法制史研究
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学界動向
朝鮮時代刑事法史の現在
田中 俊光
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2016 年 65 巻 p. 79-111,en6

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抄録

 本稿は、朝鮮時代(一三九二~一九一〇)のうち、甲午改革(一八九四)以前を対象として、刑事法史の主要な研究について整理紹介し、現状の課題を提示するとともに、今後の可能性について展望するものである。まず、朝鮮時代の刑事法史研究の現在に至るまでの流れについて、一九世紀から植民地期を経て、解放後の大韓民国における成果をたどりながら、その特徴を概観した。第二に、朝鮮の法制定における中国法の位置付けに対する研究の現在点について、朝鮮が明律を受容した姿勢との関係から説明し、それを踏まえて第三に、明律とは異なる朝鮮独自の刑罰法が形成された事例として、盗罪に対する処罰と、私的復讐における減死を挙げた。第四に、刑事裁判に関係するいくつかの司法機関の成立過程と役割について述べ、第五に、訴冤、行刑および保放・赦を含めた刑事裁判手続の具体的内容について、刑曹の主導する一般的な断獄手続と、義禁府が国王の指示を受けて主宰する手続に区分して説明した。最後に、朝鮮刑事法史の課題と可能性について、地方の刑事裁判や軍人の犯罪に関する刑事裁判の実態解明の必要性、朝鮮刑事法史における時代区分の問題、そして刑事法にとどまらず、これまで蓄積された朝鮮法史の研究成果を世界中の研究者に発信する標準的入門書の必要性を提示した。

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