日本水文科学会誌
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論文
森林流域における主要無機イオンの流出機構:観測とモデリング
宮本 拓人知北 和久 阪田 義隆落合 泰大ホサイン  エムディ モタレブ大八木 英夫工藤 勲
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2016 年 46 巻 1 号 p. 39-57

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抄録

本研究では,北海道・十勝地方沿岸域にある生花苗川(おいかまないがわ)流域(面積 62.47 km2)を対象とし,淡水の電導度モニタリングに基づく解析を行っている。生花苗川流域の土地利用被覆率は,森林88.3%,農用地10.6%でほとんどが森林である。森林土壌は,30–40 cm深に1667年樽前山噴火によるテフラTa-b層,さらに深部には約40,000年前の支笏火山大噴火によるテフラSpfa-1層と角レキ層が基盤の上に分布している。これらの層は極めて透水性が高く,側方浸透流の流出経路の役割をもつ。また,レゴリス下の地質基盤は大部分が新第三紀中新世の海成層で透水性の高い砂岩・レキ岩を含み,これには日高造山運動によってできた断層も分布している。今回は,試水の化学分析から河川水の主要無機イオンMg2+, Ca2+, Na, SO42-, HCO3の濃度(mg/L)と25℃電気伝導度(EC25と表記)との間に相関の高い線形関係を見出した。他方,2013年の降雨期に生花苗川で水位・電気伝導度をモニタリングし,溶存イオン濃度とEC25との関係を用いて,上記五種のイオン濃度およびその負荷量の時系列を得た。本研究では,得られた流量と主要無機イオン負荷量の時系列にタンクモデルとベキ関数を適用し,河川への各種イオン物質の流出経路について解析を行った。流出解析の結果,2013年は表面流出と中間流出で流出全体の74.2%を占め,流域外への地下水漏出は16.8%を占めた。また,イオン物質負荷量に対するモデル解析から,全負荷量に対する表面流出,中間流出,地下水流出,河川流出による負荷量の寄与が求められた。結果として,五つのイオン種全てで中間流出による寄与が40.0~70.0%と最大であった。これは,中間流出に対応する基盤上の角レキ層と支笏テフラ層での側方浸透流による溶出が卓越していることを示唆している。

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© 2016 日本水文科学会誌
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