2023 年 26 巻 1 号 p. 213-227
これまでほめ行動については様々な視点から研究されてきたが,ほめが否定された後,ほめ側はどのような行動を取るのかに着目した研究は管見の限りない.本稿では,会話分析の手法を用いて実際のほめ連鎖を分析した結果,最初のほめが否定された後,ほめ側は単なる再ほめをせず,「関連情報の確認」や「ほめる根拠の追加」を行っていることが分かった.さらに,ほめ側はこのような行動を取ることでどのような行為を達成しているのかについて,本稿ではフェイスの概念を用いて分析した.その結果,ほめが否定された場合,ほめ側が取る行動はほめられ側とほめ側両者のフェイスにかかわるため,ほめを続けるかどうかという「ほめ側のジレンマ」が生じうること,このような状況において,ほめ側が「関連情報の確認」または「ほめる根拠の追加」を行うことで,ほめられ側とほめ側両者のフェイスに配慮を示しつつ,自らが直面する「ほめ側のジレンマ」に対処するという行為が達成できることが明らかになった.