スラブ深度が300 kmに達する利尻火山のマグマ活動の誘因を理解するために、同火山の玄武岩質溶岩(野塚溶岩)を対象に岩石学的・地球化学的解析を行った。同溶岩で最もMgO量の高い試料を対象に解析を行った結果、マグマの生成を引き起こしたスラブ流体のH2O/Ce比は2000-3000程度であると推定され、850–890°Cの温度条件でスラブから分離したことが示唆された。この温度は数値的手法に基づいた千島弧のスラブ表面の温度推定値よりも100℃以上高温であった。この結果と、最新の地震波トモグラフィの解析結果から、島弧会合部で湾曲したプレートの内部に亀裂が入り、そこに下部から高温のマントル物質が局所的に貫入して、その熱によって異常な量の流体相が生成され、マグマ活動が引き起こされたことが示唆された。