海洋地殻上部の玄武岩溶岩は海水との反応により元素循環に大きな影響を与えている.我々の研究グループは,自由水の存在を示唆する微生物が約100 Maの玄武岩溶岩の空隙中に生息していることを発見した.本研究では、微生物細胞の周辺の粘土鉱物が存在を明らかにし,その粘土鉱物の同定を目的とした.形成年代84-120 Maの玄武岩基盤のコアのうち,微生物細胞が見つかった2試料の薄片から微生物細胞近傍の超薄片を切り出し,エネルギー分散型分光装置(EDS)搭載の透過電子顕微鏡(TEM)で化学組成と回折パターンを測定した結果,微生物周辺の二次鉱物はKを含みFeに富む粘土鉱物であることがわかった.亀裂中の粘土鉱物をコア試料から水ひで回収し,粉末X線回折法でd001,d060の値を測定した結果,両試料の粘土鉱物はノントロナイトであることがわかった.両試料のノントロナイトの化学組成をTEM-EDSで測定すると,微生物細胞近傍の粘土鉱物と近い組成を示した.以上の結果から,微生物が生息する玄武岩の亀裂中で現在でも海水との反応が進み,>10 Maの海底玄武岩溶岩が元素の地球規模の挙動に影響を及ぼしている可能性が示された.