地下水学会誌
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論説
地下水と生態系
これまでの研究動向と今後の展開
齋藤 光代安元 純杉山 歩
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2020 年 62 巻 4 号 p. 525-545

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抄録

本稿では,地下水と生態系との関係についての既存研究の動向を把握するとともに,今後の課題や展開を明らかにすることを目的とし,あらゆる物質循環および生態系に関与する「微生物」の地下水中での動態に加え,地下水に影響を受ける生態系(Groundwater Dependent Ecosystems: GDEs)のうち,特に,地下水流出域に相当する沿岸海域に分布し,物質循環や生物多様性の保全にとって重要な役割を果たす「藻場」と「サンゴ礁」生態系に着目し整理した。微生物については,従来地下水の飲料水適用や汚染浄化を主要な観点とした研究が多く行われてきたが,近年では地下水流動と微生物動態の関係などに着目した研究も徐々に進んできている。また,藻場やサンゴ礁については,海底湧水(Submarine Groundwater Discharge: SGD)の影響が顕著な地域を対象とした研究により,藻場に対しては,SGDが栄養塩の供給源として海草や海藻類の存在量増加に寄与する反面,種の多様性は低下させる傾向にあること,また,サンゴ礁に対しては,SGD経由の栄養塩供給が増加して海域の富栄養化を招いた場合,ある種の藻類の増殖やサンゴの骨格密度や繁殖能の低下を引き起こし,結果としてサンゴ礁の脆弱性を高めることが報告されている。ただし,いずれについても,地下水との関係については未だ科学的に未解明な部分が多く,多様なサイトにおける調査結果の蓄積や新たな手法の適用に加え,生物地球化学,微生物学,および生態学などの分野の研究者が地下水学を通じて連携し,更なる理解を深めていくことが重要である。

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© 2020 公益社団法人 日本地下水学会
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