日本水文科学会誌
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総説
富士川流域における渓流水中の硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体比
中村 高志尾坂 兼一平賀 由紀風間 ふたば
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2011 年 41 巻 3 号 p. 79-89

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抄録

 富士川流域の渓流水中の硝酸イオンの起源と森林・農地から流出する硝酸イオンの窒素同位体比を把握するために,57地点における渓流水中の硝酸イオン濃度ならびに硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体比を測定し,流域の土地利用の分布と比較した。硝酸イオンの酸素同位体比は,渓流水中の硝酸イオンが硝化反応により生成されたものであることを示した。硝酸イオンの窒素同位体比と流域に占める農地の面積割合の変動には明瞭な関係が得られた。流域に占める農地面積の割合が2%より高い流域では窒素同位体比が増加し,農地の面積割合の増加に伴う硝酸イオンの窒素同位体比の上昇は5.4‰に収束した。これは,既往の報告にある甲府盆地の果樹園地帯における浅層地下水中の硝酸イオンの窒素安定同位体比と整合するものであり,渓流水に農地からの硝酸イオンの負荷があることを示した。宅地に関しては,面積割合が1%のより高い流域で窒素同位体比の値が上昇し,生活排水の影響を示唆した。森林域から流出する硝酸イオンの窒素同位体比の樹種による差は明確ではなく,流域に占める森林面積が98%以上の流域を対象に推定された森林から流出する硝酸イオンの窒素安定同位体比は0.9±1.0‰であった。

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