抄録
日本の山岳地域における降水の安定同位体比の時間変動特性を明らかにするために,御嶽山の11地点において2003年1月から2005年12月まで月毎に降水の採取と分析を実施した。降水の安定同位体比は,観測期間を通して春季に高く,冬季(積雪期)に低い値を示し,夏から秋は両季節の中間的な値であった。この季節変動は雨量効果や温度効果では説明不可能であり,御嶽山の降水の同位体変動とローカルな気象条件との関係性が低いことが示唆された。春から秋の暖候期の降水の同位体比は,御嶽山の風上にあたる南側の地域の降水量が多いときに低い値となっており,水蒸気団が御嶽山に到達するまでにもたらした雨量の差異がこの時期の同位体比の変動要因であることが示唆された。冬季に観測された積雪の低い同位体比は,風上の北西側に豪雪地帯が分布することから,内陸効果によるものと判断された。このような同位体比の変動は,水蒸気団の起源である海洋から遠く離れた山岳地域の立地を反映したものと考えられる。