景観生態学
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日本全国を網羅する現存植生図の応用面から見た課題
日置 佳之
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2007 年 11 巻 2 号 p. 107-112

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抄録

日本全国を網羅する現存植生図の応用面から見た課題ついて, 植生図作成の歴史を振り返りながら検討した.1969年には文化庁によって日本全国を対象に縮尺20万分の1の現存植生図が作成され, 1973年に開始された自然環境保全基礎調査では, 環境庁 (当時) によって縮尺20万分の1の植生図が作成された.これらの植生図の作成は, 高度経済成長によって急速に損なわれつつあった国土の自然環境の現状を診断するとともに, 緊急に保全すべき植生を特定することに焦点が置かれていた。これに続く第2回・第3回自然環境保全基礎調査により, 1980年代には日本全国を網羅する縮尺5万分の1の現存植生図が完成し, 第4回・第5回調査において植生改変があった場所について衛星データを用いて更新が行われた.縮尺5万分の1現存植生図は, 地域計画や環境アセスメントに資することを念頭に作成されたが, 実際にもっともよく使われたのは, 自然環境保全地域の指定のための資料としてであった.第6回自然環境保全基礎調査からは, 全国を網羅する縮尺2万5千分の1現存植生図の作成が開始された.用かし, 調査・作図の作業量が膨大であるのに対して, 各年度の予算が十分ではないため, 完成に長年月を要することが懸念されている.近年, 現存植生図には, エコトープ図の作成や動物の生息環境評価のための基礎図などの新たな役割も期待されているが, 現状はそれに十分応えるものにはなっていない.今後は, 当面, リモートセンシングデータを用いた即時的な植生区分図の提供によって実用への要求に応えるとともに, リモートセンシングとエキスパートナレッジを併用した植物社会学的現存植生図の作成技術を開発することなどにより, 植生学的な情報の質の保持と短期間・低コストによる図化を両立させ, 現存植生図の自然環境基盤情報としての地位を確固たるものにすることが強く求められる.

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