日本水文科学会誌
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総説
モンゴル森林-草原斜面における凍土環境と水循環
飯島 慈裕石川 守ジャンバルジャフ ヤムキン
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2012 年 42 巻 3 号 p. 119-130

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抄録

 モンゴル北部の山岳地域は,北向き斜面にカラマツからなる森林,南向き斜面には草原が広がる植生の漸移帯(エコトーン)をなしている。この森林-草原斜面は,永久凍土・季節凍土の分布と重なり,明瞭な水循環過程のコントラストを示す。本研究は,ヘンテイ山脈トーレ川上流域で2004 年から開始した森林・草原斜面での各種水文気象の観測結果から,植物生長開始と生長期間の蒸散量の季節変化に影響する凍土-水文気象条件の対応関係の解明を目的としている。森林斜面からの蒸散量は,6 月~ 7 月上旬の雨量が7 月の土壌水分量を規定し,その年の蒸散量の最大値と良い対応関係が認められた。また,カラマツの開葉は消雪とその後の凍土活動層の融解との関係が深く,生育開始の早遅も蒸散活動の年々変動に影響している。この森林では,降雨の時期に加えて,消雪時期と凍土融解(活動層発達)時期の早遅が組み合わさることで,植物生長と蒸散量の季節変化と変動量が影響を受けていることが示された。2006 年夏季の流域水収支から,森林は草原に比べ蒸発散量が約半分に抑えられ,活動層内の土壌水分量と合わせて,河川流量に対応した水資源を確保している様子が明らかとなった。すなわち,モンゴル山岳地域の凍土-森林の共存関係は,流域水資源の維持に重要な役割を果たすと考えられる。

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© 2012 日本水文科学会
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