2016 年 19 巻 1 号 p. 38-53
メタ・コミュニケーションの概念は,これまで「コミュニケーションについてのコミュニケーション」という定義の下,児童発達研究から心理療法の分野に至るまで,様々な領域で使用されてきた.ただし,ここでメタ・コミュニケーションを単純にコミュニケーションの参与者間の関係調節や言語/非言語的振る舞いの意味づけを行うものだと考えてしまうと,参与者間の連続した相互行為によって動的に変化していくコミュニケーションの場やコンテクストを適切に捉えることができない.本稿では,認知語用論の立場から,メタ・コミュニケーション概念の生みの親であるGregory Batesonの思想を辿り,その思想の継承者の一人であるErving Goffmanのフレーム概念を再検討することを通じて,参与者の認知活動と相互行為においてメタ・コミュニケーションが果たす役割を理論的に考察していくことを目的とする.結論として,メタ・コミュニケーションは動的な「フレーミング」による「境界づけ」と「方向づけ」という2つの機能によってコミュニケーションの場を多層化し,参与者たちの認知と相互行為のインタフェースとなっていると考えることができる.