2009 年 24 巻 1 号 p. 1-11
戦後我が国で行われた保健衛生対策である「蚊とハエのいない生活実践運動」は、住民参加型開発と呼びうる地区衛生活動の一例である。これは衛生害虫を自分たちの生活の中の問題として位置づけ、住民の手で防除を成し遂げるという方法で始まったものであるが、後期にはそれを専門家の目で評価し、改善していくという発展も見られた。住民組織への活動普及というメカニズム自体は当時の占領国アメリカから持ち込まれたものであるが、それを受け入れる土壌と住民組織がすでに日本各地に存在していたことは注目に値する。先進国の中でも格段によい衛生状態を保っている日本の現状を達成する鍵となった戦後の地区衛生活動の経験は、今後の途上国支援のあり方に大きな示唆を与えると考えられる。