血清Ca濃度抑制効果が証明された。一方,PTHの絶対値が低下しないことや骨組織のCaSRを介した直接効果などにより,骨密度増加効果は認められなかった。したがって,calcimimeticは高Ca血症のコントロールには有用であるが,骨関連アウトカムを改善することはできない。

図1.

PHPTにおけるシナカルセトの骨密度に対する効果(文献[])

PHPT78例の二重盲検ランダム化比較試験で,初期1年はシナカルセト群とプラセボ群とで各部位の骨密度の変化を比較した。2年目以降は全例シナカルセト内服として5年まで延長した。シナカルセトは骨密度に関して有意な効果を示さなかった。

3)ビスホスホネート

ビスホスホネートは原発性骨粗鬆症における椎体・非椎体骨折抑制のエビデンスを有する薬剤である。PHPTに対するアレンドロネートの効果をみたRCT[]においても骨代謝回転の低下および骨密度増加効果(図2)が示されている。これらの効果は原発性骨粗鬆症に対する効果と大きな相違はないと考えられるが,長期的な骨折率に対する効果は未検討である。殆どの検討はアレンドロネートを用いたものであり,小規模のものを含めると10報以上の報告がある[10]。高Ca血症のない正Ca血性PHPTに対する有効性も報告されている[11]。

図2.

PHPTにおけるアレンドロネートの骨密度に対する効果(文献[])

PHPT女性44例のランダム化比較試験において,各部位の骨密度の基礎値からの変化率を比較検討した。

左(黒)はアレンドロネート群(10mg/日)の12カ月および24カ月後,右(白)はプラセボ群で,初期12カ月はプラセボ内服,以後12カ月はアレンドロネートを内服している。アレンドロネート群で,腰椎および大腿骨骨密度の有意な増加が認められた。

A:腰椎 B:大腿骨近位部 C:大腿骨頸部 D:橈骨遠位端

前述のSankararらのメタ解析[]によると,1年間のRCTおよび2年間の縦断的観察研究のいずれにおいても,手術療法とビスホスホネート投与の骨密度に対する効果に差異は認められなかった。Yehら[12]は15年間にわたる6,272人のPHPTフォローアップデータを用いて,後ろ向きコホート解析により観察群,手術群,ビスホスホネート投与群における骨折発生率および骨密度変化を調べた。その結果,やはり骨密度に関しては大腿骨近位部でも腰椎でも男女ともに,手術療法と同等の効果がビスホスホネートによって得られた(図3)。しかしながら驚くべきことに,大腿骨近位部骨折あるいは全骨折の頻度は手術療法では経過観察群に比して明らかに低下しているのに対し,ビスホスホネートでは低下しないばかりか経過観察群よりも高い傾向がみられた[12](図4)。観察研究ではあるものの,ビスホスホネートによる骨密度の改善は骨折リスクの低下に反映されない可能性が示唆された。これはPHPTにおける骨折リスクと手術による改善には骨質の変化が関与するという考え方に合致する。いずれにしても現時点での限られたデータに基づくと,ビスホスホネート治療が手術療法と同等以上の骨折リスク低下をもたらすか否かは不明であるといえる。

図3.

PHPTに対する手術療法とビスホスホネート治療との比較(骨密度)(文献[12])

15年間にわたる6,272人のPHPTフォローアップデータを用いて,後ろ向きコホート解析により観察群,手術群,ビスホスホネート投与群における骨密度変化を比較検討した。大腿骨近位部(Total hip)および腰椎(Spine)において男女ともに,観察群に比して,手術群とビスホスホネート群でほぼ同等の骨密度増加がみられた。

図4.

PHPTに対する手術療法とビスホスホネート治療との比較(骨折率)(文献[12])

図3と同じ15年間にわたる6,272人のPHPTフォローアップデータを用いて,後ろ向きコホート解析により観察群,手術群,ビスホスホネート投与群における5年間当たりの骨折発生率を比較検討した。大腿骨近位部(上段),全骨折(下段)ともに,観察群に比して手術群では骨折率低下がみられたが,ビスホスホネート群ではいずれも骨折率増加傾向がみられた。

一方,PHPTの術後に急激なCa,Pの骨への集積が起こり低Ca血症をきたすことがある[13]。これは飢餓骨症候群(hungry bone syndrome)と呼ばれる病態で,術後3日目頃に血清Caが最低値となることが多い。ビスホスホネートの術前投与により骨代謝回転を低下させておくと,術後のhungry boneを防止できるという成績[1415]が報告されており,未確立ではあるが1つのオプションとして興味深い。他の骨吸収抑制薬についてもこのような検討が進むことが期待される。

