日本水文科学会誌
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総説
山岳地域における雪氷水文学的研究と気象観測問題
鈴木 啓助
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キーワード: 降雪, 積雪, 水資源, 環境変動
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2012 年 42 巻 3 号 p. 109-118

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抄録

 わが国の日本海側地域は,世界でも稀な豪雪地として知られており,降雨にもまして降雪によってもたらされる多量の降水は水資源として極めて重要である。強い放射冷却によって,冬期のシベリア大陸には熱的高気圧が形成される。南側のチベット・ヒマラヤ山塊によってシベリア高気圧の南下が妨げられ,乾燥寒冷な空気塊は東側に吹き出す。この空気塊は日本海上で熱と水蒸気の供給を受けて積雲対流を生み,雪雲が形成される。この雪雲から大量の雪が日本アルプスに降り注ぎ,天然の白いダムとなり貴重な水資源となっている。
 山岳地域は地球規模での環境変動に対して敏感であると言われているが,山岳地の気象観測として象徴的であった富士山測候所が2004 年8 月で閉鎖され,富士山に次ぐ高所の気象観測点は標高1350 m の野辺山である。このような気象観測データの欠如では,地球規模での気候変動が標高3000 m に達する日本アルプスの自然環境に及ぼす影響を評価することができない。そこで,信州大学山岳科学総合研究所は日本アルプスでの気象観測網を展開している。
 多量の積雪のため山岳地域で積雪深を直接観測することは困難であるし,商用電源が利用できない状況では,冬期の降雪の観測も不可能である。そこで,雪氷化学的手法を用いた冬期の降雪量を見積もる手法が提案された。

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