日本列島産のジルコンは、花崗岩に産出するHREE-Th-U-poorタイプと分化が進んだ花崗岩や花崗岩質ペグマタイトに産出するHREE-Th-U-richタイプに分けられ、これは高温形成(700℃以上)と低温形成(500℃以下)という生成温度の違いに起因する(星野他、2007:講演要旨)。一方、日本列島に特徴的に産出するHREE-Th-U-richジルコンは、変質したジルコンもしくは微小包有物を誤って分析してしまったことが原因と、Hoskin & Schaltegger (2003)により、指摘されている。そこで、本研究の目的は、希土類元素を多量に固溶したジルコンの化学組成分析と単結晶構造解析を行い、低温型ジルコンの存在を証明することである。研究試料としては、福島県石川町塩沢字竹之内の花崗岩質ペグマタイトに産出するジルコンを用いて、EPMAによる化学組成分析と単結晶四軸自動回折装置による結晶構造解析を行った。ジルコンの単結晶構造解析は、(Zr0.768, Hf0.055, Sc0.009, Y0.086, Dy0.005, Er0.005, Yb0.007, Th0.005, U0.022) (Si0.946, P0.054) O4という化学組成式に基づいて行われ、R因子は4.1%まで精密化された。本研究により、希土類元素が確実にジルコンの結晶構造中に固溶されていることが明らかになった。そのため、日本列島の花崗岩質ペグマタイトに固有的に産出するHREE-Th-U-richジルコンは、変質作用により生成されたのではなく、一連の火成作用下の500℃以下の低温条件で生成されたことが立証された。