国際ビジネス研究
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組織能力の偏在と日系企業の立地選択 : 大連における日系企業の事例
藤本 隆宏陳 晋葛 東昇福澤 光啓
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2010 年 2 巻 2 号 p. 35-46

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抄録

グローバル化の時代における、微細な産業内貿易、企業の多国籍展開といった現象を説明する一つの論理として、組織能力とアーキテクチャの適合性を重視する設計立地の比較優位論がある。これまで、多くの日本企業が「生産は中国へ移し、設計は日本に残す」という、比較的シンプルな立地方針で日中生産・設計分業を進めてきた。これは、華南の低賃金・単能工・モジュラー生産というモデルを前提にした分業構想である。しかし、中国での賃金は高騰を続けており、東莞や青島などに進出した低賃金のみに依存する外国企業は、中国から撤退を始めているように見受けられる。このように、多国籍企業は、最適立地を見直す必要に迫られている。中国には、産業平均の定着率が比較的良い地域や企業の定着政策次第で、その離職率をさらに下げる余地のある地域がある。その典型例が大連をはじめとした東北地域であり、本研究では、日系企業2社の大連拠点の事例研究を行った。大連をはじめとした東北地域では、華南や長江と比べて賃金が低いことに加えて、賃金水準に対して低い離職率、豊富な設計技術者の供給など、インテグラル型製品に適した労働環境が存在する。そこでは、日本企業は、従来考えられていた日中生産・設計分業とは異なる形での企業内国際分業体制を構築可能である。ものづくり組織能力の偏在とアーキテクチャの適合の観点から中国への国際展開を考えた場合、インテグラル・アーキテクチャ寄りの設計業務の一部を中国で行うことが可能であるということが示唆される。

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© 2010 国際ビジネス研究学会
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