日本水文科学会誌
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論文
浅間火山の湧水の水質形成における火山ガスの影響と地下水流動特性
-硫黄同位体比を用いた検討-
鈴木 秀和田瀬 則雄
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2010 年 40 巻 4 号 p. 149-162

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抄録

 浅間火山の北・東麓に分布する火山ガスの影響を受けた湧水の水質形成機構を解明する目的で,硫黄同位体比(δ34S 値)を分析した。また,湧水の水質の分布特性とその形成機構に基づき,発達過程で大規模な崩壊を伴う複式火山体の構造に関連した地下水流動についても議論した。
主要陰イオン組成と炭素同位体比を用いた先行研究によると,対象地域において火山ガスの影響を受けた湧水は大きく2 つのタイプに分類される。一つは新期火山体である前掛山の北・東麓に分布する中性の塩化物イオンをかなり含むSO4+HCO3 型およびSO4+Cl 型の湧水であり,もう一方が南斜面の塩化物イオンをほとんど含まないHCO3 型および地獄谷噴気に位置する酸性SO4 型湧水である。前者のδ34S 値(8.8 ∼ 15.9‰)は後者の酸性SO4 型湧水(2.2‰)に比べより高い値であった。両者間におけるδ34S 値の違いから,各タイプの水質形成機構が以下のように提案された。
前者は山体深部の火道付近で形成され,その流動過程において水/ 岩石反応の結果中和された酸性SO4+Cl 型熱水起源の地下水が混入することにより形成される。一方,後者は,CO2 とH2S を主成分とする低温火山ガスと地下水が,地表付近で接触することにより形成される。
また,山体深部で形成された酸性のSO4+Cl 型熱水の影響が,北・東麓でのみみられるという事実は,前掛山における地下水流動が北あるいは東へ向かう流れに卓越していることを示唆している。新期火山体である前掛山は古期火山体である黒斑山の崩壊カルデラの上に形成されていることから,地下水流動はその北東方向に傾く崩壊面形態に強く規制されるものと考えられる。

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