国際ビジネス研究
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ICTスタートアップ企業の海外市場参入 : ハイテク・ボーン・グローバル企業の罠
森田 正人茂垣 広志真鍋 誠司
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2010 年 2 巻 2 号 p. 61-73

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抄録

本稿は、ハイテク・ベンチャー企業の海外市場参入にかかわる問題に焦点を当てることによって、企業の国際化に関する研究の発展に寄与しようとするものである。特に、本研究の目的は、ICT(Information and Communication Technology)スタートアップ企業が海外市場へ参入した後に失敗する論理を提示することにある。従来の企業の国際化モデルでは、最初に本国市場で優位性を確立した後、海外市場に参入するという漸進的・段階的なアプローチが一般的であると捉えられてきた。しかし、起業後まもなく海外市場に参入する企業の存在が注目されるようになった。これらの企業は、「ボーン・グローバル企業」(Born Global Company,生まれながらのグローバル企業、以下BGCと略記)とも呼ばれている。本研究では、日本市場に参入したICTスタートアップ2企業について、市場と技術という2つの視点から、仮説創造型の比較事例研究を行った。その結果、「ハイテク・ボーン・グローバル企業の罠」ともいうべき失敗が発生するメカニズムを明らかにした。そのメカニズムは、以下の通りである。急速な海外展開を図るICTスタートアップ企業は、海外市場参入後もこれまでの技術志向から一転して市場志向に転換することができず、柔軟な技術戦略がとりにくい。その結果、市場が急速に推移しているにもかかわらず、ハイテクBGC企業は自社技術に固執してしまい、その結果製品が市場に受け入れられない。このような失敗を避けるためには、海外市場に参入後は、技術志向から市場志向への急激な転換が必要であるという示唆も得られた。

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© 2010 国際ビジネス研究学会
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