日本水文科学会誌
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総説
流域における窒素除去過程としての脱窒の役割
楊 宗興
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2014 年 44 巻 4 号 p. 185-195

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抄録

近年,陸域への窒素の負荷に起因した海域の貧酸素水塊形成の問題等から,窒素の流域レベルの動態に関心が持たれている。陸域に負荷される窒素と流出する窒素の間には比例関係が認められている。しかし,後者は前者を一般に大きく下回り,流域には窒素の大きなシンクが存在する。その損失過程としては脱窒や植物・土壌への吸収などが考えられているが,詳細は不明である。平野部のない高原農業地域で集水域ごとの窒素収支を検討すると,負荷窒素と流出窒素の関係はこれまでの研究例と異なりほぼ1 : 1であり,窒素の損失は存在しなかった。台地部–低地部トランゼクトに沿って地下水を分析すると,低地部でNO3-や溶存酸素濃度の減少,相対N2/Ar比の上昇が認められる。さらに,丘陵地谷底部土壌深部でも脱窒を示すさまざまな証拠がある。以上の事実から,流域での窒素の動態において低平地の地下部での脱窒が一般に重要である可能性を提唱する。

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© 2014 日本水文科学会誌
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