国際ビジネス研究
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戦後、外資系製薬企業の在日経営 : 社会関係資本に注目して
竹内 竜介
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2012 年 4 巻 1 号 p. 109-121

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抄録

本稿の目的は、まず戦後に対日進出を果たした外資系製薬企業2社をとりあげ、その長期にわたる在日経営プロセスを明らかにすること、次にその2社の比較を行うことで、外資系製薬企業の在日経営に関する特徴を導き出すことである。事例対象としては、合弁形態で参入したメルク社(米)、日本の大手製薬企業と関係を持たず単独で事業展開を進めたシエーリング社(独)をとりあげた。なお、これら企業が日本市場でどのようにして「社会関係資本」を活用したのかという点に注目して、その在日経営のプロセスの解明ならびにその比較を行っている。具体的には、外資系製薬企業がいかにして自社外部の要素、特に事業展開に密接にかかわる医師との関係を構築し、医師の社会的ネットワークに埋め込まれた情報や関係性などといった資源を活用したのかという点に注目して事例分析と事例の比較を行った。このように本稿は複数事例の歴史を一定の観点から比較する、比較経営史の手法にのっとり考察を行っている。2社の事例からの発見事実をまとめると以下のようになる。第一に、外資系製薬企業は医師たちと主に学術的情報の提供と共有を基礎にして信頼関係の構築を図った。そしてそうした信頼関係を通して医師の社会的ネットワークに埋め込まれた情報や関係性を活用することができ、新薬の市場への導入とその普及を継続的かつ円滑に行ってきた。すなわち日本市場で「社会関係資本の活用能力」を創り出すことで、日本での持続的成長を実現した。第二に、社会関係資本の活用のために子会社の能力の向上が不可欠であった。そのために各社は自身が有する知識を日本子会社に移転していった。最後に日本での様々な社会関係資本の持続的な活用、そしてそれによる持続的成長には、各外資系製薬企業の日本への参入戦略ならびに企業戦略が影響してきた。

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© 2012 国際ビジネス研究学会
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