2016 年 25 巻 4 号 p. 503-510
本稿では,発達性ディスレクシアの認知機能に関する研究と,そこで展開されてきた理論を概観する。前半では,ディスレクシアの認知研究を牽引してきた単一原因理論(single-cause theories)について述べる。これらの理論では,認知または感覚・知覚のある特定の側面の障害が読みの困難の原因として仮定されていたが,個人間の多様性を説明できないという限界もあった。後半では,近年広く認められるようになってきた,発達障害の多重障害モデル(multiple deficit models)を紹介する。このモデルでは,子どもの発達はリスク因子と保護的因子の複雑な相互作用のサイクルとして捉えられている。以上のような研究の展開を踏まえ,今後の研究における検討課題(測定の問題と因果関係の問題)を提案する。最後に,発達障害の多重障害モデルから得られるディスレクシアの教育実践への示唆について議論する。