4)デノスマブ(抗RANKL抗体)

少数例の観察研究ではあるが,平均79歳のPHPTと原発性骨粗鬆症患者各25名に対してデノスマブを2年間投与した結果,PHPTでは原発性よりも強力な骨代謝マーカー低下効果,骨密度増加効果が得られた[16]。最近,PHPTに対するシナカルセト併用有り無しでデノスマブの効果をみたRCTの結果が発表された[17]。その結果,デノスマブは1年間で腰椎,大腿骨頸部,大腿骨近位部の骨密度を各々6.9%,3.8%,4.1%増加させた。シナカルセトの併用は血清カルシウム濃度を低下させたが,デノスマブの骨密度増加効果に大きな影響はなかった。したがって,骨密度に関してはデノスマブも有効と考えられるが,骨折リスクについては今後の検討課題である。

5)ホルモン補充療法(HRT:hormone replacement therapy)

エストロゲン+プロゲステロン製剤を用いるHRTは閉経後女性に対する補充療法で,椎体・非椎体骨折ともに抑制効果が示されている。PHPTを有する閉経後女性に対する2年間のRCTにおいても,腰椎,大腿骨近位部を含む各部位の骨密度を増加させた[18]。骨折リスクは未検討である。近年,HRTそのものが骨粗鬆症治療のみの目的で長期使用されることは少なく,わが国においても骨粗鬆症に対する保険適用は限られている。

6)選択的エストロゲン受容体作用薬(SERM:selective estrogen receptor modulator)

骨粗鬆症治療薬として認可されているSERMのうち,ラロキシフェンはごく少数例もしくは短期的な検討[1920]で,PHPTに対して原発性とほぼ同等の骨代謝回転抑制,骨密度増加効果が報告されている。ビスホスホネート,デノスマブに次ぐ選択肢となり得る。

7)ビタミンDおよびカルシウム

ビタミンDの不足/欠乏はわが国においても高頻度にみられ,一般にPTHの上昇,骨密度低下,骨折率増加,骨吸収抑制薬の効果減弱と関連している[21]。わが国の判定指針では25水酸化ビタミンD濃度が20ng/ml未満で欠乏,20以上30未満で不足,と診断する[21]。ビタミンD不足/欠乏はPHPTにおいても随伴する骨粗鬆症に悪影響を及ぼす[22]こと,PHPT特に正Ca血性PHPTの診断に影響を及ぼすこと,術後のhungry bone syndromeのリスクを高める可能性があること,などからガイドライン上,血清25(OH)D濃度が20ng/ml未満のPHPT患者にはビタミンD補充が推奨されている[23]。わが国でも最近25(OH)D濃度の測定が保険診療上も可能となったが,天然型ビタミンD3は処方薬にないため,サプリメントとして購入する必要がある。1,000単位/日程度であれば通常安全であるが,Ca上昇をきたすこともあるため,注意深く血中Ca濃度をモニターする。

活性型ビタミンD3製剤は高Ca血症を増悪させるため,PHPTには禁忌である。経口カルシウム製剤も高Ca血症増悪のリスクのため基本的に禁忌であるが,逆にCa摂取制限も行わないのが原則とされている[23]。PHPTにおいて,天然型ビタミンD3やカルシウム薬の骨アウトカムに対する影響は明らかでない。

おわりに

以上まとめると,現時点でのPHPTの骨粗鬆症治療薬としては,手術療法に匹敵する骨密度増加が期待できるビスホスホネート(特にアレンドロネート)またはデノスマブを用いるのが良い。しかし,PHPTにおける骨折リスクや薬物治療による改善は骨密度のみでは推測できないことから,骨アウトカムという観点から手術よりも薬物療法を推奨することはできない。シナカルセトおよびエボカルセトは血中Ca濃度をコントロールする効果に優れているが,臓器保護の観点から長期的な予後改善効果が証明されておらず,高Ca血症のコントロールを主目的に補助的に用いる。理論上,PHPTに対してcalcimimeticsによりPTH,Caをコントロールしながら骨粗鬆症薬により骨保護を図る併用療法の有効性が期待されるが,データは限定的であり[1724],さらなる検討が望まれる。

【文 献】
 

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